AmazonやMicrosoftなどの企業は独自のクラウドコンピューティングサービスである「Amazon Web Services(AWS)」や「Microsoft Azure(Azure)」を提供しています。

Amazonが提供するクラウドコンピューティングサービス「Amazon Web Services(AWS)」やMicrosoftが提供する「Microsoft Azure(Azure)」は業界内で大きなシェアを維持しています。しかし、AWSやAzureには独占禁止法に抵触するのではないかという指摘が集まっており、これを受けてイギリスの競争市場庁(CMA)が調査に乗り出したことが明らかになりました。

CMA launches market investigation into cloud services - GOV.UK

https://www.gov.uk/government/news/cma-launches-market-investigation-into-cloud-services



UK regulator launches antitrust probe into Microsoft and Amazon cloud services | Network World

https://www.networkworld.com/article/3708209/uk-regulator-launches-antitrust-probe-into-microsoft-and-amazon-cloud-services.html



Ofcom refers UK cloud market to CMA for investigation - Ofcom

https://www.ofcom.org.uk/news-centre/2023/ofcom-refers-uk-cloud-market-to-cma-for-investigation

Cloud Computing Monopolies Challenged: UK Regulator Takes on Tech Giants

https://www.linkedin.com/pulse/cloud-computing-monopolies-challenged-uk-regulator-takes-hansford

イギリスの通信規制当局のOfcomは2023年4月に、AWSとAzureについて「クラウドコンピューティングサービス市場における競争を妨げており、クラウド間の切り替えを困難にすることで、市場でのトップシェアを維持しています」と主張しました。

Ofcomの調査では、イギリスのクラウドコンピューティングサービスのシェアにおいてAWSとAzureが占める割合は約60〜70%と、次点であるGoogleのクラウドコンピューティングサービス「Google Cloud Platform(GCP)」のシェア率5〜10%に対して大差を付けていることが報告されています。



AWSとAzureがイギリスのクラウドコンピューティングサービス市場において寡占状態にあることの懸念点としてOfcomは、「高額なデータ通信料」「相互運用性の制限」「確約利用割引」を挙げています。

「高額なデータ通信量」についてOfcomは「クラウドからデータを転送する際に顧客が支払うデータ通信量がAWSやAzureのような大手クラウドコンピューティングサービスでは、競合他社のサービスと比べて非常に高額になっています。データ通信量が高額になることで、顧客は複数のサービスを同時に契約したり、別のサービスに切り替えたりすることが困難になっています」と指摘しています。

また「相互運用性の制限」については「AWSからAzureに切り替えるといった事業者をまたぐ切り替え操作を実行する際には、事業者ごとにシステムが異なるため、切り替え作業が非常に困難になります。このような相互運用性の欠如は、顧客の囲い込みにつながり、他のサービスへの移行を困難にするという点で競争を阻害しています」と述べています。



さらに「確約利用割引」についてOfcomは、「一貫したコンピューティング使用量で1年間もしくは3年間の長期契約を結ぶことで最終的なサービス使用コストが安価になるというAWSの「Compute Savings Plans」などの仕組みは、顧客が他者のサービスに切り替えることを困難にするため、反競争的な行動に該当する可能性があります」と指摘しています。

Ofcomの市場調査担当ディレクターであるフェルガル・ファラガー氏は「一部のイギリス企業は、クラウドコンピューティングサービスを提供するプロバイダーを切り替えることや、複数のサービスを契約する際に、最もコストが下がる組み合わせが見つからないことを懸念しており、市場における競争がうまく機能しているかどうかは疑問です」と述べ「そのため、私たちはイギリスにおけるクラウドコンピューティングサービス市場の現状をCMAに訴えてさらなる調査を行い、企業の顧客が適切なクラウドコンピューティングサービスの恩恵を受け続けられるような取り組みを行っています」と報告しています。

Ofcomは2023年10月5日にCMAに対して市場調査を依頼。これを受けてCMAは、AWSやAzureについて競争上の懸念があるかどうかや、懸念点が存在する場合、どのような措置を行えばイギリスの顧客に対して適切なサービスを提供できるかどうかについての調査を開始しました。

CMAのサラ・カーデルCEOは「CMAは、Ofcomが我々に調査依頼を出したことを大いに歓迎します。イギリスではSNSの利用からAIモデルの開発まで、多数のオンラインサービスがクラウドコンピューティングサービスを使用しており、その売上高は75億ポンド(約1兆3000億円)にも上ります。イギリスでは、多くの企業がクラウドサービスに対して依存状態にあることから、この市場で適切かつ効果的な競争が行われることが不可欠です」と述べています。



一方でAmazonの広報担当者であるハリー・ストライト氏は「私たちはOfcomによる予備調査の結果に納得していません。Ofcomは私たちが提供するサービスや割引について誤解しているようです」と反論しています。また、「調査についてCMAとAmazonは互いに協力しますが、不当な介入は顧客と競争に意図しない損害をもたらす可能性があります」と指摘しています。

CMAによる調査は2023年10月5日から開始され、2025年4月4日まで行われる予定です。