「飛行機+潜水艦」本気か!? 見果てぬ「潜水機」の夢 米ソが構想 実際つくったヤツもいた!
空中と海中を自在に往来できる“空飛ぶ潜水艦”。夢のような乗りものですが、実用化されたことはありません。ただしソ連とアメリカでは構想があり、アメリカでは過去、個人の技術者が完成させています。どのような代物だったのでしょうか。
飛行速度185km/hにして潜水時間48時間!?
「飛行機+船=飛行艇があるのだから、飛行機+潜水艦=潜水機(?)もありではないか」
SFファンが夢見そうな乗りものですが現実味がありません。ところが過去には研究されて、アメリカでは実機まで作られています。
飛行機+潜水艦=潜水機、“空飛ぶ潜水艦”は実現するのか。写真はイメージ(画像:アメリカ海軍)。
1934(昭和9)年、ソ連のレニングラードにあったドゼルジンスキー高等海洋工学研究所(現・海軍工科大学)で学んでいたボリス・ウシャコフという学生が、「飛行潜水艦」(LPL)のアイデアを発表します。学生らしい突飛なアイデアで終わらせないのがソ連のチャレンジ精神溢れるところで、1936(昭和11)年に軍科学研究委員会(NIVK)に採用されると予算がつき、詳細設計が始まります。
計画では、LPLは低翼単葉の三発機で、2つのフロートと潜水艦のカンニングタワー(司令塔)のようなものが組み合わさった外観でした。1200馬力のAM-34エンジンを搭載し飛行速度は185km/h。航続距離800kmにして45mの深度まで潜水でき、潜水時間は48時間。水中動力は10馬力の電気モーターで、水中速度は2〜3ノット、18インチ魚雷2発を装備することになっていました。
ウシャコフは単なる技術的好奇心だけでLPLを考えたわけではなく、実際に軍用として使うつもりでした。海上を哨戒飛行し、敵艦を発見したら進路に先回りして着水潜水し、待ち伏せて魚雷攻撃をする。または夜間、敵の港湾に侵入して偵察監視活動を行い、必要に応じて魚雷で攻撃、浮上離水して離脱する、というものでした。
アメリカ海軍が設計を公募
LPLが飛行形態から潜水形態になるには、3基のエンジンを防水カバーする必要があります。乗員は飛行機の操縦席から水密区画のカンニングタワーに移動しなくてはなりません。潜水するには操縦席を含む胴体やフロート、主翼のほとんどに注水し、潜水後はカンニングタワーで操縦しながら潜望鏡で外部視察を行うというものでした。
浮上する際は逆の手順となります。潜水に要する時間は1分30秒、浮上には1分45秒とされていました。
LPLは一般的な潜水艦のように水密区画と注水区画がある2重構造でなく、機内にそのまま注水するので配線や計器類、飛行機の操縦系はすべて防水処理する必要がありました。先述の通り、エンジンの水密は防水カバーをすることになっていましたが、具体的にどうするつもりだったのでしょうか。
このように技術的課題は山積で、結局1937(昭和12)年に設計は中止されます。模型も含め試作機はありません。好奇心いっぱいの奇想天外兵器ではありますが、当時すでに雷撃機も潜水艦も実用の域に達しており、戦略的にも戦術的にもこれらを統合する必要性はなかったように思われます。
それでも発案者のウシャコフは個人的に潜水機の夢を追いかけていたようで、1943(昭和18)年にソ連内務人民委員部(NKVD)長官のラヴレンティ・ベリアが直接に指示してプロジェクトが復活すると、1947(昭和22)年まで密に研究を続けていたともいわれます。
ソ連では形になりませんでしたが、アメリカでは1964(昭和39)年、海軍が対潜任務用潜水機の設計公募を行います。同年、ロッキード社は潜水機CL-865を提案し、単発プロペラ式と胴体側面の双発ダクテッドファン推進式の2案を示しました。水中では水深23m、速度18ノット、潜水10時間までの耐久性を想定。しかし開発費がかさむと判断され、初期設計案の段階を超えることはありませんでした。
さぁ完成 スペックのほどは
米ソとも軍は潜水機を諦めるのですが、これで話は終わりません。なんと、アメリカのラジコンファンが実際に個人で作ってしまったのです。
海軍タービン機関試験所で働く技術者のドナルド・V・リード氏は、RFS-1「Flub」という“空飛ぶ潜水艦”を作ります。小型1人乗りで軽飛行機用の4気筒65馬力ライカムエンジンを搭載し、水中での推進力は1馬力の小さな電気モーターでした。機内は水密ではなかったので、操縦士はスキューバギア(ダイビング機材)を装着しなければなりませんでした。
アメリカ海軍が1960年代に構想した潜水機(画像:アメリカ海軍)。
「Flub」は1962(昭和37)年に初飛行します。高度約20mまで上昇し、速度は約97km/hに達しましたが、飛行距離は約30mでした。この時はまだ潜水できませんでしたが、1964年に潜水にも成功し、最大深度は約3.6m、速度は2ノット以下を記録しました。「Flub」は特許出願の要件も満たしており、長年の夢実現に前進するかとも思われましたが、海軍も空軍も関心を示しませんでした。
それから40年あまり。アメリカ国防高等研究開発局(DARPA)が2008(平成20)年、潜水飛行機の提案依頼書(BAA)をリリースしました。潜水艦から発進し、目標近くまで飛行ののち着水潜水、海岸まで要員を送り届け沖合で潜水待機し、要員を収容して離脱するという特殊作戦要員の潜入用です。
これを受け、2010(平成22)年にはカーデロック社が、翼長30mの三角翼、双発ターボファンエンジンと水中推進用に格納式電動スラスター1基、乗員2〜6名の機体の案を提出し、実現可能であるとしています。
潜水機とは夢のある乗りものですが、飛行機と潜水艦に求められる技術は全く別物であり実現は困難そうに見えます。しかし21世紀になってもその夢は無くなっていないようです。技術の進歩で実現できるかもしれませんが、ニーズとコストが見合うかは別問題でしょう。