自衛隊いよいよ「撃たれてもおかしくない地域」へ スーダン邦人救助は屈指の難関ミッションに?
内乱が続くスーダンに残る日本人などを救出するため、政府は自衛隊を派遣し、近傍のジブチで待機させています。ただ、同じようなことは2021年のアフガニスタンでもありました。その時と今回ではどう違うのでしょうか。
何度もクーデターが起きているスーダン
日本政府は2023年4月22日、内乱状態に陥ったスーダンの在留邦人を退避させるため、航空自衛隊の輸送機をスーダンの東にあるジブチへ派遣しました。今回は、「スーダンに滞在している約60名の日本人を退避させる」というミッションです。この任務を実行すべく、既に日本を離れた自衛隊の統合部隊は航空自衛隊のC-130H輸送機、C-2輸送機、そしてKC-767空中給油輸送機を各1機ずつ、計3機を運用します。
自衛隊は2021年にも、アフガニスタンの在留邦人輸送を行っていますが、今回は難易度が全く異なります。自衛隊として初めて、外国の“保護されていない”危険地域で遂行することになるからです。
航空自衛隊のC-130H輸送機。今回は1機のみの派遣となった(武若雅哉撮影)。
まず、今回の在留邦人の避難に至る経緯を振り返りましょう。スーダンの政治体制は、長年、独裁政権が続く状況でした。それに終止符を打ったのが2019年のクーデター。これによってスーダン軍が暫定的に政権の担い手となると、民主化に向けた共同統治を始めたものの、軍と民主化勢力の関係は日増しに悪化し、2021年に再びクーデターが勃発する事態となりました。そこで今度は国連が介入するも、事態はさらに悪化。そして2023年には首都ハルツームにおいてスーダン軍と、軍の再編や民主化に強く反発する準軍事組織「RSF」とが衝突するまでに至ったのです。
なお、RSFとは2003年に勃発したスーダン西部のダルフール紛争がきっかけとなって設立された民兵組織です。当時の政権が反対派を弾圧するため、全面的な支援を行って組織された軍とは別の武装組織で、10万人近い構成員がいるともいわれています。
このRSFと国軍の戦闘は日増しに激化、すでに数百人が死亡し、数千人が負傷していると伝えられています。
2年前のアフガニスタンとは異なるポイント
冒頭に記したように、自衛隊機による在留邦人の輸送は今回のスーダンが初めてではありません。2年前にもアフガニスタンから邦人を避難させるため、隣国パキスタンを含め派遣されています。
ただ、アフガニスタンでは、アメリカ軍などによって安全が確保されたカブールの空港に航空自衛隊の輸送機が降り立ち、自力で空港まで辿り着いた在留邦人を、隣国のパキスタンにあるイスラマバードの空港まで空輸するというミッションでした。
このとき、自衛隊の部隊は危険な空港外に出ることは想定しておらず、実際は機内から一歩も出ることなく終わったとも言われています。つまり、陸上総隊隷下の「中央即応連隊」などで編成されている「誘導輸送隊」は輸送機から降りることすらできなかったようです。
この背景には日本の国内法と、アフガニスタンや関係諸国との間にある法律が障壁になったといわれていますが、真相は不明なままです。
航空自衛隊のC-2輸送機。最終的に22機まで増える予定(武若雅哉撮影)。
また、航空自衛隊は当時、C-130H輸送機2機とC-2輸送機1機の計3機でパキスタンまで向かいましたが、現地での機体トラブルのため、結局使用できたのはC-130H輸送機1機だけでした。
そこで、今回は少しでも機体のトラブルを回避できるよう、3種類の輸送機を派遣したとも言われています。機種が異なれば、仮に1機種でトラブルが発生したとしても他の機種には大きな影響を与えることがないため、機体チェックに余計な時間を割く必要性を最低限まで減らせるからです。
そして最も気になるのが、自衛隊として初となる「陸上輸送」が行われるのか否かという点です。
陸自のレア装備「輸送防護車」は使われるか?
アフガニスタンでも発生したように、「誘導輸送隊」が輸送機から降りられないのであれば、そもそもこの「誘導輸送隊」は現地で活動することはできません。つまり、アフガニスタンでは障壁となった法律の壁をいかにクリアするのかというのが最初のキモです。
また、中央即応連隊が保有する邦人輸送専用装備である「輸送防護車」が運ばれた形跡もありません。となると、防弾処置された高機動車や大型トラックなどが輸送されている可能性もありますが、スーダンの在留邦人は首都ハルツームから別の都市へ陸路を用いて移動していると報道されているため、「誘導輸送隊」が本車を使って救出するという手段は選択されない可能性が高いです。
では実際にどのような救出ミッションとなるのでしょうか。
航空自衛隊のKC-767空中給油・輸送機。 空中給油機といえども、機内は普通の旅客機と大差はないため、最大200名程度の人員を輸送できる(武若雅哉撮影)。
現実的にはスーダン北部や東部にある別の空港に航空自衛隊の輸送機を派遣し、そこに到着した在留邦人を機内に収容して、ジブチまで空輸するという手段でしょう。スーダンの首都から離れれば、それだけ危険性は低くなり、より安全に輸送機を飛ばすことができるという考えです。
一方、アメリカは陸軍が保有する特殊作戦用ヘリコプターのMH-47を3機使って100名弱の在スーダン米国人を安全な場所まで輸送し、イギリス軍やドイツ軍などもそれぞれの自国民を輸送機などで退避させています。
自衛隊としても、スーダンに展開している同盟国や友好国などの支援を受けながらスーダン在留邦人を陸上輸送していると考えられますが、すでに国連と連携して陸路を移動しているとの報道も出始めています。いずれにせよ、どんな方法でも被害が出ないことが最善です。筆者としては全員が無事に退避できることを願ってやみません。