タレント、歌手、そして俳優とジャンルレスに活躍を続けるファーストサマーウイカ。2019年1月放送のバラエティ番組『女が女に怒る夜』(日本テレビ系)でのバラエティ番組初登場から、まだ5年未満だが、一気に駆け上がった人気者への階段は上る一方。特に俳優としての活動は目覚ましく、来年は大河ドラマ『光る君へ』での清少納言役が控える。

スクリーンでは、ジャパニーズホラーの“ヒロイン”と言っていい貞子を世に放った『リング』の中田秀夫監督によるホラー最新作『禁じられた遊び』(9月8日公開/上映中)で、新ホラーヒロインをパーフェクトに演じ切った。ファーストサマーウイカが演じるのは、夫・直人(重岡大毅)と、ひとり息子を残して事故で命を落とした妻・美雪。生前、美雪は、直人とかつての同僚・比呂子(橋本環奈)の仲を勘ぐっていた……。

貞子を超える可能性を秘めたヒロインを生み出した、ファーストサマーウイカを直撃。 また、ジャンルを超えて活躍する彼女が、「肩書きは何ですか?」との問いに自身も悩むと明かしつつ、「現時点で定めることに、利があるとも思えない」と率直に語った。

ファーストサマーウイカ 撮影:望月ふみ

○■最初は「私でいいんですか?」と確認した

――美雪は主人公ふたりに迫る、『リング』でいえば貞子的ポジションですが、いやあ、素晴らしかったです。

良かったです! ジャパニーズホラーの新しいアイコンとして頑張りたいと思いました。ジャパニーズホラーって、恐怖と一緒に、哀しさとか切なさとか、美しさがあるんですよね。そして同じくらい、面白さや人間の滑稽さが感じられる。またそれが緊張と緩和の絶妙なバランスの上にあって、突然恐怖が訪れたりする。その塩梅をあやつる中田監督の凄さを改めて実感しました。でも最初は、「美雪役、私でいいんですか?」と心配で確認させていただいたんです。

――そうなんですか?



私が怨霊として恐怖を担えるのだろうか、と不安だったのですが、ただ脚本を読んで演じていくうちに、自分と美雪には共通項があるなと感じて。霊に感情移入することってあんまりないと思うんです。普段、ホラー映画を観て感情移入するのは、襲われて逃げまどう側ですよね。それで怖がったり驚いたりする。けれども、すべてが嫉妬心にむしばまれているような美雪の行動原理みたいなものが、私にはよく理解できて、どの登場人物よりも共感できたんです。だんだん最初に感じた心配がなくなっていきました。

――最初に出されたコメントの中に「生前の綺麗な美雪でいられる時間はほんの一瞬でした」とありましたが、こちらとしては、美雪がどんどん美しくなっていくように見えました。

わあ、嬉しい。あのメイク、盛れるんです(笑)。怨霊メイクって素晴らしいです。基本的に特殊メイクは、すべてメイクさんにやっていただきましたが、顔の部分は自分自身でメイクしました。美雪のメイクは複数ある形態の流れで変わっていくんですが、「この方が怖いかな、こっちのほうが目ヂカラがあるかな」といったことを、全身のメイクに合わせながら自分でも描いていきました。

――美雪のビジュアルで、「実はこんなところもこだわってるんです」といったポイントがあれば教えてください。

全身に施されたメイクでは、植物のツタがはっていて、体のいたるところから花が咲いています。ものすごく細かく作ってくださっているのですが、それは美雪の趣味がガーデニングだからなんです。もともと直人がお手製のお庭を作ってくれていて、そこで息子の春翔と遊んだり。幸せを絵に描いたようなマイホームだった。これは私の勝手な想像なんですが、そうしてガーデニングを育てながら、嫉妬心や憎しみといった汚い気持ちを、「ダメダメ」と抑えつつ花に水をあげたりしていたのかなと。なので、蘇ったときに、その花たちが全身を覆って、ツタが絡まった状態で蘇ったのかなと考えていました。

○■重岡大毅も橋本環奈もイメージ通りの明るい方

――ホラーの現場は内容に反して明るいと聞くことが多いですが、本作はいかがでしたか?

終始和気あいあいとしていて、演者もスタッフさんも明るく楽しい方ばかりで良い雰囲気の現場でした。ほかのホラーの現場は分かりませんが、真っ暗な中で撮影をしたりしますし、もともと怖いものが好きな方も多いですし、“実際に呼んでしまう”とかも聞きますよね。なので逆に一生懸命、明るくしてるのかもしれません。怖いときって、歌を歌ったりするじゃないですか。本当は、きっとみんな怖かったのかもしれません。楽しいように振る舞って、“来ない”ようにしてるんじゃないですかね(笑)。

――最初にお祓(はら)いはされたのでしょうか。

お祓いしました。でも、重岡さんは画面越しのリモートでのお祓いをされていました。聞いたことないですよね、リモートお祓い(笑)

――そうなんですか! 一番直接お祓いが必要だった気もしますが。

でも無事に映画も完成しましたし、令和のジャパニーズホラーは、リモートでのお祓いでも効くみたいです(笑)



