純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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高速バスの運転手が帰庫したとたん、営業所の所長から、運転手がサービスエリアでカレーを食べていた、との乗客のクレームがあった、と叱責された、という投稿がSNSに載って、話題になっている。いったいこの所長は、どういうつもりなのだろう? 安全管理もせず、休憩も食事も抜きで、運転し続けろ、とでも?

クレームは、さまざまなところで生まれる。これまで現場で、密室で、ごまかされていたことが、SNSその他でかんたんに表沙汰になる。その中には、たしかに従業員の対応がひどかったものも少なくない。だが、モンクレ、モンスタークレーマーと呼ばれるようなアタオカな人々、ヤクザのようにむちゃくちゃな要求をゴリ押しする連中も多い。

上司としては、さらに上に告げ口されたりたくないものだから、モンクレであろうと、とりあえずその場を丸く収めてしまおうと、クレーマーの方をなだめ、それに同意しまくる。そして、その鬱憤不満を、クレームを受けた部下に当たり散らす。そんなことが、日本では長年の慣行になってきた。

だが、今日、部下は弱い立場というわけではない。昔なら、密室の中で部下を陰湿横暴にネチネチと「叱責」もできただろうが、部下もまた、かんたんにスマホで録音して、SNSで表沙汰にできる。そうなれば、当たり散らした上司の方がクビが飛ぶ。会社そのものの社会的信用が無くなる。そうでなくても、こんなバカな会社で働けるか、と、ぱっと辞めてしまう。

バスに限らず、飲食、宿泊、教育など、あらゆるサービス業で、いま、従業員が集まらない、という。それはそうだろう。それはたんに給料の金額の問題ではない。上司に、会社に「人望」が無いのだ。人間相手のサービス業では、事故や失敗、誤解で、現場でさまざまな予想外のトラブルが生じる。おまけに、昨今のモンクレだ。従業員には、従業員としてこなすべき現場の本来の定常業務があり、そんなトラブル処理、クレーム処理までやらされたら、現場の本来の定常業務の方ができなくなる。にもかかわらず、管理部門が無関係の第三者づらで保身と責任逃れに終始し、面倒の始末まで現場に押しつけて、従業員を守らないなら、そんなところではバカバカしくて働けない。そして、そんなウワサは、またたく間に職場に広まり、ひとり、またひとり、と次々に辞めていく。

上に乗って従業員に威張り散らすだけで、現場のメンバーとチームプレイ、バックアップしない。そんな本部、そんな上司だから、人が集まらない、人が逃げ出すのだ。それでよけいイラついて、部下に当たり散らし、いよいよ人がいなくなって、現場がまわらなくなる。

だから、本社としては、部下を守らない、人望のない上司の方を切った方が、よほど組織として効率的に回るだろう。まともなクレームに対しては真摯に応対するにしても、理不尽な話には、逆に強硬に法的措置を取ってでも、従業員を守るくらいの気概がなければ、人の上に立つ資格は無い。従業員を守ること、それが会社を守ることそのものだ。