マテルのファッションドール「バービー」を題材にした映画「バービー」が2023年8月11日から公開されます。マーゴット・ロビーがバービーを、ライアン・ゴズリングがケンを演じる本作は、「バービー人形の映画」でありつつ、その言葉からは予想もつかないような中身となっています。本作のプロデューサーであるデイビッド・ヘイマン氏に話を伺う機会があったので、いろいろ聞いてみました。

映画『バービー』オフィシャルサイト

https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/



インタビューに応じてくれたデイビッド・ヘイマン氏。



GIGAZINE(以下、G):

映画「バービー」は日本では8月11日(金)公開なのですが、それに先立つ形で、アメリカでは同日公開となった『OPPENHEIMER(原題)』(配給:Universal Pictures)と本作を両方観ようとファンが発信した「バーベンハイマー」と呼ばれるムーブメントが起こり、その中で原爆投下を揶揄するような表現がなされたため、ワーナー・ブラザースが謝罪を行ってSNSでの投稿を削除するというできごとがありました。世界がネットで1つにつながっている中、映画がアメリカ以外の国や言語、文化圏でも公開されるということについて、プロデューサーというのはどれぐらい意識して作品のプロデュースを行っているのですか?

デイビッド・ヘイマン氏(以下、DH):

まず本件について、グレタ・ガーウィグ監督と私は共通して、ワーナーが会社として謝罪することが重要だと考えていました。映画そのものに関しては、普遍的なストーリーとして、いろいろな多様性のある人々がそれぞれの違いを受け入れるというものなのに、日本を含め世界でこうした形で話題になってしまったことを残念に思っています。

プロデューサーという立場で作品に関わる上で意識していることは、まずは脚本家や監督の存在が非常に重要であるということ、そしてストーリーにどれぐらいこころを動かされるかということだと、私は思っています。人間にはそれぞれに違いがあるということが事実だとしても、私が心を動かされたストーリーは、世界の人々の心を同じように動かして感動させることができるはずだと思うからです。

なので私は「自分の心が動くような作品を作ろう」と思っているわけですが、マーケティングというのは作品として映画が示すものが反映されていなければならないと思います。私は日本語もロシア語もできないので、それぞれの国でのマーケティング内容まで監督することはできませんが、国に合わせて行われるべきだと思っています。ただ、本作「バービー」のテーマが普遍的なものだという点は信じています。

G:

本作は、最初に公開された予告編から受けた印象と、実際に本編を見た印象とが大きく異なる作品でした。企画の初期段階からこういう中身の脚本だったのしょうか?それとも、脚本を何度も推敲して、改稿していく中で今のようになっていったのでしょうか?

DH:

私のもとに最初に届いた脚本に改稿を重ねて最終稿になりました。しかし、最終稿も初稿からそれほど大きく変わったわけではありませんでした。

G:

最終稿にゴーサインを出すにあたって重視した部分はどういったところでしたか?

DH:

まずお伝えしておかなければいけないのは、私は当初から本作に関わっていたわけではないということです。本作は、(主演・製作である)マーゴット・ロビーがマテル社に赴いて、映画化の権利を取得するための交渉をしたところから始まっています。彼女はパートナーであるトム・アッカーリー氏やグレタ監督、ノア・バームバック氏と3人で脚本を作り上げていきました。

マーゴット・ロビー演じるバービー



本作のスクリプトにはたくさんの層があり、コメディだと言われればコメディかもしれないけれどそれだけではなく、人形の話であるといえばその通りですがそれだけではない部分もある、フェミニストの話かというとそれも1つの要素ではあるけれどそれだけではない、といったように、本当にたくさんのことが含まれています。

私が映画として気に入っているのは、ストーリーが進んでいく中で、バービーもケンも私の心を動かしてきたということです。同時に、人形たちが「本当の人生は完璧ではない」、つまり人生には美しくない部分もあるんだということを受け入れていく、そういった旅路の物語になっている点です。旅路の中にはおかしなこともたくさんありますが、最後には心を動かしてくる、感動的なものがあるということで、すばらしい作品だと思っています。

ライアン・ゴズリング演じるケン



G:

最初から関わっていたわけではないとのことですが、本作の企画を最初に知ったときの心境はどんなものでしたか?

DH:

マーゴとは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で一緒に仕事をした経験があって、腕の立つプロデューサーだと感じていました。また、グレタについても『マリッジ・ストーリー』『ホワイト・ノイズ』と2作品のプロデュースをしています。グレタは俳優としても出演していますし、彼女の才能には敬意を表しています。この2人と仕事ができるということは、私にとってはワクワクするものでした。

G:

本作を見て、作中のマテルの扱いにびっくりしました。マテルは脚本についてどういった反応だったのですか?難色を示したりはしませんでしたか?あるいは、ノリノリだったのでしょうか?

DH:

(笑) マテルは、会社としてマーゴに権利を与えて映画を作るということは承認しています。そして、グレタが監督をするということで、彼女ならどういった作品を作るかということは、わかっていたと思います。その上で、いいパートナーとして映画制作に協力してくれたのは確かです。

マテルは、私たちがずっと愛しているバービー人形を作り続けている会社です。ただ、映画でマテルのすばらしい面ばかり描くのがいいと私は思いませんでした。マテルを完璧に描いたとすると、それはかえって映画をダメにする結果になったと思います。マテルが自分たちのことを笑って受け入れることでプラスになった、よくなった部分はあったと思います。もちろん、こういったことはマテルと相談しながら進めていきましたし、マテルはよきパートナーとしてサポートしてくれました。

風変わりなバービーも登場



G:

作中ではバービーの廃盤製品まで登場する盛りだくさんな表現の一方で、他の映画や楽曲の引用も多数ありました。こうしたものを盛り込むことについて、権利の処理などは大変ではありませんか?

DH:

映画にとって助かったのは、マーゴもグレタもすごく尊敬を集める存在だったということです。もちろん、作中で引用したジョン・トラボルタの『グリース』のダンスやセレブレーションはおちゃらけでつかっているわけではないですが、たとえばシルベスター・スタローンがあとで「よかったよ」とビデオレターを送ってくれたように、映画に引用されたことを好意的に受け取ってくれました。

作中に実在のものを出すプロダクト・プレイスメントについては、使用料が必要だったケースもあるし、必要なかったケースもあります。たとえば、作中に出てくるバービーはいろんな年代の服を着ていて、アカデミー賞の衣裳デザイン賞を受賞しているジャクリーヌ・デュランがデザインしてくれました。その衣装には、ブランドものからインスピレーションを受けたものもありますが、シャネルなどは提供してもらったものをそのまま着用していたりします。

バービータウンにどんなものがあるのかにも要注目です



G:

最後に、本作においてプロデューサーとして苦労したけれど、その甲斐があったという部分はどういったところだったか教えてください。

DH:

そうですね……絞るのは難しいですが、たとえばダンスシークエンスは1日で撮影を行いました。グレタはしっかり事前に準備して挑みましたが、「1日で撮影する」というプレッシャーは大変なものでした。それだけに、パフォーマンス的にも制作的にも、実りの多いものができたと思います。また、ベニスビーチにバービーたちがやってくるシーンはとても人が多く、撮影の影響で商売ができなくなる人への補償が必要になったりして大変でしたが、やってよかったシーンです。

G:

なるほど。お忙しい中、お話ありがとうございました。

映画「バービー」は2023年8月11日(金)全国ロードショーです。

映画『バービー』日本版本予告 2023年8月11日(金)公開 - YouTube

配給:ワーナー・ブラザース映画

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