――重岡さんとは夫婦役でしたね。

重岡さんは、息子・春翔役の正垣湊都くんとコミュニケーションを取られていたので、私はそれをインスタントカメラで撮ったりして。あとは、音楽の話とか、格闘技の話とか、楽しくお話させていただきました。ただ、直人というキャラクターはどんどん病んでいく、心身ともに疲弊していくセンシティブな役柄でもあったので、ストイックな一面もあって、さすがだなと思いました。

――橋本さんとは、美雪役で嫉妬の怨念を向ける相手として共演しました。

橋本環奈さんも、イメージのままの方です。明るくて、裏表がなくていつも笑顔で楽しい! 関西人かな? と思うくらいテンポも速い。“速い”でいうと、環奈ちゃんはバラシ(帰り支度)がめっちゃ速いんです! 「お疲れ様でした〜」ってなった瞬間、もう車に乗り込んでるみたいな(笑)。体感3秒くらい。日本一バラシの速い女優さんなのではと思ってます。めちゃくちゃカッコいい。

○■“念の強さ”を「感じ取っていただいたのかな」

――オファー時は驚いたとのことでしたが、改めてベストキャスティングだったと思います。

おそらくは、“念の強さ”みたいなものを、私から感じ取っていただいたのかなと。今回の美雪の役作りでも、目の力は絶対に殺さないように「生きているときよりも、より生きてやる!」と。「絶対に許さない!」といった目の力を出したいと思って、メイクも芝居も取り組みました。“念の強さ”は、その人自体が持っているベースみたいなものもあると思うんです。たとえば優しい人は、優しい役柄のときにより増幅される気がします。おそらく私は、根に怖さを孕んでると思うんです。

――そうなんですか?(苦笑)

「売れてやる!」とか、「儲かってやる!」とか。バラエティ番組なのか、ほかの作品なのか分かりませんが、そういう“念の強さ”みたいなものを感じ取っていただいたのかなと。それを増幅させようと臨んで、結果ちゃんと画になって見えたので、安心しました。美雪を見て、怖いし、追いかけられて嫌だなと感じたので(笑)

――「売れてやる!」といった念がご自身で強いとのことでしたが、俳優としても音楽もバラエティも、さまざまな場で活躍されています。そのなかで、ご自身としては「これが本業」といった意識というのはあるものなのでしょうか。

それがないんです。その時その時で、自分がやりたいことだったり、求めてもらえることが変化しているので。お仕事が来ているときは、そこにニーズがあるんだなと感じますし、認めていただけているんだなと思います。

○■ピックする人が何を見たかによって自分の道が決まる

――「何を」というより、「求められること」が嬉しいのでしょうか。

バラエティ番組に出させていただいて、そこでハネてテレビの世界に入れたのですが、そのときは、ガールズグループのメンバーでした。歌を歌っていたのに、バラエティで受け入れられた。そこに特化した何かを持っていたのかもしれないし、誰かがそこにニーズを見出してくださって。アイドルのオーディションに受かったときも、自分はもともとは役者を目指していたんです。その時々で、ピックする方が何を見ているかによって、自分の道が決まってきてるんですよね。



――「役者を目指してきたんだからアイドルは嫌だ」とか、「歌をやっているんだからバラエティなんて嫌だ」と、拒否することはしてこなかった、とか。

多分もともと何でも挑戦したい質なんです。どちらかと言うと、ひとつのことができない、というのが近いかもしれません。

――好奇心が旺盛なのでは?

もちろんベースに好奇心があると思います。でも、たとえば「私はミュージシャンなんで」と言いきれる方というのは、すごいな、素晴らしいなと思うんです。そう言えるアイデンティティを持っているということなので。私にはそれがなくて、それが1番の悩みでもあるんです。

――むしろそういう人が多いかもしれません。

あなたの肩書きは何ですか? と問われたときに、言えるものがない。言えたらいいなとは思いますが、無理して探すこともないです。人生の最終地点、死ぬ間際に「自分はこういう人間だった……な……(パタリ)」と総括できたらOKじゃない? って。枠組みや肩書きにとらわれずやれたら幸せですね。

■ファーストサマーウイカ

1990年6月4日生まれ、大阪府出身。2013年に「BiS」のメンバーとしてメジャーデビュー(翌年解散)。その後に結成したBILLIE IDLEとして活動中の2019年頭に初めてバラエティ番組に出演し、コテコテの関西弁キャラクターで一躍人気者となり、現在ではラジオやドラマなど、さまざまなジャンルにわたって活躍している。主な出演作にNHK連続テレビ小説『おちょやん』(20年)、ドラマ『恋です! 〜ヤンキー君と白杖ガール〜』(21年)、『ファーストペンギン!』(22年)、映画『地獄の花園』(21年)など。24年の大河ドラマ『光る君へ』では清少納言役で出演が決まっている。

望月ふみ 70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビュー取材が中心で月に20本ほど担当。もちろんコラム系も書きます。愛猫との時間が癒しで、家全体の猫部屋化が加速中。 この著者の記事一覧はこちら