アメリカ海軍の最新鋭イージス艦「ジャック・H・ルーカス」が引き渡されました。1990年代から続く同型艦における“新世代”の1番艦は、外観こそあまり変わらないものの、中身は大きく異なるようです。

ついに引き渡された最新鋭イージス艦

 アメリカの造船企業である「ハンティントン・インガルス・インダストリーズ」は2023年6月27日、同社で建造し、試験を重ねてきた最新鋭イージス艦である「ジャック・H・ルーカス」を、アメリカ海軍に引き渡したと発表しました。

「ジャック・H・ルーカス」は、アメリカ海軍の主力戦闘艦艇であるアーレイバーク級ミサイル駆逐艦の75番艦で、1990年代から就役している同級の中で最も新しいバージョンである「フライトIII」の1番艦でもあります。そんな「ジャック・H・ルーカス」は、これまでのアーレイバーク級と比較してどのような違いがあるのでしょうか。

違いその1 最新鋭のレーダーを搭載

 まずは、搭載しているレーダーの違いが挙げられます。これまで、アーレイバーク級ではロッキードマーチン社製の艦載レーダーである「SPY-1D」を搭載してきました。これに対してフライトIIIでは、レイセオン社製の最新鋭艦載レーダーである「SPY-6(V)1」が搭載されています。


アメリカ海軍の最新鋭イージス駆逐艦「ジャック・H・ルーカス」(画像:アメリカ海軍)。

 SPY-6は、一辺が約60cmで構成されている正方形の「レーダー・モジュール・アッセンブリ(RMA)」と呼ばれる装置を、レゴ・ブロックのように組み合わせて構成されるレーダーです。このRMAは、それ単体でもひとつのレーダーとして機能するため、言い換えれば「小型レーダーの集合体」がSPY-6ということになります。

 フライトIIIに搭載されているのは、RMAが37個で構成されているSPY-6(V)1で、探知距離はSPY-1Dと比べて約3倍とされています。また、SPY-6はいくつかのRMAがダウンしたとしても、残りのRMAによりレーダーとしての機能を維持できるほか、RMAの背面に挿入されているサーキットカードを交換するだけで大半の不具合を解決できるなど、整備性にも優れています。

違いその2 搭載するイージス・システム

 続いて、搭載されているイージス・システムのバージョンの違いが挙げられます。イージス・システムとは、レーダーで探知した目標の脅威度を判定し、ミサイルを誘導して撃墜するという一連の流れを自動化した高度な防空システムのこと。脅威となる多数の目標へ同時に対応できる、まさにイージス艦の中核ともいうべきものです。


防空ミサイルに使われている、レイセオン社製の最新鋭艦載レーダーである「SPY-6(V)1」(画像:レイセオン)。

 このイージス・システムは、1980年代の登場以来、幾多のアップデートが重ねられてきました。そして、これまでのイージス艦にインストールされているもののうち、最新のバージョンは「ベースライン9」と呼ばれるものです。一方で、フライトIIIではそれよりも新しい「ベースライン10」と呼ばれるものがインストールされています。

 ベースライン10における最大の特徴は、レーダーの情報処理ソフトを含むいくつかの中心的な機能が、イージス・システムからSPY-6側に移行されているということです。

 これまで、SPY-1Dは独自の情報処理装置を持っておらず、敵の探知や脅威度の判定などはSPY-1Dと連接しているイージス・システムの仕事でした。しかし、ベースライン10とSPY-6の組み合わせでは、SPY-6で独自に処理されたレーダー情報がイージス・システムに送られるという仕組みになっています。これにより、イージス・システムとは独立してレーダーの性能向上が可能となり、探知距離の延長や新たな機能の実装が容易になるとみられています。

 フライトIIIと従来のアーレイバーク級とを、外観のみで見分けることはなかなか難しいですが、しかしその中身は大きく異なっているのです。