様々な種類の砲を取りそろえた、かつての戦艦。2基の砲塔を上下に重ねれば効率的だとアメリカは考えて実行したのですが、大失敗に終わったのはなぜでしょうか。他国は他山の石としました。

重ねれば省スペースに!

 19世紀最後の年の1900年、アメリカ海軍はキアサージ級戦艦2隻、ネームシップ「キアサージ」と2番艦「ケンタッキー」を相次いで就役させました。同級の最大の特徴は、砲塔が2段重ねになっている点。意外とありそうな配置ですが、ほかの軍艦ではほぼ見られない構造です。なぜそのような設計を採り入れたのか、そして結果はどうだったのでしょうか。

 艦砲が前装砲(砲弾を砲身の前から詰める方式)から後装砲へと移行し、それを回転台に載せて覆いを付けた砲塔が出現した19世紀後半。海戦の主力たる戦艦の戦い方は、まず、自らが搭載するもっとも長射程の主砲で敵艦を攻撃しながら、互いに距離を詰めたところで主砲の次に射程の長い中間砲を撃ち出し、さらに接近したところで小口径の副砲も撃って、砲弾の雨で敵艦の上部構造物や砲塔を破壊していました。

 そして敵艦が戦闘能力を喪失したところで、とどめは主砲による水線下に向けた砲撃か、もしくは魚雷攻撃、あるいは艦首に設けられたラム(衝角)による体当たりで、敵艦の水線下に孔を穿って浸水させ、沈めるというものでした。


アメリカ戦艦「キアサージ」。赤い矢印で示したのが2段式の主砲塔(画像:アメリカ海軍)。

 当時の戦艦は、他にも駆逐艦や魚雷艇に対処するための取り回しに優れた小口径砲や機関銃なども装備しており、1隻の戦艦が搭載する火砲は多岐に及びました。そのせいで、それらの砲の搭載場所、そして搭載場所の条件に大きく関係する射界の制限に腐心したほか、さらには砲の種類ごとに別々に用意された弾薬庫の防御などまで、知恵を絞る必要に迫られたのです。

 そのようななか、アメリカ海軍はこれら諸問題をうまく解決できる妙案(珍案?)をひらめきます。それは、主砲塔の上に中間砲の砲塔を載せて、砲塔を大小2段重ねにするというものでした。

米海軍が考えた2段式砲塔のメリット

 主砲塔の上に中間砲塔を載せれば、その分、甲板上で中間砲塔が占めていた設置面積を削減できることになります。しかも、主砲用と中間砲用の弾薬の供給については、艦内を弾薬が通るルートが同じ主砲塔経由になるうえ、両方の弾薬庫を隣接して設置し、まとめて防御することで、弾薬庫の艦内容積と装甲防御を集約化できます。また、砲塔とその関連設備を集約することで全体重量を浮かし、その浮いた重量を全体装甲に回せるというメリットまでありました。

 もちろん、当時の技術では旋回砲塔の上にもうひとつの旋回砲塔を載せて、それぞれを別々の方向に指向させることは困難でした。


戦艦「キアサージ」の2段式砲塔(画像:アメリカ海軍)。

 しかし前述したように、撃ちながら敵艦へ近づいて行く当時の海戦スタイルなら「まず射距離がいちばん長い主砲で砲撃→距離が近づいたらこれに中間砲の砲撃が加わる→さらに近づけば副砲も砲撃を加える」という流れになるので、弾道の違いによる俯仰角(砲身の上下)さえとることができれば、大小の砲塔が上下あったとしても、あまり問題にはなりませんでした。結果、両砲が同じ方向しか指向できないことは、大きな問題ではないと結論付けられたのです。

 さらに、主砲と中間砲では装填速度が異なり、中間砲のほうが早く装填できるので、主砲の装填中の時間を利用して、中間砲を別の目標に向けて撃てるとまで考えられました。

 当時の戦艦の標準的な主砲の搭載方法は、艦首側と艦尾側にそれぞれ連装砲塔1基ずつを備えるというもので、キアサージ級も同様でした。そこでアメリカ海軍は、13インチ主砲が収められた連装主砲塔の上に、8インチ砲が収められた連装中間砲塔を設置します。

 しかし、結果はアメリカ海軍が考えていたようにはいきませんでした。うまくいくと考えていたことが、ほぼ全て「机上の空論」であることに気づかされたのです。

懲りずに6年後、再チャレンジ

 主砲と中間砲の装填速度の違いを利用して、主砲の装填中に中間砲を別の目標に向けて撃つことは、せわしなさすぎて結局行えませんでした。また、当時は操砲作業の多くの部分を人力に頼っていたので、主砲と中間砲それぞれの発砲時の爆風と衝撃が、両砲の砲員に対して互いに悪影響を及ぼし、作業効率の低下も招きました。

 実は他国の海軍でも、過去にこのような2段重ね砲塔が検討されましたが、いずれも実用上の問題が多すぎるとして実際には造られませんでした。アメリカ海軍だけが形にしたのです。他国の海軍関係者らはアメリカの失敗を見て、自分たちの判断が間違いではなかったことを、改めて検証した結果になりました。


アメリカ戦艦「キアサージ」(画像:アメリカ海軍)。

 しかし、当のアメリカ海軍は懲りませんでした。キアサージ級の就役から6年後に誕生したバージニア級戦艦で、再び2段式砲塔を一部の艦に装備して実験したのです。当然ながらその結果は、キアサージ級と同じく実用性に乏しいものでした。

 こうして、砲塔の2段重ねは実用上、大きな問題があることが明確となり、以降、採用されることなく姿を消しました。

 ちなみに、このバージニア級の就役と同じ年、イギリスでは副砲や中間砲の多くを廃止して主砲の口径を統一し、火力を大きく向上させた戦艦「ドレッドノート」が就役しています。

「ドレッドノート」の登場で、さまざまな口径(射程)の火砲を取りそろえた戦艦は一挙に旧式化したため、以後は砲塔を2段重ねにする必要がなくなったともいえるでしょう。