【インサイトナウ編集長対談】やると決めて心の窓を開いた瞬間に、その人の人生は変わる。/INSIGHT NOW! 編集部
お相手
唐澤 理恵様
株式会社パーソナルデザイン 代表取締役
社長は会社を代表する立場。社長にふさわしい姿であってほしい
猪口 唐澤さんのメニューでは、外見だけでなく、内面まで含めた本当の意味でのジェントルマンを育てていらっしゃいます。いろいろなケースがあると思いますが、自分を磨かないとだめだと気づく人と、気づかない人、諦める人の違いはどのようなところにありますか。
唐澤 広告代理店などで新任社長向けの研修を担当していますが、その中で、「誰も社長に外見のことなど言わないと思いますので、本日は私が指摘いたしますね」と言って、髪型や服装についての指摘をします。すると、反応が大きく分かれます。「そういう考え方もありますね」で終わる方と、「どうしたらいいですか。理容師に何と言ったらよいですか」と突っ込んで聞いてくる方。「一度私どもの店でヘアデザインカットしてから、その髪型をそのまま今の理容師に続けてもらうのが一番ですよ」とお答えすると、「明日行っていいですか」とすぐに行動に移す方もいます。そういう方は素直だし、自分の枠を簡単に超える方です。
猪口 なるほど。そういった指摘を受けることはほとんどありませんし、慣れてもいません。
唐澤 やっぱり男性のほうが環境適応しにくい動物です。女性のほうが適応力は高いですね。そうじゃないと子育てできませんから。とくに男の人は髪形をあまり変えませんよね。60歳になって高校生の時と同じ髪型をしている同級生も多いですね。
猪口 私も30歳過ぎてからは一緒です(笑)
唐澤 変えることが必要な時があります。髪型を年相応に変えることでとても素敵になるのですが、残念なことに昔のままを引きずりがちです。白髪染めしている人も注意が必要です。男の人は化粧をしないので、老けた顔に髪が真っ黒は違和感があるし、根本に白髪が出てきているのも貧相、また染めが取れて茶色くなった髪は屋外の太陽光で透けるとなんとも品がなく見えてしまいます。一度白髪染めをするとやめられなくなる。そんな社長に白髪染めをやめるように伝えると、秘書や広報担当者は口をそろえて「白髪になったら老けて見えるから困ります」とおっしゃいます。しかしながら実は逆で、自然な髪色の方が社長としての気品もでますし、お洒落にも見える。中には白髪染めをしているときより若々しい印象になる人もいます。結果、広報担当者も秘書もみなさん納得されますし、特に本人が「楽になりました」と一番喜びます。ちょっとしたことですが、先入観を捨てるとすごく変わりますね。
猪口 都会で働くビジネスパーソンに対して、この辺をもう少し変えたらいいのにと思うポイントはありますか。
唐澤 最近スリーピースを着ている人もよく見かけますが、スリーピースのスーツというのはどちらかというとクラシックな装いです。そこにボタンダウンシャツを合わせている人を見かけます。しかもボタンの色が黒、さらに襟に柄が入っていたり。ビジネスカジュアルの装いのためにメーカーがつくったデザインでしょうけど、それを着ている中高年紳士を見ると、もの悲しくなります。
猪口 でも、そういった装いのいろはを勉強したことがないので分からないですよね。
唐澤 自著である『できる人はなぜ「白シャツ」を選ぶのか』(PHPビジネス新書)を書いたのはそのためです。白シャツはかつてのワイシャツの印象があり、ダサいと思う人もいるようですが、白シャツがスーツをいかに引き立てるかを知れば、誰もが素敵に見える最強のアイテムです。男性は飾り立てると素敵でなくなる。もちろん、上手にセンス良く着こなしていればいいのですが、そんな人は少ないですね。とにかく絶対に間違ってはいけないのは、顔が主役だということです。顔が主役で洋服は脇役。まず主役である顔がもっとも引き立つアイテムはなにか。なかでも一番重要なのは髪型と眼鏡です。髪形が顔にあっているか。眼鏡が顔の個性を邪魔していないか。これらに違和感がでてしまうと非常に残念です。顔のデザインとマッチした髪形と眼鏡、そして服装。それら脇役は主役である顔を引き立てる存在であること。ここを間違えないようにしたいものですね。
猪口 男は自分なりに考えているつもりでも、常識から外れていることも多いですよね。昔、柄ものの靴下を履いていたら、「お前は小学生か、無地を履け」と言われたことがあります(笑)
唐澤 センスが良ければ柄の靴下も素敵ですけどね。
猪口 大事なのは、自分の年齢やポジション相応の格好をするということですね。
唐澤 もちろん本人の個性もありますが、環境にある程度適応していることが重要です。それから、中身を疑うようなスタイルはだめですね。軽薄そうな人だとか、人は見た目で判断しますから。本人が良くても、それで損をしている人も多いですね。
ある保険会社の社内研修で、紫色のスーツを着ている人がいました。自分を一目で覚えてもらうためのようでしたが、成績を聞くとそこそこだけどトップではない。ズバ抜けて抜群であれば極端な装いも許せますが、そうでなければ逆効果。やめるように促しました。
