伊豆エリアを走る観光列車「THE ROYAL EXPRESS」が、四国を走ることとなりました。北海道行きとは違い、電気機関車にけん引され、電化区間を走ります。どのような背景でこの企画が誕生したのでしょうか。

北海道の次は四国へ"出張"


クルーズ列車「THE ROYAL EXPRESS」(画像:写真AC)。

 東急が伊豆エリアで運行している観光列車「THE ROYAL EXPRESS」が、こんどは四国方面を走ります。JR四国・JR西日本・JR貨物・東急が2023年3月27日に記者会見を行い発表しました。

「THE ROYAL EXPRESS」は、「リゾート21」の愛称がある伊豆急行2100系を改造したもので、2017年に伊豆エリアで運行開始しています。インダストリアルデザイナーの水戸岡鋭治さんがプロデュースを手がけ、プラスチックを使わず、可能な限り鉄や木材、ガラスを素材に使用し、職人の手で作り上げた車内意匠が特徴です。

 2020年からは北海道へも進出しています。きっかけは、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震。被災した北海道を元気にするため、鉄道を通じ、地域の人々と全国の旅行客との交流を深めることで、観光振興と地域活性化につなげていきたいという思いで始まりました。伊豆の列車を北海道で走らせることになるため、8両編成の列車をバラバラにし、パンタグラフも外して5両分だけ機関車で順次輸送、青函トンネルを抜けて札幌市西部の札幌運転所(手稲区)にて列車として組み直されます。5両に電源車、機関車をつなげて、北海道を周遊します。

 そして発表された四国方面の運行は、岡山から高松、琴平、松山方面へ周遊する計画です。北海道エリアでの取り組みで実感された「つながり体験」を伊豆に限らず全国展開していきたいという思いがあり、今回JR四国とも取り組みを進めることになったそうです。2024年1月〜3月のうち、「4日間コース」が6回開催される予定。料金は北海道方面と同程度か少し高い「80万円周辺」とのことです。

 北海道とは異なるのが、今回はルート全部で「電化区間」を走るということ。先述した高松〜松山のエリアは、架線が整備され、ディーゼル気動車ではなく電車が走っている区間です。なぜそこだけを走るのか、旅の計画で何か北海道とは異なる要素はあるのか、東急の担当者に詳細をたずねてみました。

なぜ電化区間だけを走るのか?

――なぜ今回は電化区間だけを走るのでしょうか?

 今回は初めての四国行きということで、列車をけん引する機関車の手配が、「電気機関車」のみ実現したからです。ディーゼル機関車が手配できれば、非電化区間である松山から先の伊予灘沿岸、伊予大洲や宇和島、また琴平から先の大歩危、高知方面、さらに高松から先の徳島方面にも走ることは可能です。物理的な障壁があったからという理由では今回ありません。

――そもそも「THE ROYAL EXPRESS」の車両は、気動車ではなく電車です。電化区間なら、電気機関車にけん引されなくても自分で走れるのではないでしょうか?

 実はできないのです。電車は架線からパンタグラフで電気を取り込んで走りますが、四国ではトンネルの規格から、パンタグラフが通り抜けることができない箇所がありました。小さいパンタグラフなど検討はしましたが、実現できず、自走はあきらめました。

――伊豆から岡山までは自走するのですか? それとも北海道行きと同じく、機関車によりけん引され運ばれるのでしょうか?

 北海道の場合と同じく、8両編成をいったんバラし、パンタグラフも外し、5両だけを機関車で運び、現地で組み直します。

――「THE ROYAL EXPRESS」の車内では、バイオリニストの大迫淳英さんが、自ら作曲のテーマ曲などを演奏されます。大迫さんは四国行きにも帯同されるのでしょうか?

 はい。テーマ曲については、北海道行きの際も雄大なイメージにあったアレンジを別途していただきましたが、四国行きの際も、そのような「四国スペシャル」を用意していただければ、と考えています。

――四国行きは、なぜ1〜3月での運行なのでしょうか?

 メインである伊豆方面行きは春・秋に走り、その合間である夏に、北海道へ足を伸ばしています。最後の合間がこの冬の時期で、遠方へ行く余裕があったのです。

――四国行きの実現にあたって、どのような苦労がありましたか?

 鉄道会社が自社の線路に他社の列車を走らせるには、あらかじめ綿密に技術的なチェックを受ける必要があります。今回はJR西日本とJR四国、そしてけん引していただくJR貨物とで調整をおこないましたが、北海道の場合とは技術的な違いも多く、設備も異なり、北海道行きを実現させるまでと同じだけの苦労がありました。調整などでこれまで1年はかかっています。