なぜプロペラ機でLCC? 新潟の新航空「トキエア」の斬新な戦略とは “先駆者”とは少し違う!
新潟空港を拠点とする新規航空会社「トキエア」が就航にむけ準備を進めています。「プロペラ機で地方間を手頃な価格で結ぶ」というコンセプトを持つ同社は、どのような戦略を立てているのでしょうか。
似てるけど結構違う「FDA」との戦略
2023年6月30日に就航が予定されている新規航空会社が、新潟を拠点とする「トキエア」です。国内の「地域航空会社」としては、FDA (フジドリームエアラインズ)以来の路線参入となる同社は、どのような戦略を立てているのでしょうか。
トキエア機(画像:トキエア)。
トキエアは、72人乗りのプロペラ旅客機「ATR72-600」を2機保有。まずは新潟と北海道・丘珠を週4日、1日2往復で結びます。
同社は地域間の移動を活性化し連携を強め、地方創生を促進することを目標として2020年7月に設立されました。格安航空会社(LCC)でありながら座席間隔は狭くしない「ハイブリッド航空」というビジネスモデルを掲げています。
同様に地方重視を掲げて2008年に静岡県で設立されたのが、前出したFDAです。こちらも理念として、地方と地方を結ぶ懸け橋となり、地域社会の成功を地域の人々分け合うことを掲げています。つまりFDAは、トキエアと似た方針の航空会社で、かつ一定の成功を納めている先輩格といえるでしょう。
反面、2社には異なる点も存在します。FDAは羽田空港に定期旅客便を就航させず、地方空港間での運航を続けていますが、トキエアは将来的に東京への乗り入れも目指しています。
また、使用する旅客機も大きな違いがあります。先述のとおりトキエアはプロペラ機なのに対し、FDAはジェット機です。このため速度に違いがあり、トキエアが使うATR72-600の巡航速度は約510km/hなのに対し、FDAのERJ170/175は約870km/hです。
なぜトキエアは、FDAと似たビジネスモデルにもかかわらず、速度の劣るプロペラ機を使用しているのでしょうか。
トキエアはなぜプロペラ機で運航する?
トキエアが保有機としてプロペラ機を選択したのは経済上の理由があります。重量がジェット機より軽く、空港の着陸料を65%程度安くできるのです。飛行距離が長いほど、速度のうえではジェット機が有利ですが、飛行距離と運航費を比較し、同社は運航コストの削減に主眼を置いたのです。
拠点空港の立地上の問題もありそうです。FDAは太平洋側の県営名古屋空港などを使うのに対し、トキエアは降雪のある日本海側の新潟空港だからです。
年によって差はありますが、記録的な大雪だった2017年から2018年にかけての冬、新潟空港では、330便が降雪の影響で欠航しています。また、たとえ運航ができても、機体へ散布する防氷・除雪費がかかります、機体が大ぶりであれば、その費用はなおさらかさむことになります。
そして、就航先の丘珠空港は、1500mの滑走路しかないことから、冬季はジェット旅客機が発着できません。さらにトキエアは今後の目玉として、現在定期便が海路のみで、滑走路も890mしかない新潟県の離島「佐渡空港」への航空路線の開設を掲げています。
こうした豪雪地帯にあり、かつ小規模な空港を始めとする空港へ日常的に発着するとなると、トキエアが速度で劣ったとしても、長い滑走路が必要なジェット機ではなく、プロペラ機を選んだ理由も理解できる気がします。
新潟空港に駐機中のFDA機(乗りものニュース編集部撮影)。
同社の目玉のひとつである佐渡空港就航に向け、トキエアはATR72-600以外の新型機も導入する見込みです。それは、2022年5月に初飛行したATR42-600Sというもので、客席数は40人程度であるものの、短距離離着陸に優れたモデルです。また、ATR72-600においても、1機は乗客が少ない時期に貨物搭載型へ変更して、収益を上げる工夫も凝らしています。
日本の航空界では、独立系の航空会社の新規参入は常に懸念が示されます。FDAも設立当初は事業化が心配されましたが、今も地域を結び飛んでいます。地方どうしを結ぶ路線が今以上に広がることを期待します。