ホンダ「CL250」名車スクランブラー復活の衝撃
ホンダの新型CL250と、その先祖にあたるドリームCL72スクランブラー(筆者撮影/写真:本田技研工業)
ホンダが2023年5月18日に発売を予定する250ccスポーツ「CL250」は、1960年代や1970年代にヒットしたスクランブラーというスタイルを採用するバイクだ。オンロード車をベースに、オフロードでの走破性を高めたオン・オフ両用車がスクランブラー。当時、ホンダでも50ccや125cc、250ccや450ccなど、さまざまな排気量の「CL」シリーズをリリースし、大きなセールスを記録したが、新型モデルは、そうした往年の名車を元祖に持つ。
かつての名車をオマージュしたレトロなフォルムと現代的テイストを融合することで、街中にもマッチするスタイリッシュなスタイルを実現。しかもオン・オフ両方に対応するため、キャンプなど近年人気のアウトドアでのバイク旅も楽しめる。さらに高速道路を走れることで郊外などにも行きやすく、車検がないことで維持費も比較的安い軽二輪クラスに属することで、近年増加傾向にある若いライダーを中心に、リターンライダーなどの幅広い層から注目されている。
そんなホンダの最新モデルをバイクの一大展示会「第50回 東京モーターサイクルショー」(2023年3月24〜26日・東京ビッグサイト)でチェックしてみた。ここでは、元祖となったCLの歴史をはじめ、装備などの詳細、現場で車両にまたがってみた印象などを紹介。また、どんなユーザーに最適で、どんな楽しみ方を期待できるのかなども検証する。
CLの歴史とスクランブラーの意味
1962年に登場したドリームCL72スクランブラー(写真:本田技研工業)
CL250の元祖は、1962年に登場した250ccの「ドリームCL72スクランブラー」だ。スクランブラーとは、前述のとおり、オンロードモデルをベースに、オフロードを走破できる装備などを備えたバイクのこと。当時は、オフロード専用モデルがほぼ存在しなかったため、ロードバイクをベースに、凹凸がある悪路でも走れるようにサスペンションのストローク量をアップしたり、マフラーが路面にヒットしないようアップタイプに変更したりするなどで対応。現在、一般的なオフロード車の草分け的バイクだ。
ドリームCL72スクランブラーのベースになったドリームCB72スーパースポーツ(写真:本田技研工業)
主に北米市場のニーズに対応するために開発されたドリームCL72スクランブラーも、ベース車は1960年登場のロードスポーツ「ドリームCB72スーパースポーツ」だった。アップタイプマフラーや19インチフロントホイールなど、各部の装備をオフロード走行向けに変更。当時のスクランブラーモデルで一般的だった方程式に則して作られた。
国産初のスクランブラーともいわれるドリームCL72スクランブラーは、数々のオフロードレースなどで活躍したこともあり、北米や日本で大ヒットを記録する。そして、その後、これも先述のとおり、50ccや125cc、250ccや450ccなど、さまざまなモデルが発売されシリーズ化。1960年代や1970年代に多くのファンを虜(とりこ)にした。
新型CL250の詳細について
ホンダが発表した新型CL250(筆者撮影)
500ccのエンジンを搭載した新型CL500(筆者撮影)
そんな名車CLの車名を継承したのがCL250だ。ちなみに兄弟車には、500cc・2気筒エンジンの「CL500」もあり、2023年5月25日に発売が予定されている。これら2モデルは、同様のスタイルや装備などを採用するが、大型自動二輪免許でしか乗れないCL500と比べ、CL250は比較的取得が楽な普通自動二輪免許で乗ることが可能だ。また、250ccクラスのバイクは高速道路を走れるので、郊外などへ出かける長距離ツーリングなどにも対応。さらに車検がないので維持費もより安い。
価格(税込)もCL500が86万3500円なのに対し、CL250は62万1500円と24万円以上安く、免許取りたての若い世代にも比較的手が届きやすい。さらに250ccの軽い車体は、中高年のリターンライダーや女性ライダーにも乗りやすく、より幅広いユーザーに対応。注目度ではCL250のほうが上だといえる。そこで、ここでは、CL250に焦点をあて、その装備や特徴などを紹介する。
CL250に装着されたアップタイプのマフラー(筆者撮影)
