反転攻勢のウクライナ 「戦車の種類多すぎ問題」現場はどうしてる? 各国の戦車の“使いわけ”
ウクライナ軍による攻勢が本格化しましたが、現場では戦車だけでも7種類以上が混在している状況です。これに加えて装甲車や自走砲も。補給や整備は大丈夫なのでしょうか。最新情報を基に精査してみました。
戦車だけで7種類以上、部品も砲弾も規格バラバラ
ウクライナが反転攻勢の第1段階に着手したようです。複数の欧米メディアが2023年6月8日に報じると、アメリカの戦争研究所も同日、ウクライナ軍が少なくとも3方面で攻勢を開始したと発表。続く10日には、ウクライナのゼレンスキー大統領自らが記者会見で、反転攻勢がすでに始まっていると明らかにしました。
これに先立ち、今年(2023年)の初頭には、イギリスを皮切りにアメリカ、ドイツなどNATO(北大西洋条約機構)諸国が次々と自国戦車の供与を表明しています。これら西側各国が供与した戦車は今回の反転攻勢において、さっそく投入されていますが、ウクライナ軍は自国製のT-64やT-80、そしてロシアが遺棄したものを再使用しているT-72やT-90などといった、いわゆる旧ソ連系の戦車も多数運用しています。
ここまで多種多様な戦車を最前線で一緒くたに使って、ウクライナ軍の補給や整備は混乱しないのでしょうか。その点について筆者(白石 光:戦史研究家)は、ウクライナ軍なりの工夫を施しているのではないかと推察します。
戦車に鈴なりに乗って移動中のウクライナ兵たち(画像:ウクライナ軍参謀本部)。
そもそもウクライナは、旧ソ連時代は同連邦の傘下に収まる1つの共和国でした。そのため、ソ連邦崩壊後にロシアから分離独立した後も、ロシア(旧ソ連)の兵器体系を維持してきた経緯があります。
しかし今回、西側から供給されている兵器は、いずれもアメリカを始めとしたいわゆるNATO規格と称される兵器体系です。これらは、弾薬だけでなく、構成部品・パーツの規格からして違うので、整備方法も異なるのは言うまでもありません。
そこでウクライナ軍は、運用と整備補給の利便性を見据えて、旧来のロシア型兵器体系を備える部隊と、新着のアメリカやNATO型の兵器体系を備える部隊に分けている模様です。
「元軍人」アドバイザーが最前線にいるかも
欧米メディアが2023年6月10日に報じたところでは、たとえば同陸軍第1戦車旅団と第4戦車旅団、それに新設された第33機械化旅団にはドイツ製の「レオパルト2」戦車が配備されている一方、イギリス製の「チャレンジャー2」戦車は第82空挺強襲旅団、そしてアメリカ製のM2「ブラッドレー」歩兵戦闘車は第47機械化突撃旅団にそれぞれ配備されている模様です。
また、こうした整備補給の利便性に加えて、ウクライナ軍ではロシア型兵器と、アメリカを始めとしたNATO型兵器の運用条件が適合するか見定めるといったこともしているそうです。
イギリス戦車「チャレンジャー2」の射撃訓練の様子(画像:ウクライナ軍参謀本部)。
加えて第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン紛争など、過去の戦乱を振り返ると、米英仏などといった主要国は、海外の同盟国や支援勢力に対し、兵器の供与だけでなく、それに関する運用や機能上のノウハウも提供してきました。その場合、退役して民間人となった「有能な元軍人」だけでなく、時にはバリバリ現役の軍人をあえて一時的に「退役」させて「民間人」化し、アドバイザーやオブザーバーの名目で「指導者」として送り込むことも行っています。
おそらく今回も、米英独などから供与されたNATO規格の戦闘車両を運用して攻勢に出ている部隊には、アメリカを始めとした西側のアドバイザー・チームなどが随行しているのではないかと筆者はにらんでいます。
彼(彼女)らは、ウクライナ軍が従来装備していたロシア型兵器とは異なる、NATO型兵器の効率的な運用方法などをアドバイスするという「当たり前の業務」に加えて、実戦下で得られたNATO型兵器の適応性や欠点を母国に報告。
さらには、アメリカやNATOがさまざまな手段で得た偵察情報をリアルタイムで受け取り、それに現場で把握したロシア軍の状況なども加味した、直近にとるべき戦闘方針を提案する戦況情報をウクライナ軍に「アドバイス」するのみならず、同様の情報をNATOや自国軍へも送っていることは、大いにあり得るのではないでしょうか。
アメリカやドイツなどは、この後も兵器の供与を明言しています。ゆえに、前述したような動きは、今後ますます強まることは間違いないといえるでしょう。