近鉄に白旗のまま? JR奈良線に特急は走らないのか 二大観光地めぐる“方向性の違い”
京都、奈良という二大観光地を結ぶJR奈良線。しかし特急列車の設定はありません。並行する近鉄京都線には多数が設定されているのになぜでしょうか。両社には、観光地アクセスへの考え方の違いがありました。
二大観光地を結ぶも…
JR西日本の奈良線は、京都駅から奈良県の手前に位置する木津駅(京都府木津川市)までを結ぶ路線です。ただし木津駅止まりの列車はなく、同駅まで来た列車は全てがその先の奈良駅まで運行されており、「みやこ路快速」ならば奈良駅まで約45分で到達できます。
大阪・京都から奈良への快速列車に使われる221系電車。1989年登場とはいえ乗り心地、設備ともに良好(2016年11月、児山 計撮影)。
2023年現在、奈良線は日中1時間に普通列車4本と「みやこ路快速」2本が運行されており、利便性は高いといえますが、同線に特急列車の設定はありません。同線は京都と奈良という関西の二大観光都市を結び、しかも京都駅では東海道新幹線とも連絡するので、特急列車を運行すれば多くの利用が見込めそうです。
ただし歴史的に見ても定期特急列車がほとんど走っていません。国鉄時代の1967(昭和42)年からわずか2年ほど、名古屋〜奈良〜東和歌山(現・和歌山)間に特急「あすか」が設定されたのみです。
ほかにも特別料金を徴収する優等列車としては、1984(昭和59)年まで「紀ノ川」という急行もありました。しかし、これはあくまでも京都〜和歌山間の急行がたまたま奈良線を通るという性格の列車でした。
国鉄には、特急や急行はおおむね300km以上の長距離を移動するための列車という考えがあり、京都〜奈良間に限れば40kmほどしかない路線に、そもそも特急列車は不要でした。JR化後はそういった考えは薄れましたが、奈良線に限っていえば同線と並行している近鉄京都線の存在が強く影響を与えています。
奈良観光に強い近鉄
近鉄京都線は京都駅と大和西大寺駅(奈良県奈良市)を結ぶ路線で、さらに大和西大寺駅で近鉄奈良線へ接続、近鉄奈良駅まで直通する列車が多数設定されています。また京都側では竹田駅(京都市伏見区)から京都市営地下鉄烏丸線に直通し、四条や烏丸など京都市中心部にアクセスでき、高い利便性を誇ります。
ダイヤも1時間に2〜4本の特急が設定されているほか、急行もおおむね毎時3本(一部は大和西大寺駅乗り換え)設定されています。一方のJRは、京都〜城陽間と玉水駅付近で複線化工事が完了したものの、木津駅側には単線区間も残っており、特急列車の設定には制約があります。
近鉄は京都〜奈良間に特急・急行列車を多数運行。大和西大寺駅での乗り換えが発生するものの、特急「しまかぜ」や「伊勢志摩ライナー」の利用も可能(児山 計撮影)。
また、近鉄のグループには近畿日本ツーリストという旅行会社があり、近鉄線のエリアである京都や奈良の観光・宿泊施設などとも強いつながりを持っています。同社は近鉄線と宿泊施設などをセットにした旅行商品を多数販売しているほか、グループ会社の「クラブツーリズム」ではツアー列車の「かぎろひ」を所有。近鉄線内を団体列車として運行しており、近鉄グループ全体で奈良観光のシェアを押さえている状況です。また、JRに比べて近鉄奈良駅の立地が市街地や観光地に近く、高い利便性でJR奈良線に対抗しています。
こういったターミナルの立地や線路条件、さらには近鉄グループといった強力なライバルの存在によって、JRは奈良の観光対策に一歩おくれを取っているといわざるを得ません。
JRが「まほろば」で一矢報いるか?
奈良へのアクセスは京都のみならず、大阪からも近鉄が至れり尽くせりのサービスを展開していますが、JRにも有利な点があります。
それは広大な路線ネットワークです。特に外国人観光客にとっては「ジャパンレールパス」が使えるJRで、国際観光都市である奈良に行けるのは大きなメリットです。
287系電車3両編成で大阪(うめきたエリア)〜奈良間を約1時間で結ぶ臨時特急「まほろば」。途中停車駅は新大阪のみ(画像:JR西日本)。
JR西日本は2023年3月25日から、大阪(うめきたエリア)〜奈良間に臨時特急「まほろば」を土休日に設定。近鉄のターミナルが大阪市南部に位置する難波である一方、北の玄関口である梅田や新大阪駅からノンストップで奈良にアクセスできる点は、大阪府北部からの利用者には十分な選択肢となることでしょう。ちなみに一般列車ならば、大阪駅から大阪環状線・関西本線直通の「大和路快速」が運行されており、奈良へのアクセスは実はJR利用も意外と便利です。
京都駅からのアクセスは特急列車こそ設定されていませんが、「みやこ路快速」の所要時間は近鉄急行とほぼ互角。車両はクロスシートの221系電車が使われており、サービスレベルでいえば「特別料金不要でクロスシート車両を利用できる」ため、行楽輸送という点では近鉄の一般列車に対してアドバンテージとなるでしょう。
仮にJR西日本が奈良へのアクセスを改善しサービスアップを果たせば、近鉄もそれに対抗してより良いサービスを打ち出してくるかもしれません。JR西日本の「まほろば」は、そんな可能性も秘めた試金石ともいえるでしょう。