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6月16日(金)公開の映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は、大ヒットを記録した映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)の待望の続編。全米では公開初週に興行収入1億2000万ドルを突破して初登場1位を記録、批評家・観客の双方から高い評価を獲得している話題作だ。

異なるコミック絵のタッチが混在する、革新的かつ個性的な映像はいかにして生みだされたのか。本作制作の裏側を、前作に続いてアニメーターとして参加した園田大也(Hiroya Sonoda)氏に話を伺った。

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◆本編で担当したシーンは?◆

ーーまず、完成した映画をご覧になってどんな感想を持たれましたか。

園田 いやぁ、凄かったです! アニメーターという職種柄、最終的な完成映像を観る前に現場を離れたり休暇に出たりするので、実際の完成品は映画館で初めて観たのですが、いやもう……本当に面白かった。2時間以上の映画でしたが、常に飽きさせない展開で楽しくて、ストーリー後半のミスディレクション的な仕掛けも上手だなと思ったし、本当にあっという間の体感でした。

ーー園田さんは本作にアニメーターとして参加なさっていますが、本作は3DCG映画なので制作工程も担う役割も、日本の2Dアニメのアニメーターとは違いがあるのではないかと思います。
本作ではアニメーターという肩書きでどんな作業をなさったのか、教えていただけますか。具体的に画面のどこからどこまでを作られているのでしょうか。

園田 まず、キャラクターそのものは「モデラー」と呼ばれるセクションの人たちが作っていて、各シーンのざっくりとしたキャラクターの配置やカメラワークは「レイアウト・アーティスト」の人たちが担当しています。
そういったセクションからのデータを受け取って、そこからさらにカメラワークを調整したり、キャラクターの動きや感情、表情を細かく作っていくのが僕たちアニメーターの作業になります。

――ダイナミックなアクションや細かい仕草・表情も含めて、主に「動き」を作る、という解釈でよろしいですか。

園田 そうですね。さらに言うと、その後に「エフェクト」と呼ばれる炎や爆発などの特殊効果を担当するセクションにデータを渡し、最終的には「コンポジッター」と呼ぶセクションの人が色調などの処理をすることになります。大まかに言えば、目に見えている動き、アクションは基本的にはすべてアニメーターが担当しているという感じになりますね。

――今作で、園田さんはどんなシーンを担当なさいましたか。

園田 主にアクションの場面が多かったです。たとえば、序盤でマイルス(スパイダーマン)とグウェン(スパイダー・グウェン)が街中をスウィングしていくショットです。

――映画の前半、再会したマイルスとグウェンが楽しそうに街中を跳び回る、ハッピーなシーンですね。

園田 それから、後半のミゲル(スパイダーマン2099)とマイルスが絡むアクションなども担当しました。やっていて楽しかったのは今回のヴィランのスポットですね。主に前半のスポットを担当していたのですが、ふざけた感じのキャラクターが面白かったです。

あと実際の映画のショットは担当できなかったですが、スパイダーマン・インディアは「ディヴェロップメント」という本編制作前に行うキャラクターの動きのテストには参加させてもらいました。ですから、本編の映像もインディアのシーンは観ていて楽しかったです。

――今作は繊細なキャラクター芝居、エモーショナルなシーンの重要度も前作以上に増していますね。

園田 僕もそういう場面を少し担当させてもらいましたが、僕以上に繊細な演技が巧みなアニメーターがたくさんいて、観ていて「上手いなぁ……」と感心していました。

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◆革新的映像を生み出す制作工程◆

――『スパイダーバース』は多彩なタッチの絵柄や多様なアニメーションスタイルの組み合わせで”マルチバース”を表現する手法が注目されていますが、どういう内容でオーダーが来るのでしょうか。

園田 「このシーンはこういうスタイルで」と具体的なアニメーションスタイルのオーダーが来ることもあれば、こちらから「こういうスタイルやアクションはどうですか」といろいろ提案をすることもあります。

――つまり、ご自身の得意分野だけではなく、多彩なスタイルも使いこなせればいけない。

園田 そういう部分はありますね。具体的には、まず「リードアニメーター」という役職をトップにした、僕らのような個々のアニメーターをまとめたチームがいくつか作られるんです。そのそれぞれにまとまったシークエンスが振られて、各アニメーターにはさらに細かい個々のカットが割り振られるという形で作業をします。さらに、複数の「リードアニメーター」の上に「アニメーションスーパーバイザー」という役職の方がいて、映画全体のアニメーションを見ています。

――今作は前作以上にタッチやスタイルが多彩で、なおかつ、全体としての統一観も前作以上に整っている印象がありました。そのコントロールはどのように実現しているのかと不思議でした。園田さんの立ち位置から見て、そこにはどんな ”秘密” があるのでしょう?

