ANA、スカイマーク、そしてJALが相次ぎボーイング「737MAX」導入を決定。過去に2度の航空事故を起こし、各国の航空当局で運航停止措置が下されていた機種です。なぜこのような判断に至ったのでしょうか。

問題となった「自動で機首下げシステム」

 JAL(日本航空)が2023年3月23日、ボーイング社のロングセラー機「737シリーズ」の最新モデル「737MAX」の導入を発表しました。同機をめぐっては2022年にANA(全日空)とスカイマークが導入を決定しており、それに続く形です。

 とはいえ、この機は過去に2度の航空事故を起こし、各国の航空当局で1年9か月もの運航停止措置が下されていたモデルです。なぜ、そのような状況でも、相次いでこの機の導入が決定されたのでしょうか。


ボーイング737MAXのひとつ、737-8型機のイメージ(画像:ボーイング)。

 737MAXは2016年に初飛行。大型で効率の良いエンジンの採用や操縦システムの改修などが加えられており、737-800を始めとする在来タイプと比較して約15%ほど、燃費効率の向上などが図られているとのことです。

 しかし737MAXは、2018年にジャカルタで、2019年にエチオピアで連続して墜落事故が発生。これを受け、先述の運航停止措置が下されたのです。これらの事故原因は、737MAXから新搭載された「操縦特性補正システム(MCAS)」が作動したことで、パイロットの意に反して機首を下げ続けたことが要因とされています。

 737MAXシリーズに搭載されている新エンジンは、従来型より直径が大きいことが特徴。そのため、エンジン下部と地面の間隔を確保するために、主翼への取り付け位置が前方かつ上方に変更されています。これにより、飛行中フラップ(高揚力装置)が格納されている状態となり、機体の迎え角が大きい姿勢のときに、機首上げの力が大きくなる特性があります。

 この対策のため、新搭載されたのが「操縦特性補正システム」です。主翼に対向する空気の流れの角度(迎え角)の大きさと機体の速度に応じて、自動的に水平尾翼にある「水平安定板(スタビライザー)」の角度を機首下げ方向に動かす機能です。つまり、一定条件で自動的に機首を下げてくれる機能ということができます。これを判断するのが、機首部分の「迎え角センサー」です。

 2度の事故はこの「迎え角センサー」が、機首が上がりすぎていると誤判断したことをきっかけとした操縦特性補正システムのトラブルにより、パイロットの意思に反して機首が下がり続けたことが原因とされています。

JAL・ANAなどはなぜライバル機を増やさなかった?

 運航停止期間中に、ボーイング社では同システムの誤作動防止や異常検知機能の追加、迎え角センサーの警告表示の見直し、飛行マニュアルの改定などを実施。2020年12月のブラジルのGOL航空を皮切りに順次運航が再開され、「大きな不具合なく今もなお着実に運航実績を重ねている」(ANA)としています。

 一方でJALも「2020年後半以降で140万回以上の商業飛行、約350万飛行時間の実績を積み重ねています」とその実績を公開。整備士出身である同社の赤坂祐二社長も「安全性の評価は社内でも最優先に、万全を期して実施しましたが、事故原因の解析や原因への対応もしっかりされていると認識しています」と話します。


JALのボーイング737-8のイメージ(画像:JAL)。

 上記の2社、そしてスカイマークには、機材構成に共通の特徴があります。それは、737MAXの前世代モデルである「737-800」を保有していることです。

 737MAXは操縦システムや機体設計などは極力737-800と共通化されており、現在のリソースをそのまま活かすことが可能なのもポイント。JALの赤坂社長はその選定要因として、「737-800とファミリア(親和性の高い)な機種であること」を挙げています。一方でANAの担当者も、「在来機である737-800との共通性や次世代機としての経済優位性も大きなポイント」としています。

 つまり、もし今後も引き続き安全運航ができれば、現在737-800にかけているリソースをそのまま活用しながら、新型機となったことで経済性・旅客の快適性も向上できるということになるでしょう。

 一方で、737MAXには明確なライバル機が存在します。「世界でもっとも売れた旅客機」であるエアバスA320シリーズです。この機はANAでも導入されているほか、JALでもエアバス製の「A350」シリーズを採用しているため、選択肢のひとつとして考えられます。

「足らない発注数」が示すJAL・ANAの戦略

 機材を737-800で統一していることから、他機に乗り換えると膨大な労力を必要とするスカイマークはさておき、JALとANAは運航再開後に無事故である737MAXの安全性は認めつつ、しっかりと他の案を考えている可能性もあるでしょう。それは、今回の発注機数にも現れています。

 JALは2022年3月時点で64機(グループ累計)、ANAは同時点で38機の737-800を保有していることを公開しています。その一方で、737MAXの発注数はJALが確定発注21機、ANAが確定発注20機、オプション10機の計30機と、全ての737-800を737MAXに更新すると考えると、明らかに足らないのです。


ANAのボーイング737-8のイメージ(画像:ANA)。

 これはある意味、「万が一の際にはライバル機の導入・増備を含む別の案を考える」という冗長性を持った体制を整えているとも捉えることができます。ANAの担当者は「737-800をすべて737-8に更新すると考えると今回の発注分ではまかないきれない」とし、JALの赤坂社長も古い機齢の737-800を737MAXに置き換える方針としたうえ、「残りの737-800の後継機は複数の候補から選定していくことになると思います」と話しています。

 ただ、3社が導入した事実から分かる通り、安全性が引き続き担保されれば、737MAXは、3社にとって「最高の後継機」となる性能をもっていることは間違いなさそうです。