ロシア軍なぜ苦境? クリミアで世界を震撼させた無人機大国のはずが その内部事情
ロシア・ウクライナ戦争では、ドローンが勝敗のカギを握るとさえいわれますが、その戦力はウクライナが上回っているともいわれ、ロシアは苦戦を強いられています。機体不足や操縦者の技量不足が指摘されますが、内部事情もいわくつきです。
逆転した無人機戦力
ウクライナ軍の本格反攻開始の報道も見られる中、無人機(ドローン)で撮影されたロシア・ウクライナ戦争の戦場の様子が、毎日のようにSNSに投稿されています。虚実入り混じった認知戦の様相を呈していますが、いずれにせよ、無人機は現代戦では偵察監視活動、戦闘、宣伝戦にまで使われる決定的な存在になっています。
発進用カタパルトに載せられたロシア軍の無人機「オルラン10」。ゴムの張力で打ち出される。簡易だが扱い易い方法だ(画像:ロシア国防省)。
2014(平成26)年のロシアによるクリミア併合作戦では、ロシア軍の無人機は偵察監視活動や電磁波妨害などに使われてウクライナ軍を混乱させ、作戦成功に大いに貢献しました。目の当たりにした西側は、ロシアの無人機戦力を大きな脅威と認識するようになります。
2022年までのロシアの無人機戦力は、国産とした攻撃機型で7種1500機以上、小型の偵察・観測用で25種千数百機以上(市販も含む)と充実していました。一方、併合時のウクライナ軍は弱体で、無人機戦力も見るべきものはありませんでした。そしてこのたびのウクライナ侵攻でも、ロシアの無人機は活躍するはずでした。
しかしアメリカ海軍分析センター(CNA)によると、2022年の開戦後、ロシアとウクライナの無人機戦力バランスは逆転しており、ウクライナ軍は欧米の援助、市販技術の活用、自国の技術革新などで無人機戦力をはるかに充実させていると報告しています。一方、ロシアは無人機不足に苦しんでおり、期待された効果を発揮していないとCNAは分析しています。
無人機の損耗について信頼に足るデータは少ないのですが、ロシア軍の前線から発信されるテレグラムなどのSNSを見ると、あらゆる種類の装備品、特に無人機の不足を訴えていることから深刻さが推察できます。経済制裁によるパーツ不足やメーカー間の連携不足などにより、補充もできていないようです。
イラン、中国がロシアを支える
CNAのロシア専門家は「ロシア軍の取得サイクルと研究開発サイクルは、この商業技術に追いついていない。簡単に言えば、ロシア国防省は非常に大きく、官僚的で、重い組織であり、方向転換には長い時間がかかるのです」と報告しています。
ロシア軍の無人機戦力を何とか支えているのは、イランからの輸入品と民間団体からの中国製市販品の寄付だとCNAは指摘しています。ロシアがイランの無人機を導入する理由は、イラン製の多くが同国産で欧米による経済制裁の影響を受けにくく、サプライチェーンが安定しているからです。また、イラン製の多くが自爆型であり、ロシア軍はイランで無人機運用の訓練を受け、イランの無人機をロシア国内で生産する共同事業も立ち上げたようです。
他方、ロシアの民間団体が中国製ドローンを購入して部隊に寄付するといったことも行われています。CNAでは中国政府の公式的輸出禁止の立場とは別に、最も使われているドローンが中国メーカーDJIの「Mavic」シリーズであると報告しています。
民間団体の動きは活発なのですが、なぜ官僚主義の国防省がそこへあまり干渉しないのか、理由はまだよくわかりません。民間まで巻き込んで戦力補充をしようという動きは、2014年以降必死に防衛力増強のため奔走してきたウクライナにも似ているのが皮肉です。
2022年11月下旬、ボランティアによって運営されている複数の親ロシア派のテレグラム・チャンネルが、自分たちの輸入している中国製無人機がロシアの税関によって国境で留め置かれていると投稿しました。ロシアのブロガーたちは、前線部隊への無人機納入を妨げる行政障壁をロシア政府および国防省が設けており、一部で政府の「誰か」が無人機の輸入と配送の権益を独占しようと画策しているとまで言い放っています。
ロシアが苦戦を強いられる組織の問題とは
このように様々な要因からロシア軍への無人機の補充は遅れており、民間団体や軍内の将兵有志が改善に向け努力しているようですが、そもそもロシアの権威主義的な社会は、このようなボトムアップのイノベーションには不向きだと見られています。
ウクライナ海軍のトルコ製「バイラクタルTB3」。ミサイル巡洋艦「モスクワ」撃沈にも関わったとされ、抵抗の象徴のひとつにもなっている(画像:Армія Інформ,CC BY 4.0,via Wikimedia Commons)。
無人機を有効活用するには、それを使いこなせる指揮官とオペレーターを育成する必要がありますが、軍内では訓練の優先順位は低く、無人機の専門家もあまりに少ないのが現状です。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)によると、ロシア軍は経験を積んだベテラン兵士を休息させたり、教育支援や新兵育成に使ったりすることをせず前線で使いつぶす傾向にあり、戦訓や革新的技術は共有化、体系化、普及されるよりも、個人や小単位内で消費されてしまっていると指摘します。
ロシアの無人機戦争は苦戦が続きそうですが、RUSIは過小評価することも禁物と警告します。ロシア軍部隊は、まとまった数の無人機と訓練を受けたオペレーター、有能な指揮官、データを共有するための戦場ネットワークなど適切なピースを揃えれば、戦局を左右し得る能力を発揮するでしょう。RUSIの最近の報告書でも、無人機「オルラン10」が目標を発見してから砲撃が始まるまでの時間は、「約3〜5分と依然として迅速である」と指摘しています。