日本唯一?「海底トンネル“私道”」のゆくえ “一般人立入り厳禁の島”へのアクセス変わるか
個人や企業が所有する「私道」は、その規模も様々ですが、なんと、いち企業が所有する海底トンネルも存在します。そのトンネルが通じている「島」が、今後大きく変わりそうです。
京浜工業地帯の「首都高が通過するだけの島」 秘密のアクセス路が?
「私道」というと、家の前のちょっとした道路をイメージするかもしれませんが、その規模は実に様々。山口県にある日本最長の「私道」は約30kmにも及びますし、海を渡る立派な橋の「私道」もあります。
しかし、日本で極めつけに珍しいのは、「海底トンネルの私道」ではないでしょうか。
中央がJFEスチール海底トンネルの水江町側入口。JFEの事業用地内にある(画像:Google)。
その名は「JFEスチール海底トンネル」。川崎市の臨海部、水江町地区と京浜運河の向こうの埋立地「東扇島」を結びます。トンネルを出るとさらに橋を渡り、「扇島」へと通じています。
東扇島には、本土側から一般人も通行できる川崎港海底トンネルも通じているほか、首都高湾岸線の東扇島出入口などもあります。しかし扇島へのアクセスは、この海底トンネルを通じた東扇島経由の1本道のみで、首都高もただ島を通過しているだけです。
海底トンネルを含む扇島へのルートは関係者しか通れません。そればかりか、この扇島自体が、SOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)に基づいて、一般人の立ち入りを厳格に禁止する場所となっています。
ただ、扇島にはJFEスチール東日本製鉄所のほか、ENEOSの風力発電所、東京ガスのLNG(液化天然ガス)基地、火力発電所、石油基地などがあります。そのため、JFEホールディングスによると、海底トンネルを含む扇島の道路は同社グループ関係者のほか、他の企業関係者に対しても同社から通行を許可する形で、利用を認めているそうです。
「扇島自体が当社の製鉄所を建設するため埋め立てられたもので、海底トンネルはその建設にあたってアクセス道路としてつくられました」。JFEホールディングスの担当者はこう話します。製鉄所の第一高炉が稼働した1976(昭和51)年以前からトンネルがあるというので、もう50年近くなるでしょうか。
しかし今後、扇島は大きく変化することが見込まれています。JFEスチールは鉄鋼事業の環境変化を理由に、東日本製鉄所(京浜地区)の上工程と呼ばれる高炉設備を2023年9月に休止するため、その跡地利用の検討が進んでいるのです。
「私道」じゃなくなる可能性も?
川崎市によると、土地利用の転換エリアは扇島の南東部、222ヘクタールに及ぶといい、市はこれを「川崎の100年に1度のビッグプロジェクト」と位置付けています。
すでに扇島でカーボンニュートラルエネルギーの導入が進められていることから、そうしたエネルギーの供給・運搬・利用する機能を整備して「日本のカーボンニュートラルを先導」し、多目的なオープンスペースなどを備え「首都圏の強靭化を実現する」エリアとする−−このようなビジョンを市は打ち立てています。
では、海底トンネルはどうなるのでしょうか。JFEホールディングスによると、製鉄所の設備は一部休止するものの、事業所を撤退するわけではなく、「関係者しか利用しないのは当面変わらない」といいます。
ただ、川崎市臨海部国際戦略本部は「(扇島へのアクセスが)JFEさんの構内道路(海底トンネルなど)だけだと、土地利用も進みません」とも話します。そこでまず考えられているのが、「首都高に出入口を設けて扇島のアクセスを確保する」ことだそう。入島制限のあり方や、海底トンネルを川崎市など他の道路管理者に移管するかどうかについても、アクセス方法とともに検討していくことになるといいます。
扇島とJFE関連の事業用地(画像:川崎市)。
JFEホールディングスは2023年度中にも扇島の製鉄所跡地の整備方針を公表し、2030年度までに一部土地の供用開始を目指す構えです。川崎市は、全体の土地利用転換は2050年くらいまでの長期スパンになるだろうと説明しますが、扇島へのアクセスや海底トンネルの今後については、そう遠くなく方針が決まるものとみられます。