高橋ヨシキが映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』と『Pearl パール』をレビュー!
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冒頭30分ほどは「(海外のレビューで)酷評されているほど悪くないのでは?」と感じたが、物語が進むにつれ徐々にその理由が見えてきた。
本作の最大の問題は「年老いてくたびれきった往年のヒーローの姿」をなぜ観せられなくてはならないのか、ということに尽きる(同じことが『スター・ウォーズ』エピソード7、8のルーク・スカイウォーカーについても言える、という評もあったが同感だ)。
あるいは「年老いてくたびれきって」いたとしても、新たな冒険と共にヒーローがかつての精気を取り戻し、目に輝きが戻るのを見せてくれるのであればまだ良かったのだが、本作で起きることはその真逆といっていい。
脇を固める新たなキャラクターも弱く、『魔宮の伝説』冒頭でわずかな登場シーンにもかかわらず、その存在感が胸を打ったウー・ハンや、あふれんばかりの魅力に満ちたショート・ラウンドには及ぶべくもない。
演出は手堅く、派手なアクション場面も良くできているが、キャラクターが精彩を欠くため虚しく感じられる。過去作への参照がやたらと多いのも逆効果。連続活劇やパルプ雑誌といった『インディ』の「オリジン」こそを参照するべきだったと強く思う。
STORY:冒険家インディ・ジョーンズの前に現れたヘレナは、インディが若き日に発見した「運命のダイヤル」の話を持ちかける。人類史を変えるといわれる秘宝を巡り、因縁の宿敵フォラーを相手に全世界を股にかけた争奪戦が始まる。
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、アントニオ・バンデラス、マッツ・ミケルセンほか
上映時間:154分
全国公開中
『Pearl パール』評点:★4.5点(5点満点)© 2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. ALL RIGHTS RESERVED.めくるめく映画世界が堪能できる珠玉の一本
1970年代後期を舞台に「スラッシャー映画のパスティーシュ」以上のものを見せてくれた『X エックス』の前日譚であり、前作のマーダラスな老女パールの若かりし時代(1918年)における「惨劇のはじまり」をたっぷりの血と情感を込めて描く。
華やかな映画の世界を切望するも、みじめな農場暮らしに縛り付けられ身動きのとれない主人公パールの焦燥は胸を打つが、メディアのもたらす幻影と現実との境界線を見失うさまには極めて強い現代性がある―インスタグラムやTikTokの「向こう側」へ越境を試みて絶望する若者や子供の姿がパールの向こう側に浮かび上がる。
まったくもってやりきれないことに、それが理由で自殺してしまう子供も多くいるのだ。
タイ・ウェスト監督は初期の『The House of the Devil』で、70年代オカルト映画のパスティーシュをあり得ないほど完璧にやり遂げたことからも分かるように、豊富な「映画の引き出し」を備えた監督で、その技量は今回も遺憾なく発揮されている。
サイレント映画から「スタッグ・フィルム」(私家版のポルノ)、ミュージカルまで貪欲にジャンルを取り込んだ、ユニークでめくるめく映画世界が堪能できる珠玉の一本だ。
STORY:1918年、米テキサスの農場に暮らす少女パールは映画スターに憧れながら鬱屈した日々を過ごしていた。ある日、厳格な母から「おまえは一生農場から出られない」と告げられ、パールの抑圧されてきた狂気が目覚める。
監督:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライトほか
上映時間:102分
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中
●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。
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