先日、YouTubeのターゲティング広告と子どもの安全プロトコルに関するリポートが、アダリティクス・リサーチ(Adalytics Research)によって発表された。そしていま、このリポートの内容をめぐって、同社と広告業界最大のメディアセラーのあいだで舌戦が繰り広げられている。8月17日に発表された同リポートによると、子どものオーディエンスに向けて制作されたターゲティング広告が、YouTubeチャンネルで配信されているという事実が確認されたという。こうしたモデリングは、親の同意がないかぎりは禁止されている。YouTubeの親会社であるGoogleは、この調査結果に「大いに異議を唱えて」いる。もしこれが本当なら、こうしたターゲティング広告はGoogleの方針に違反するものだ。また、連邦取引委員会(Federal Trade Commission:以下、FTC)が定める児童オンラインプライバシー保護法(Children's Online Privacy Protection Act:以下、COPPA)の要件を、YouTubeはどこまで満たしているのかという疑問も生じてくる。

Googleは反発も政治家は調査を要請

「誤解を招く、間違いだらけのリポートをアダリティクスが発表するのは、ここ何週間かのうちで2度目だ」と、Googleの広報担当者は書面で述べている。「パーソナライズド広告がYouTubeキッズ(YouTube Kids)で許可されたことは一度もない。また2020年1月には、その適用範囲は、『子ども向けに制作された』コンテンツをYouTubeで視聴する全年齢のユーザーに拡大されている」「このリポートで述べられていることは完全に間違っている。Cookieの存在のみに基づき、浅はかな結論が導き出されている。YouTubeキッズでも、Cookieは不正の検出とフリークエンシーキャップの目的で広く使用されているが、どちらの目的での使用もCOPPAの下で認められている」しかし、この調査はすでに、一部の政治家の支持を獲得しているようだ。それぞれ強い影響力を持つ委員会のメンバーである、エドワード・J・マーキー上院議員(民主党/マサチューセッツ州)とマーシャ・ブラックバーン上院議員(共和党/テネシー州)が、連名の公開書簡をFTCに送り、今回の結果を引き合いに出して、同当局に「緊急調査」を要請しているのだ。

メディアバイヤーはYouTube広告の利用を懸念

同様に、オランダのポール・タン欧州議会議員も、同国の議会は今回の調査結果を懸念していると述べている。そして、未成年者はパーソナライズド広告の対象として追跡されるべきではないとも述べている。「こうした見解は新しい法律であるデジタルサービス法(Digital Services Act:以下、DSA)にも記されている。今回のリポートから、Googleがどんな基準も満たしていない、自社の方針さえも守っていないことは明らかだ」と、同議員はメールによる回答のなかで語っている。「一刻も早くDSAを適用しなければならない。言われないかぎり、Googleがブレーキをかけないことは、今回のリポートからも明らかだ」。同様に、Googleも自社の首脳陣を動員して、その言い分を公にしている。同社グローバル広告担当バイスプレジデントのダン・テイラー氏は、Google幹部の公的発言にしては珍しく断定的な口調で、あからさまな反論を述べている。
ー 本日、@NYTimesがアダリティクスによる新たな欠陥調査を報じている。これは、同社がこの夏、Googleの広告に対して行った2回目の誤った調査だ。アダリティクスが完全に間違っているか無視している、YouTubeでの子供たちの保護方法に関する6つの事実を紹介しよう。
その一方で、メディアバイヤーは助言に注意を払うことに決めたようだ。インサイダー(Insider)によれば、IPGメディアブランズ(IPG Mediabrands)はクライアントに「プライバシー警告」を出し、アダリティクスが得た今回の調査結果を受けて、Googleの広告プロダクトであるパフォーマンス・マックス(Performance Max)を使ったキャンペーンの一時停止を「検討」すること(あくまで「検討」であって「実施」ではない)をすすめたという。この記事が最初に配信されたすぐあとに、IPGメディアブランズの広報担当者から米DIGIDAYに連絡があり、このガイダンスはドラフトとして社内メモに書かれたものであって、クライアントに配布されたわけではないことが明らかにされた。この広報担当者が提供してくれた声明によれば、これは「組織としての大局的な見解を反映したものではない」ようだ。結局、この文言は取り消され、クライアントへ送られることはなかった。

Googleの反論は深みに欠ける

この警鐘の輪には他社も加わりつつある。これは、YouTubeでの出稿に今後さらなる精査の目が向けられる兆しかもしれない。メディアコンサルタンシーのイービクイティ(Ebiquity)で最高戦略責任者を務めるルーベン・シュレウス氏によれば、今回の調査結果に対するGoogleの反論は深みに欠けるという。「(2023年6月下旬から発表されてきた2つの調査結果における)アダリティクスの主張が誤りであることを、Googleはまったく証明できていない。Googleは、アダリティクスをコーナーに追い込んで、同社の主張はでたらめだと必死でアピールしているだけだ」その一方で、コンサルタント会社、CvEのパートナーであるロバート・ウェブスター氏は、Googleが出してきた一連のコメントは「立証できるものなど何ひとつない」的な反応と解釈している。結局のところ、アルゴリズムによるデータ駆動型の意思決定を監査することは難しいという。「Googleが行ってきた主張には、行動ターゲティングは周知のとおり困難であるなど、うなずけるところもある」と、同氏は語る。「実際にはターゲティングエンジンが行ったことを、いったいどうやって証明しろというのか? もっとも、彼らがそれを頼みの綱にしている可能性もあるが」。ウェブスター氏はさらにこう続ける。「Googleの言い分にも一理あるとは思うが、同時にこんな疑問もわいてくる。『フリークエンシーキャップを目的としてCookieを通じてデータを集めたいなら、行動ターゲティングにも幅広く使われているタグではなく、別のタグを使うべきなのではないか?』」。広告主はなぜ、YouTubeでの広告キャンペーンの成果を直接測定できないのか(YouTubeパートナー・メジャーメント[YouTube Partner Measurement]スキームは、アズ・データ・ハブ[Ads Data Hub]によって仲介されている)。この疑問に対してGoogle首脳陣が返す、よくある答えのひとつは、「ユーザープライバシーの保護」だ。

なぜプライバシーが優先されないのか

テイラー氏は8月18日付けのブログ投稿のなかで、広告主と未成年者の親の両者に断固として責任があるという、自身の主張の要点を述べている。「Googleが広告目的でCookieと子ども向けコンテンツの視聴を結び付けることはない。また、子ども向けコンテンツにおける視聴者のアクティビティも広告のパーソナライゼーションには使えない」と、同氏はその投稿のなかで述べている。「これらのCookieを使っても、そのユーザーが誰なのか、どんな動画を見たのかを、ブランド広告主は特定できない」。アダリティクスが出した今回の調査結果について議論するときに、Googleの方針よりも子どものプライバシーが優先されないのはなぜなのだろうか? そう疑問を投げかける人物もいる。動画広告協会(Video Advertising Bureau)でエグゼクティブバイスプレジデントを務めるダニエル・デラウロ氏だ。同氏はこう語る。「世界で最も強大で、最もデータに精通した企業のひとつであるGoogleなら、どのメディア企業にも期待されるプライバシー基準を固守して管理できるはずだ」。[原文:Advertisers have lingering questions for YouTube after the latest controversial report on child safety]Ronan Shields(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)