自分達だけでは何もできない! からの脱却/野町 直弘
前回「何とかしろ!からの脱却」で、下記の内容を取り上げました。
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「何とかしろ!」では「何ともならない」時代になりました。経営トップや調達部門長は意識を変えなければなりません。
原材料高騰に対しては、全社で協力し、顧客への値上げを説明し、理解してもらい、売価への反映を行っていかねばならないでしょう。そのためには、営業部門だけでなく、調達購買部門
や物流部門、生産部門や原価管理部門などの協力が必要になります。また、そのための体制整備や意思決定のための仕組みづくりが必要となるでしょう。
供給不足や納期遅れに対しては、日頃からサプライヤに有利に扱ってもらうための関係性づくりや、代替品採用の意思決定のスピードアップ、新規開発段階から調達性の良い部品の採用などを全社で取り組むための仕組みづくりなどが、必要となります。
このように、2023年は「何とかしろ!」からの脱却を進めていく時期になるでしょう。
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この記事に対して、ある方からこんなご指摘がありました。「この記事は経営層に対するメッセージなのか、それとも調達担当者に対するメッセージなのか?前者であれば分かるが、後者であったら、調達担当に悪い影響を与えるのでは。」という内容です。
私にとっては意外なご指摘だったので、「悪い影響とは?」と伺ったところ、「調達部門や調達担当者だけでは、何もできない、から自分達だけでは何もできない、という思考停止につながってしまう}とのことでした。
もちろん、私の言いたかったことは、調達担当者にそのような誤解を与えることではありません。主に経営トップや経営トップをサポートする立場であるべき、調達部門長に向けたもので、「経営トップの意識改革と調達購買部門をはじめとするサプライチェーン改革を、今すぐ進めていかないと立ち遅れてしまう」というメッセージでした。
一方で、ご指摘があったように、調達購買部門の担当者が「自分達だけでは何もできない」という意識を持ってしまいがちである、ということも私は否定できません。多くの企業で調達購買部門は、従来社内であまり力を持っておらず、経営からの期待や注目度も、それほど高くなかったと言えます。そういう状況なので、多くの調達購買担当者は「自分達だけでは何もできない!」という意識を持ちやすいことも否定はできないでしょう。
但し、自分達だけでは何もできない、ままで良いでしょうか。自分達だけで何ともならない、から何もしない、のではなく、自分達だけでは何もできない、なら「できるようにしよう!」にしなければいけません。
それでは、自分達だけでは何もできない、から脱却し、「できるようにしよう」に転換するためにはどうすればいいでしょうか。社内での評価や期待を向上させることは、とても難しいことですが、無理ではありません。ここでは、私の経験からいくつかのヒントを伝授していきます。
一つは「見せる化」です。
以前もメルマガ等で書いているので、ご存知な方もいらっしゃるかも知れませんが、「見せる化」とは「見える化」をしかけていくことです。つまり様々なKPIなど、マネジメントに「見せたい」ものを可視化することになります。可視化することで、アピールするのです。これは調達購買部門長やマネジャークラスの責務と考えます。
具体的には、自分達のKPIの設定と目標達成状況の可視化、経営に対する貢献実績などを、最低でも月次の頻度で、アピールすることです。ある企業では、それまで、KPIは設定されていましたが、3ヶ月に1回、例えば4-6月の実績は7月頭にレポーティングしていました。それを月次での報告を月初5稼働日以内に行うように改善を行ったのです。この会社では、この活動によって経営層から調達購買部門が、より注目されるようになりました。
もう一つは「CS調査」です。
ある企業ではユーザー部門の調達購買部門に対するCS調査を毎年行うようになり、これによって、ユーザー部門の調達購買部門に対する評価や期待がダイレクトに見えるようになり、調達購買担当の意識改革につなげられたのです。また、これらのCS調査の結果を社内のイントラに公開し、積極的に広報することで、顧客満足度が向上していることを社内に理解させる
ことにつなげることができました。これらの活動によって、当該企業の調達購買部門は、異動希望先ランキングで上位に入るようになったのです。
このような地道な活動を続けることで、自部門の社内での地位向上につなげ、経営マネジメントや他部門に対する評価を向上し、「自分達だけでは何もできない」と諦めてしまうのではなく、経営トップや他部門への影響度を高め、全社的な取り組みを、調達購買部門主導で作っていけるようになっていかなければなりません。
「何とかしろ!からの脱却」とともに、「自分達では何もできない!」からの脱却も進めなければならないのです。それによって、サプライチェーン重視経営や、そのための仕組みを整備することができ、ひいては企業の競争力強化につなげられるでしょう。