園田 いやぁ……僕から説明するのは難しいですね(笑)。おそらく監督さんや「ストーリーアーティスト」と呼ばれるシナリオを作る人といった上のセクションの人たちは、僕のようないちアニメーターでは想像も付かないようなことをしていると思います。
ただ、基本的な「指針」のようなものが用意されていることもあります。「マイルスはこういうキャラクターだから、こういう動きで」「ミゲル(スパイダーマン2099)はこういうところに気を付けて」みたいに、キャラクターごとに「やっていいこと」「やってはいけないこと」がきちんと資料として作られていて、それらをすべて確認してから制作に反映します。

例えば、グウェンは「昔バレエをやっていた」というバックグラウンドがあるので、動きはしなやかなになるよう意識しています。彼女がスウィングしているシーンを細かく見てもらえると、身体が柔らかいことが強調されて、前屈しながら前に跳んだりしていることがわかると思います。

――スウィングの仕方もそれぞれ違うんですね。

園田 すべて、決まっているキャラクター性を意識しながら作っています。あと、社内にあるドキュメントには前作のリファレンス動画や今作で既にOKがでている場面のリンクが貼られていて、「こんな感じで統一していきましょう」といったイメージ共有がされています。

――各自のキャラクターへの理解が、全体としての統一感を担保している?

園田 そうですね。その上で各ショットをどう輝かせるのかは、個々のアニメーターにかかっているので。ピンポイントで振られたショットに、映画全体がよくなるような自分なりのアイデアをいかに盛り込むか、アニメーターはみんな考えていると思います。
僕も、グウェンのアクションを作る時はバレリーナさんの動画をたくさん観て、どういう身体の使い方をしているのかを観察しながらアイデアを膨らませたりました。

◆ベストを尽くす仕事の融合◆

――今回、ご自身で新たにチャレンジしたことはありますか。

園田 先ほど挙げたグウェンとマイルスが街をスウィングしていくショットは、監督さんから「尺を変えずに演出を変えてほしい。新しいアイデアを見てみたい」と言ってもらえたことです。普段は前の工程から上がってきたものをさらによくするという仕事が多いですが、他の素材を一切使わず、一から自分でアイデアを考えて作ったのは、今回の新しいチャレンジでした。

まず3DCGで作られたブルックリンの街全体の背景を読み込んで、どこをどうスウィングして移動するかを、CGモデルをグリグリ回しながら自分で考えました。締めにウォータータワーを叩いて終わらせようと思ったので、他の場所にあったタワーの位置を移動させて、グウェンとマイルスが叩けるようにしました。
監督さんにも、アイデア段階から「いいね!」と気に入ってもらえたので、やりがいがありましたし、楽しい仕事となりました。

ーーそういった動きを作る際、日本のアニメを意識することもあるのでしょうか。

園田 アクション面は、日本のアニメもかなり意識しました。『NARUTO-ナルト-』や『フリクリ』、それに僕はアニメーターの吉成曜さんが好きなので、吉成さんの担当したシーンを観たりしました。あとは『進撃の巨人』です。

ーー『進撃の巨人』の立体機動アクションは、まさに「スウィング」そのものというか。

園田 いや、本当にその通りで(笑)。あのスピード感は凄いと感じたので、参考にさせてもらいました。周囲にも日本のアニメが好きなアニメーターは多くて、今作のアクションを観ていても日本のアニメーションに対するリスペクトがいろいろなショットで感じられて、とても嬉しかったです。

ーーご自身が担当したシーン以外で、映画を観て「ここは凄かった!」と心に残ったシーンは。

園田 まず映画の冒頭から驚きました。グウェンがドラムを叩くシーンは、とてもオシャレで良かったです。あとは後半でスポットが「覚醒」するシーンも凄かったです、「どうやって作っているんだ、これ?」と(笑)。別の部署の作業だと、本当にどんな作業が行われているのかわからないので。

逆に自分が作ったアニメーションに想定していなかった効果が加えられて、完成した映像が自分の意図を超えて「めっちゃカッコよくなってる!」ということもよくあります(笑)。他のセクションの人たちも超一流の人たちばかりですから。

ーーお話を聞いていると、「こういう画面を作る」という目標を設定して分業すると言うよりも、各セクションがベストの仕事を積み重ねた結果、完成映像に辿り着くというイメージなのかなと感じました。

園田 本当にその通りだと思います。もちろん監督さんたちはある程度、どんな映像にするかという指針を持っていると思います。でも僕の立ち位置からすると、みなさんの力が合わさったことですごい絵ができていく、というイメージですね。

――ありがとうございます。では最後に、本作に期待している日本のアニメファンに向けてメッセージをお願いします。

園田 アクションもエモーショナルなショットも前作以上にパワーアップして、映像のレベルが何段階も上がっていて、みなさんの期待を超える作品になっていると思います。ぜひ映画館で観て、楽しんでいただけたら嬉しいです!

園田大也(Hiroya Sonoda)
九州大学芸術工学部を卒業後、2011年にゲーム会社でインゲームアニメーターとしてキャリアをスタート。
その後バンクーバーに移り、2016年にSony Pictures Imageworksに入社。前作『イントウ・ザ・スパイダーバース』の制作に参加し、今作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』ではシニアアニメーターとして映画制作に参加。
2023年よりWalt Disney Animation Studiosに所属。

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