電動キックボードなどを想定した道路交通法の新区分「特定小型原付」がまもなく誕生。そのスタートを前に、型式確認を受けた4社9モデルが公開されました。ただ、その確認制度は1機関が独占。課題も少なくありません。

7月1日から免許不要で乗れる電動キックボード

 電動キックボードなど電動パーソナルモビリティの一部を「特定小型原付」(特小原付)と位置付けて、無免許で16歳から乗ることができる改正道路交通法が2023年7月1日からスタートします。免許が必要な従来の原動機付自転車と区分するため、新たに第三者機関による確認制度が導入され、この型式確認を受けた製造社とモデル名が、国土交通省のウェブサイトで6月12日に公開されました。


シェア事業者Luupの電動キックボード。このほど6モデルが特定小型原付として国土交通省の確認を受けた(乗りものニュース編集部撮影)。

 7月1日からの改正道路交通法は、今まで「原動機付自転車」とされていた車種について運転条件を緩和する内容です。より便利な都市内の移動、高齢化や過疎化が進んでも移動の自由が確保されるように配慮した施行です。

 これまで100%フル電動で走ることができる車両は、例外なく原付バイクなどと同じ「原動機付自転車」でしたが、これを最高速度ごとに3種類に細分化しました。

・一般原付:最高速度30km/h
・特定小型原動機付自転車(特小原付):最高速度20km/h
・特例特定小型原動機付自転車(特例特小):最高速度6km/h

 電動車は同じ車体でも、モーターを制御することにより、出荷時点で要免許と免許不要の2種類のモデルを販売することが可能になりました。また、1つの車体で走行モードを切り替えて、例えば特小原付から特例特定に最高速度を落として、歩道を走る“1台2役”も実現できます。場合によってはヘルメットの着用も努力義務となるため、これまで以上に、“車種区分が何か”が重要になります。

 しかし、原付には車検証や自動車検査制度がありません。そのため国土交通省は「特小原付の性能等確認制度」を導入し、車種区分が一目でわかるようにしました。メーカーが販売前に制度に基づく試験を受けて型式の確認を受けることで、特小原付であることを誰でも見分けられるようにするのが目的。確認済みの車両は、特小原付のナンバープレートとは別に、性能等確認済みシールを車体に貼り、車種区分を明確にします。

 特小原付として確認を受けたのは6月12日現在、4社9モデルが発表されています。

4社9モデルの詳細は?

 当該モデルは、確認公表順に次の通りです。

・長谷川工業(大阪市)は脚立のパイオニアメーカー。電動キックボードの世界ブランドYADEAと共同開発した「YADEA KS6 PRO」1モデル
・ホンダのIGNITIONプログラムを経て、分社独立した「ストリーモ」(東京都墨田区)の立ち乗り型電動3輪モビリティ「ストリーモ」1モデル
・原付2種の電動キックボードも手掛ける「SWALLOW」(川崎市)の電動キックボード「ZERO9 Lite」1モデル
・シェアサービス事業者「Luup」(東京都千代田区)の「LUUP」6モデル

 長谷川工業、ストリーモとSWALLOWは、主に販売を目的とする車両で、各社ともに自社サイトで予約を受け付けています。その中でもSWALLOWの電動キックボードは、7月1日の道交法改正と同時に出荷を予定しています。ストリーモは一般原付モデルの予約者から特小原付への切り替えを受け付け、秋からの出荷を予定しています。LUUPは主にシェアサービスで活用されるとみられます。

 この第三者機関による型式の確認は任意です。型式取得には準備のためのコストと、第三者機関に確認を依頼すると手数料が必要なので、メーカー側からすると、確認を受けないことで安価に車両を提供できる余地が残ります。

 そうしたなかで型式の確認に踏み切るメーカーは、確認済みであることが品質の裏付けになります。また確認済みの車両を購入したユーザーは、性能等確認済みシールが貼付されているので、違法な機体かどうかを調べる交通検問に巻き込まれる可能性が格段に低くなります。

 原動機付自転車などパーソナルモビリティの規制は、このようにブラックリストの真逆、ホワイトリストを活用することで進んでいます。

型式の確認、難しすぎてコスト高?


SWALLOWの特小原付ZERO09 Lite。ハンドルの根本部分に白い長方形の性能等確認済シールがついている(画像:SWALLOW合同会社)。

 ただ、このホワイトリスト方式は、今後に課題も残します。

 特小原付の確認のために第三者の性能等確認実施機関として名乗りを上げたのは、結果的に国土交通省OBが専務理事を務める公益財団法人「日本自動車輸送技術協会」ただ1者でした。この協会は軽自動車から大型トラックバスまでの認証試験を手掛ける高度な設備を持つ試験機関です。

 特小原付の実施機関を検討したある民間事業者は、「通常の型式取得に近い試験設備が必要で、とても投資に合わない」と、名乗りを上げることを断念しました。せっかく第三者による確認機関を募集しながら、民間の確認機関を育てることにつながりませんでした。

 また、事実上独占された試験機関では、試験料が高止まりします。同協会の試験費用は約90万円です。それは利用者の負担に跳ね返ってきます。確認を受けた4社以外の電動キックボードメーカーも7月1日の改正法施行を目指して確認の申請をしていますが、認証不正などの検証も手掛ける日本自動車輸送技術協会者に頼る確認は思うように進みません。

 電動キックボードなどの普及は、新しい国内産業を育てる意味でも期待されています。車両規格だけでなく、制度面でもこれまでにない新しいバックアップが必要です。