東海道新幹線「のぞみ」の下り列車で名古屋到着前、「時刻通り通過しました」という車内放送が流れることで知られる三河安城駅。地元はこの放送をどう思っているのでしょうか。

「三河安城駅を時刻通り通過」放送 いつから始まった?

 東海道新幹線「のぞみ」に乗ると、名古屋の手前で流れる「ただいま三河安城駅を時刻どおりに通過いたしました。次の名古屋までおよそ9分です」という車内放送。「時刻通り」通過されてしまうことで知られる三河安城駅ですが、地元はどう思っているのでしょうか。


東海道新幹線(画像:写真AC)。

 JR東海によると、この車内放送は、停車駅間の所要時間が長くなる「のぞみ」や一部の「ひかり」で、降車する乗客にあらかじめ停車駅を案内することを目的に実施しているといいます。ただ、車内放送がいつ頃から始まったのかは、放送内容のマニュアル類が改訂を重ねていることもあり「不明」だそうです。
 
 SNSでは、三河安城駅が「時刻通り通過される駅」として、しばしばネタにされることも。「乗りものニュース」が2021年、東海道新幹線利用者を対象に実施したアンケート調査「東海道新幹線の駅で最も影が薄いと思う駅ランキング」で、1位となったのも三河安城駅でした。
 
 2023年4月現在、停車するのは「こだま」のみ。新幹線停車駅にもかかわらず在来線の快速列車すら通過するのも珍しいポイントでしょう。

 そんな「影が薄い」三河安城駅ですが、駅がある愛知県安城市に、この車内放送をどう思っているのか聞いたところ「時刻通り通過されてしまうことを逆手にとってPRを行っています」(都市計画課)と話します。様々なまちづくりの取組みに新幹線車内放送のフレーズを使っているそうで、「時刻通り通過」されるのはまんざらでもないようです。

「時刻通り通過」を逆手に取った取り組みとは

 この車内放送を逆手に取った取り組みの一つとして、市は2021年の秋に「三河安城駅で定刻以上に滞在してみませんか?」と題したポスターを作成し、SNSにも投稿しています。自治体の公式ツイッターは“スルー”される投稿も多い中、この投稿は通常と比べて100倍以上既読されるなど、予想を上回る反響があったようです。

 さらに、市では「定刻通りに通過させない多目的交流拠点(アリーナ)を活かした協創のまちづくり」をテーマに、駅周辺を対象に「街をつかいたおす」アイデアを求める「デザインコンペin三河安城」を2022年に実施しています。

 この多目的交流拠点は、駅から徒歩3分の場所に、プロバスケットボールチーム「シーホース三河」のホームアリーナ(収容人数約5000人)などが入り、2026年に完成する予定です 。


三河安城駅(画像:写真AC)。

 もともと三河安城駅周辺は、新幹線駅の開業をきっかけとした土地区画整理事業によって整備され、居住者が増加してきた経緯があります。駅の利用者数もコロナ禍前までは増加傾向にありました。一方、街に人の交流を促すような機能が不十分で、潜在能力を活かせていない課題があるといいます。
 
 今後、駅周辺に「スポーツ」という要素が加わることで、新たな交流が生まれて「時刻通り通過」させない街になれるのか、これから三河安城の逆襲が本格化しそうです。