相場展望9月11日号 米国株: 上昇支持線に支えられているが、ダウ34,400ドルが分かれ目 中国株: デフレ懸念 日本株: 円安進展でインフレ上昇⇒実質賃金マイナス⇒景気後退懸念
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)9/7、NYダウ+57ドル高、34,500ドル(日経新聞より抜粋) ・前日までの2日間で+400ドル近く下げた後で、ディフェンシブ株を中心に買いが入った。半面、米金融引締めの長期化観測が根強い。中国政府の規制強化への懸念からスマホのアップルが売られ、投資家心理の悪化につながったことも相場の重荷となった。 ・米国の物価高止まりへの懸念が根強く残るなか、国内外の景気の先行き不透明感が意識されやすかった。業績が景気に左右されにくいディフェンシブ株に買いが入った。バイオ製薬のアムジェンが+2%上昇し、医療保険のユナイテッドヘルスや製薬のメルク、医療・日用品のJ&Jも高い。アナリストが投資判断を引上げた外食のマクドナルドも買われた。 ・NYダウの上値は重く、下げに転じる場面もあった。朝発表の週間の米新規失業保険申請件数は21.6万件と、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想23万件を下回った。4〜6月期単位労働コストは、前期比+2.2%上昇と市場予想+1.9%を上回った。市場では「コアインフレは高止まりしそうで、追加利上げ観測を高める」との声が聞かれた。 ・米長期金利の先高観があるうえ、中国政府による米ハイテク企業を対象とした規制強化への懸念もハイテク株売りにつながった。スマホのアップルは続落し、▲3%安で終えた。同社のスマホ「iPhone(アイフォーン)」を巡り、中国政府が政府系機関や国有企業に対しても使用を禁じることを検討していると伝わった。市場に「規制対象が他の米ハイテク企業にも広がるとの不透明感がくすぶった」とも見方もあった。 ・ハイテク株比率が高いナスダック総合指数は4日続落し、エヌビディアは▲2%安、クアルコムが▲7%安となるなど、半導体関連株の下げが目立った。【前回は】相場展望9月7日号 米国株: 原油高と金利上昇が重荷で、株式は割高感が増し続落 日本株: 円安効果で輸出関連株主導の株価上昇⇒過熱感 外国人は先物市場で大量の売り⇒調整局面入り接近?
2)9/8、NYダウ+76ドル高、34,577ドル(日経新聞より抜粋) ・足元で下げが目立っていたハイテク株の一角などが買い直された。一方、原油高によるインフレ高止まりで米連邦準備理事会(FRB)の金融引締めが長期化するとの見方が重荷となり、NYダウは下げる場面もあった。 ・ソフトウェアのマイクロソフトや顧客情報管理のセールスフォースなどが買われ、NYダウを支えた。中国が海外製スマホの規制を強化するとの懸念から前日までの2営業日で▲6%あまり下落したアップルも小反発した。 ・NYダウは+130ドル近く上げる場面があったものの、午後に上げ幅を縮小した。米原油先物相場の上昇が続き、改めてインフレ警戒感が広がった。米長期金利が一時、前日比+0.02%高い(債券価格は安い)4.26%を付け、株式の相対的な割高感につながった。 ・来週9/13に8月の消費者物価指数(CPI)、9/14に8月小売売上高の発表がある。インフレや個人消費の動向を見極めたいとの雰囲気も買い手控えにつながった。 ・NYダウでは、バイオ医薬品のアムジェンや映画・娯楽のディズニーが上げた。一方、航空機のボーイングが下げた。
●2.米国株:NYダウは上昇支持線に支えられているが、34,400ドル割れに注目
