JR九州が鹿児島本線で、自動列車運転支援装置を使用した列車の走行試験を開始。車両は香椎線の「DENCHA」を改造したものです。労働人口が減少する中でも必須の安全確保、そして効率化。2024年度末の実現を目指し、試行錯誤が続きます。

鹿児島本線はGoA2.0を目指す

 JR九州が2023年3月24日(金)、鹿児島本線において「自動列車運転支援装置」を使用した列車の走行試験の様子を報道陣へ公開しました。


試運転列車であるBEC819系5300番代Z5311編成(左)が香椎駅に入線。右は0番代を改造した100番代(2023年3月24日、皆越和也撮影)。

「自動列車運転支援装置」とは、運転士の操縦支援を目的としたシステムのことで、運転士がボタンを操作すると、駅出発から駅停車までの列車の加減速制御を自動で行います。遅延時の“回復運転”など、運転士による臨機応変な手動介入が可能である一方、制限速度や停止信号に対する加減速はこの装置が行います。

 対象区間は赤間〜久留米間67.4kmで、同一路線におけるGoA2.0実施区間としては日本最長です。GoAとは「Grade of Automation」の略で、2.0は運転士が乗務する自動運転レベルのこと。使用する車両は蓄電池電車BEC819系「DENCHA」5300番代で、香椎線で使われる300番代を1編成あたり2500万円かけて改造したもの。2023年度末に11編成がそろう予定です。

 試運転列車に乗車します。出発時には運転士が白い「走行開始要求ボタン」2個を押し込み発車。走行時はマスコンに手を置き、右手は指差し確認時を除きいつでも赤い「列車停止ボタン」を押せる状態にしていました。自動運転時は速度計の目視での確認作業がなく、運転士の負担軽減につながっているようです。

 発車からの加減速には全く違和感がなく、列車の停車位置も所定の位置をオーバーすることもありませんでした。途中駅で追い抜いた特急列車が予定時刻より遅れていたため、随時手動介入が実施されましたが、それも車内でのアナウンスがなければ気付かないスムーズなものでした。

 JR九州は、将来にわたる労働人口の減少や、今後の沿線人口減少の中、多くの赤字ローカル線を含む鉄道ネットワークの維持していくために、作業の自動化や機械化を推進しています。列車の自動運転化に向けた取り組みは、その大きな要素のひとつです。

香椎線での知見も踏まえて進む「自動運転」

 今回の鹿児島本線での実証には前段があります。2020年12月から香椎線で行われていた、運転士免許を持たない係員が乗務するドライバーレス自動運転(GoA2.5)の実証実験です。同社独自の自動列車停止装置(ATS-DK:パターン制御式ATS)を開発し、導入しました。


自動列車運転支援装置の中は、上部の継電器、下部の演算部から構成される。演算部からコンピュータへは黄色いケーブルで接続(2023年3月24日、皆越和也撮影)。

 鉄道事業本部安全創造部 青柳孝彦課長代理は次のように話します。

「香椎線でのドライバーレス自動運転は、走行距離30万km、停車数17万回をこなし順調に推移し、2024年度末の実用化を目指しています。鹿児島本線での実験は、いかに地上設備の増設を少なくしながら運転士の操縦支援ができるかということで、停止位置の精度、安定性走行の確認などをしています。引き続き実験を行い23年度末、つまり1年後には本格的な実証運転を目指したい」

 今回、車両の運転席右側スペースに搭載された自動列車運転支援装置は、この装置自身が線路設備のデータベースを保有しており、線路脇の信号機といった地上設備を原則不要にするとともに、車上設備の簡素化も目指します。また、運転士の走行実績をもとに理想的な走行を実現し、消費電力削減や乗り心地向上を図ります。

 さらにリアルタイムの走行データを連動させ、走行後にデータベースの補正も行います。停車位置の誤差を少なくすべく、駅ごとの実測データをもとに正確性を向上させていくとのこと。なお、現在は各駅停車での運行のみでデータベースを運用していますが、今後は区間快速や快速運転にも対応させるそうです。