比較的シンプルな外観でまず目を惹くのが、スクランブラーの大きな特徴といえるアップタイプのマフラーだ。車体右側後方へ伸びるサイレンサーが、ワイルドなスタイルを演出する。また、アップタイプのバーハンドルには、オフロードテイストを演出したグリップを装備。ラウンドシェイプをモチーフとした燃料タンク、座面にワディング加工を施したシートなどが、ヘリテージかつ精悍な雰囲気を醸し出す。さらにLEDタイプのヘッドライトやテールランプなど、現代的な装備も投入することで、過去と現在のテイストを融合させ、古くささを感じさせない小粋なフォルムを実現する。
新型CL250のエンジンまわり(筆者撮影)
エンジンには、最高出力24ps/8500rpm、最大トルク2.3kgf・m/6250rpmを発揮する249ccの水冷4ストローク単気筒を搭載。低回転域からトルクフルに出力を発生させるとともに、高回転域までスムーズに吹け上がるフィーリングを実現。オンロードからオフロードまで幅広いシーンに対応し、単気筒ならではの小気味よい鼓動感も味わえるという。
また、「アシスト&スリッパークラッチ」も搭載。クラッチレバーの操作感を軽くするとともに、シフトダウンで急激なエンジンブレーキがかかった場合の後輪ホッピング(後輪が跳ねるように振れる現象)を軽減する機構により、減速時などの高い走行安定性に貢献する。
ボディやサスペンションなどの細部について
リアから見たCL250(筆者撮影)
車体には、丸パイプで構成されたダイヤモンドフレームを採用する。剛性と重量バランスを最適化することで、軽さや安定性に貢献。また、リア後端でループ状につながる美しいパイプワークは、クラシカルな車体フォルムを一層引き立てる効果を生んでいる。
ホイールはフロント19インチ・リア17インチで、前輪を大きくしたオフロード車的スタイルを採用。ブロックパターンのタイヤとのマッチングにより、オン・オフ両方での高い走破性や優れた快適性を実現する。
フロントサスペンションとタイヤ&ホイール(筆者撮影)
サスペンションには、フロントに直径41mmの正立フォークを採用する。オンロードとオフロードの両方で、快適な乗り心地を実現する余裕あるストローク量を確保するため、オイルとスプリングのマッチングを最適化。また、リアサスペンションは、5段階のプリロード調整機構付きだ。好みや乗る状況などでスプリングにかける負荷を変更することで、荷物の積載時や2人乗りのタンデム走行時などでも、最適な車体姿勢を保つことができる。
ほかにもフロントフォークには、往年のスクランブラーでも採用していたフォークブーツも採用。クラシカルな外観に加え、悪路走行時などにフォークのインナーパイプを飛石や泥から守る役割も果たす。
なお、カラーバリエーションは3色を設定。アクティブな雰囲気の「キャンディーエナジーオレンジ」のほか、アウトドアにマッチしそうな「パールカデットグレー」、都会的な印象の「パールヒマラヤズホワイト」を用意する。
CL250のシート(筆者撮影)
今回のショーでは、前後輪を器具で固定した停止状態ではあるが、実車にまたがることもできたので、筆者も早速乗ってみた。シート高790mmのCL250は、片足だけを地面に着けた場合、身長165cm、体重59kgの筆者でも、カカトまでベッタリと着けることができる。一方、両足を着ける場合は、シートが比較的広いこともあり、つま先立ちとなるが、車両重量は172kgと軽量のため、バランスは崩しにくいだろう。これなら信号待ちで停車する際も、立ちゴケの不安はない。
少し気になったのは、バイクから降りるとき。左足を地面に着け、右足を上げて車体左側へ移動させようとした際に、アップタイプマフラーのサイレンサー部分が右足に引っかかったのだ。サイレンサー部にはカバーが装着してあるので、長ズボンにシューズといったバイクに乗る際の一般的装備をしていれば、火傷などの心配はないだろう。ただ、とくに筆者のように身長が低いライダーの場合、マフラーに足が引っかかることでバランスを崩すケースもあるかもしれない。車両重量が軽く、車体も支えやすいバイクだから、立ちゴケまでの心配はないだろうが、バイクの扱いに不慣れな初心者などは少し注意が必要といえる。
同じ250ccクラスのレブルと比較
新型CL250のサイドシルエット(写真:本田技研工業)
レブルのサイドシルエット(写真:本田技研工業)
