ハワイのマウイ島で発生した山火事は、島に壊滅的な被害をもたらした。そしてこれは、コンテクスチュアルターゲティング企業であるピア39(Peer39)がこのニュースとの関連性を懸念して、顧客である広告主に対して「安全でない」とのラベル付けを行った最新のトピックでもある。

米DIGIDAYが入手した、2023年8月15日にピア39が広告主に送った電子メールによると、同社は、彼らのメディア購入から「山火事に関するネガティブなハワイ・マウイ島の山火事報道をブロックする機能」を顧客に提供し始めたという。また、これは広告主の要望を受けて行われたもので、ほかの顧客にも同じサービスを積極的に提供しているようだ。

本記事掲載後にDIGIDAYに提供された声明で、ピア39の最高経営責任者(CEO)であるマリオ・ディエズ氏は、「この戦略は山火事報道を完全にブロックするのではなく、感覚的にずれた広告を避けるように設計されている」と述べ、「これにより、広告主は同じパブリッシャーに広告費を振り向けることができる。ただし、それは機密性のない環境に限られる」と言い添えた。

以上、ピア39が広告主へ送った電子メールの抜粋

「マウイ島で発生した大規模な山火事のニュースを受けて、我々は先週から状況を注視してきた。我々のクライアントの多くが、このコンテンツへのランディングを防ぐため、ブランドセーフティのカスタムソリューションを求めている。このような状況が続くなか、クライアントがブランドの安全性を保てるよう、山火事のネガティブなニュースを避けるためにカスタムセグメントを作成した。これは、モバイルアプリやOTTおよびCTVをカバーする標準の既製セグメントと並んで、広告が適切な環境に掲載されることを保証するものだ」


手当たり次第に記事をブロックすることの危険性



DIGIDAYがメディアバイイングエージェンシーやブランドセーフティ検証会社各社に、マウイ島の山火事が広告クライアントの要請で特別にブロックされているのかどうか尋ねたところ、どこもコメント拒否か無回答だった。ガーディアン紙(The Guardian)、ワシントン・ポスト紙(The Washington Post)、ロサンゼルス・タイムズ紙(Los Angeles Times)を含むいくつかのニュースパブリッシャーも、この記事についてのコメントを拒否した。

匿名希望のあるメディアバイイングエージェンシーの広報担当者は、「マウイ島の山火事に関する報道のほとんどがおそらく事実に基づいたものであり、ブランドセーフティに対する真のリスクではないことから、客観的なニュース記事をブロックするようクライアントに勧めることはない」と述べた。しかし、ブランド適合性に対するリスクの閾値が低い広告主は、このコンテンツを避けるかもしれない。

あるニュースパブリッシャーは、マウイ島の山火事報道について「とくにそのようなことは聞いていない」と述べた。

ニュースパブリッシャーのサロン(Salon)でCROを務めるジャスティン・ウォール氏は、個々のドメインのCPMを見て、ピア39のような企業がクライアントのために山火事報道をブロックした影響を測定することはできないとしながらも、「報道機関は、我々が生きる現代の重要なストーリーを伝える必要がある。そのためにニュースルームへ報酬を支払う必要もある。広告主がニュースサイクルにおける重要な問題を広範囲に、手当たり次第にブロックすることを選択した場合、広告主が顧客にリーチするために必要な広告インベントリー(在庫)として依存している組織そのものを傷つけることになる」と語る。

天秤にかけられる収益性と無神経さ



マウイ島の山火事は、広告主のブランドイメージにとって好ましくないというラベル付けが行われた最新ニュースのひとつにすぎない。このほかにも、2022年9月の英国のエリザベス女王の死、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件、2022年6月にロー対ウェイド裁判を覆した米連邦最高裁の判決など、最近も好ましくないというラベル付けがされたトピックがあった。

広告ブロックに正当な理由があることもある。自然災害のニュース速報に対してコミカルなコマーシャルを流すことは、視聴者から無神経だと批判される可能性がある。しかし、反対論としては、ニュース性の高い出来事、とくにマウイ島の山火事のケースのような非政治的なニュース報道から広告を削除することは、事実をベースとする批判的ジャーナリズムを萎縮させ、ニュースパブリッシャーはそのために広告収入が実際に打撃を受けている、というものだ。

ガーディアン紙のルイス・ロメロ氏は2023年初め、DIGIDAYに対して「2020年夏のブラック・ライブズ・マター運動とジョージ・フロイド殺害事件の報道では、広告主のブロックリストにより収益化率が30%下がった」と語った。また、ガーディアン紙のコマース戦略および運営ディレクターであるキャサリン・ル・リューズ氏によると、英国のプログラマティック広告ビジネスでは、コンテンツにとって安全でないとのフラグが立てられると、CPMが26%減少するという。

[原文:Ad tech firm Peer39 is letting advertisers block Maui wildfire coverage]

Kayleigh Barber(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)