1)NYダウは、3/13底値31,819ドルから始まる上昇支持線に支えられている。 ・9/6 は34,443 ドルと支持線34,400ドルに接近、反発し、9/8は34,577ドル。 ・ただ、短期的には直近高値8/1の35,630ドルからは下落局面にある。 ・したがって、チャートからは、上昇支持ラインの34,400ドルを上回り続けるか、割り込んで下落するかに注目したい。●3.米株投資家は失望へ、先行き楽観し過ぎ=モルガンS、ウィルソン氏(ブルームバーグ)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)9/7、上海総合▲35安、3,122(亜州リサーチ) ・内外環境の不透明感が嫌気された流れとなった。 ・米国の金利高や、中国の景気懸念がマイナス材料だ。インフレ高止まりの警戒感が続くなか、昨夜の米債券市場では米10年債利回りが連日で上昇した。 ・外国為替市場では、対米ドルの人民元相場が下落基調で推移している。中国本土からの資金流出が懸念される状況だ。 ・また、取引時間中に報告された8月の中国の貿易統計では、前月に続く輸出入の伸び縮小が明らかにされた。 ・米中関係の悪化懸念も強まった。米国の厳しい輸出規制にもかかわらず、華為技術(ファーウェイ)が国産の先進半導体を搭載して3年ぶりに第5世代(5G)移動通信機能を復活させたことを受け、米当局は先端技術の対中輸出制限を厳格化するとの見方が広がっている。 ・また、一部の中国政府機関は情報漏洩の恐れがあるとして、米アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)」を職場に持ち込まないよう職員に指示したとする関係筋情報も流れた。 ・業種別では、ハイテク関連の下げが目立ち、医薬品も安く、消費関連も冴えず。金融・素材・公益・不動産・インフラ関連なども売られた。●2.中国株:デフレ懸念
1)中国の8月消費者物価指数は+0.1%上昇と、久しぶりのプラス圏に浮上したが、8月生産者物価指数は▲3%の下落状況が続いている。2)不動産バブル崩壊で、消費支出は抑制され、中国経済は失速懸念が高まる。
3)生産拠点の海外移転と、中国脅威論が高まり、輸出はマイナス成長へ。
●3.中国8月貿易輸出は前年比▲8.8%減、輸入▲7.3%、予想ほど減少せず(ロイター)
1)4カ月連続のマイナス。(TBS)●4.中国物価8月は+0.1%と、プラス転換(共同通信)
1)足元では中国恒大集団や碧桂園などの不動産大手の経営難が深刻で不動産不況が起きており、消費マインドの本格回復は見通せない。2)習指導部はデフレを否定。CPIが8月以降は上昇に転じ、年末は+1%程度になるとの見通しを示している。
●5.中華民族の精神損なう行為を禁止、中国の法改正案に懸念相次ぐ(ロイターより抜粋)
1)中国の「治安管理処罰法」の改正案に、「民族の精神を損なう」発言や服装とシンボルを禁止する内容が盛り込まれた。2)法律専門家などから「もし全人代常務委員会がこの条文を承認すれば、必然的に法執行機関と司法がトップの意向に従って人を逮捕し、有罪判決を下すという結果を招く。弊害は際限なく広がるだろう」と警告した。
3)多くの人々はSNSに、法改正が検閲の強化につながるとの懸念を表明した。
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)9/7、日経平均▲249円安、32,991円(日経新聞より抜粋) ・前日の米ハイテク株安などを背景に、日本株は短期的な過熱感から目先の利益を確定する売りに押された。米株価指数先物が日本時間9/7午後の取引で下げると、日経平均も下げ幅を広げ節目の33,000円を下回った。 ・9/6の米ハイテク株安の流れを引き継いだ。同日発表の米経済指標が市場予想に反して景況感の改善を示し、米連邦準備理事会(FRB)の金融引締めが長期に及ぶとの観測が強まった。東京市場でもアドテストや村田製などのハイテク株に売りが出た。 ・日経平均は前日までの8営業日で+1,600円超上昇していたため、高値警戒感から売り圧力が強かった。9/7のアジア株安や米株価指数先物の軟調に連れて、海外の短期筋が株価指数先物に売りを出し、日経平均は下げ幅を広げた。 ・日経平均は朝安後に上昇する場面もあった。外国為替市場で円相場が一時147円台後半の2022年11月以来の安値を付けた。自動車など主力株に輸出採算の改善を期待する買いが入ったが、買い一巡後は売りに押された。 ・個別株では、NTN・ニデック・資生堂が下げた。一方、日本紙・JR東日本・三菱重が高い。2)9/8、日経平均▲384円安、32,606円(日経新聞より抜粋) ・米アップル製品の中国での使用制限などを背景に、米中の対立の激しさを増すとの懸念が広がった。投資家心理を冷やし、幅広い銘柄が売られた。 ・日経平均は午後に下げ幅を▲480円近くまで広げた。東エレクが一時▲4%超下落し、全体を押し下げた。米中対立で、中国景気の回復がさらに遅れるとの警戒から、中国経済の影響を受けやすいファナック・安川電・資生堂などの下げも目立った。 ・今週は株価指数先物・オプション9月物の特別清算指数(SQ)の算出に絡む、思惑的な買いが入っていた面もあり、週末を前に短期筋と見られる手仕舞い売りも広がった。 ・半面、日経平均が32,500円近辺まで下げると、値ごろ感から買いも入り、下値を支えた。ホンダは株式分割考慮後で上場来高値を更新した。医薬品の一角も買われた。 ・個別株では、ダイキン・ファストリ・テルモ・オリンパスが下落した。一方、アドテストや第一三共・塩野義・アサヒが上昇した。
●2.日本株:円安でインフレ(物価上昇)⇒実質賃金減少⇒消費支出抑制⇒景気後退へ
1)日米長期金利差は拡大し、円安が進展 ・日本の輸入は、原油と食料品・飼料などのウェートが大きい。つまり、円安は物価上昇に直結することになる。原油高で、運輸業界は瀕死の状況に向かっている。学校給食業者の自己破産問題で、給食できない事態に陥っている学校がある。学校給食の材料費値上がりが前年比38%になっているとのNHK報道があった。 ・米欧はインフレ抑制のため、金利を引上げている。植田・日銀総裁は、データを見てから金融政策を判断すると言っている。判断の遅れが、日米金利差の拡大で、円安が進む。円安効果もあって、物価上昇は急激に上昇している。2)物価上昇は、消費支出の減少を招き、日本のGDP成長率が落ち込む ・岸田首相は今春の賃上げにシャカリキになったが、大企業を中心に賃上げができただけである。賃金の上昇率はやっと3%台に乗っただけである。物価上昇率が大きく上回っており、庶民は実質賃金のマイナスに喘いでいる。値上げ効果で、政府は消費税を中心に増税となっている。ガソリン価格の2重課税を放置してる。にもかかわらず、政府・自民党は財務省の増税路線に乗っかかっている。 ・多数の国民が実質賃金のマイナスで苦しみ、結果として消費支出のマイナスが目に見えるところまでやってきている。やがて、日本の国内総生産(GDP)は影響を受け、成長率は著しく落ち込むだろう。
3)岸田首相の念頭にあるのは、自分の政権維持だけだ ・大多数の国民が貧しくなる方向にあるのに、海外では2兆円を大きく上回る援助に余念がない。 ・国民生活が豊かになるような政治をやってもらいたい。 ・そうしないと、次回の総選挙で国民からしっぺ返しを食らう可能性がある。
4)消費支出減少から、日本の景気後退へ ・日本のGDPの6割超が消費支出に支えられている。このままいけば、景気後退へと進むだけだ。 ・米国の長期金利はさらに上昇し、日米の金利格差は拡大する。つまり、円安はさらに進展し、物価上昇(インフレ)は歯止めがかからないようになるのは目に見えている。 ・つまり、インフレで消費支出が減少し、日本の景気後退が進行することになる。
5)いまこそ、政府・日銀は政策転換をまったなしで断行すべきだ