ちなみにホンダのクルーザータイプで、同じく250cc単気筒エンジンを搭載する「レブル250」は、シート高690mmで、車両重量171〜172kg。このモデルも足着き性がよく軽量なことで、初心者や女性ライダーなどに人気だが、足着き性だけでいえばシート高が100mm低いレブル250のほうがいい。これは、オンロード走行を重視し、最低地上高を134mmと低く設定していることもあるのだが、一方のCL250では、最低地上高を165mmと31mm高く設定している。こうした差により、CL250は、凹凸があるオフロードでの走りをより考慮した設定となっていることがわかる。
走行時のように両足をステップに載せたときのポジションは、上体が起きて、渋滞路や長距離ツーリングなどでも、非常に楽に乗れそうなことがうかがえる。高めのハンドルは、細い路地での切り返しやUターンなどでも、操作しやすそうだ。また、ギャップや轍(わだち)があるダート道では、前輪に荷重をかけ過ぎるとハンドルをとられ転倒しやすい。そのため、例えば、立ち姿勢になりハンドルをやや引っ張る感じで、腰を引き後輪へ荷重をかける場合もあるが、そんな制御もしやすい気がする。なお、シートの座り心地も比較的快適。悪路や長時間の走行でも、お尻が痛くなりにくそうだ。
街中にも溶け込むCL250のスタイリング(写真:本田技研工業)
CL250に期待できるのは、まず、街をスタイリッシュに走れること。最近人気が高いアウトドア・ブランドのジャケットやパンツ、トレッキングシューズなどを身にまとって乗っても、このバイクなら十分にマッチするだろう。また、先述のとおり、アップライトなポジションや軽い車体は、街中での取りまわしも比較的楽なため、通勤・通学や買い物などの普段使いにも使いやすそうだ。さらに低速からトルクフルな単気筒エンジンのため、街中はもちろん、郊外の曲がりくねったワインディングなどでも、ある程度の軽快な走りを楽しめるだろう。
高速道路を使った巡航走行などについては、実際に乗ってみないとハッキリとはわからない。最高出力は24psなので、重い荷物を積載したり、タンデム走行時に合流で加速車線を走ったりする場合などには、やや物足りなさを感じるかもしれない。軽い荷物を載せたソロライディング(1人乗り)であれば、高速道路でもさほど不満は感じないかもしれないが、このあたりは、機会があればぜひ試してみたいところだ。おそらく、排気量がより大きく、最高出力も46psを発揮する兄弟車のCL500のほうが、高速道路ではより余裕の走りを発揮することは間違いないだろう。
ちょっとした悪路も走れるという安心感
そして、CL250の特徴のひとつであるオフロード走行。このモデルのタイヤは、ダンロップ製TRAILMAX MIXTOURが装備されている。同じくオン・オフ両方を走れるアドベンチャーバイクというツアラーモデルに採用されることが多いタイヤで、オンロードでの巡航性能とダート走破性を最適にバランスさせていることが特徴だ。フロント19・リア17インチのホイールに、このタイヤをマッチングさせることで、CL250がオフロードでもある程度の走りをみせてくれることは確かだといえる。
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ただし、倒木や樹木が立ち並んでいたり、激しいアップダウンがあったりする山奥の林道などを、ハードに走ることは難しいかもしれない。そこまでの走りに対応させようとすると、サスペンションの設定をよりハードにする必要があり、そうなるとオンロードでの快適性を犠牲にすることになるからだ。CL250は、あくまでオンロードとオフロードの両方を、気持ちよく走ることが目的のバイク。だが、例えば、キャンプ場へ行く途中にある未舗装路やフラットなダート道などであれば、比較的楽しく走れそうだ。最近のアウトドアブームで増加している、バイクにテントなどを積んでキャンプなどに出かけるユーザーなどにも、十分対応することが予想できる。
日常の足から休日のツーリングやキャンプなど、幅広いニーズに応えてくれそうなバイクがCL250だ。久々に登場するスクランブラーであるこのモデルがネオクラシックなスタイルだけでなく、気軽に郊外へ出かけ、存分にアウトドアを楽しめる魅力を持つことに期待したい。
(平塚 直樹 : ライター&エディター)