猪口 ビジネスとして成果が出せる身なり、態度をするべきだということですね。
唐澤 突飛な格好で損をする場面があります。もちろんそれで覚えてもらって得する場面もあるとは思います。全てにおいて一長一短です。「長」を狙っているのかもしれないけど、「短」もある。「長」が生きて「短」がない方向性を探っていかなければいけません。じゃあ無難でいいかというと、相手の記憶に残らない。個性を如何に活かすかですね。
猪口 そういう意味では、どれだけ自分に投資ができるかという話ですね。
唐澤 そういうことにお金を使ったらチャラチャラした感じに見えるとか、社長としての威厳が云々とか言う人もいらっしゃいますが、そうではないと思います。会社を代表する立場なのですから、社長にふさわしい姿であってほしいのです。社員はそう思っていますよ。
猪口 会社を代表するという意味では、男性も女性も同じですよね。
唐澤 私は別に男性対象の事業を始めたわけではありません。企業のトップ、政財界のトップの見た目がきちんとしていないと、日本の経済はよくならないと思ったのです。私が起業したのはバブルがちょうどはじけた頃。政財界のトップ、リーダーの人たちの見た目や表現力を上げる必要があると思いました。起業した当初は私の周りの女性社長が次々とサービスを受けに来てくれて、女性のクライアントが多かったですね。だけど、政財界トップとなると男の人のほうが多い。結果として現在では男性のクライアントが全体の9割になりました。
話し方以前に「声」が大事
猪口 メニューのひとつにボイストレーニングがありますが、話し方はやはり大事ですか。
唐澤 話し方は本当に重要です。プレゼンテーションで出てきた瞬間の見た目もぱっとしない人は多いのですが、話も上手ではない人が少なくはありません。欧米では小中高の授業の中に、プレゼンテーションやディベートといったトレーニングがあります。残念ながら日本にはそれがないので、上手に話せるわけがなく、必要になれば、自主的にトレーニングをするしかありません。社会人になってからでも、話し方教室に行く人は素晴らしいですよ。
猪口 私も勉強したいと思いながら、特に学ぶこともなく来てしまいました。唐澤さんのメニューにボイストレーニングがあるのを見て、きちんとしたしゃべり方が大事だというのは本当にそうだと思いました。
唐澤 実のところ重要なのは声。話し方以前に声なんです。英語や中国語は自然に腹式発声になる言語なので、声の響きが深い。一方、日本語はボキャブラリーも多いせいか、腹式発声ではなく、口、喉発声で話をしている人が多い。帰国子女が日本語を話しているときはおとなしそうにボソボソ声だったのが、英語を話し始めた途端、腹からの声でおとなっぽくはっきりと深みのある声で話すため人格が違って見えるなんてことありますよね。
では日本語を腹式発声で話すためにはどうしたらよいでしょう。私たちアジア人は平たい顔をしているので、口を縦に開けないと良い声も出ないし、豊かな表情もでません。ボイストレーニングでは口を縦開きにすることを学んでいただきます。発声と表情は連動しています。腹式発声にすることで顔の表情力も増すからです。
ボイストレーニングは体を鍛えるところから始まります。からだは楽器なので、からだが硬いと硬い声になり、股関節が固まっているとそれなりの声になります。上半身を柔らかくして、下半身はしっかりと地に足がつく。まさに楽器と一緒です。グランドピアノを置いた床が頑丈でないと、それなりの音になってしまいます。からだをしっかり鍛えて、その上で発声、さらにドラマセラピー理論で心理の世界で表現をします。(ドラマセラピーはスピーチのトレーニングとして採用している自己演出のメソッドのひとつ)
猪口 心理の世界ということは、イメージするということですか。
唐澤 例えば、「あそこのラーメン美味しかったんだよね」と話す時に、ラーメンをしっかりイメージする。ラーメンの温度感や舌触り、香り、麺の硬さなどをきちんと描いて話をすれば、相手にもその映像や五感が届きます。そういう力を私達は持っているのです。男の人は映像を浮かべるのが苦手ですね。日常生活では文字や数字しか頭にないので映像が描けないようです。原稿の文字を読んで社員の前で話をしたり、株主総会でも原稿を読んだりしていたら、絶対に伝わりません。
猪口 私が映像の仕事をする時でも、原稿を読むのではなく世間話のスタイルで進めることが多いのですが、自分の言葉で話さないとだめですよね。
唐澤 原稿は基本的になしにしたいのですが、間違ってしまうと困るという広報の意向もあるので、プロンプターを使っています。その場合は、ちゃんとイメージを浮かべるようにお伝えしています。
猪口 講演や演説をするときに、まったく準備せず、その時に感じたことを話すという人もいます。
唐澤 引き出しがたくさんあるからそれができるのでしょう。日本の社長の皆さんは仕事ばかりしてきた人が多いので、引き出しが少ないかもしれない。人生を多方面で楽しんでいないように感じます。
猪口 私もたまに会合やパーティーに参加することがありますが、おっしゃるように会話が弾まないですね。お互い趣味の世界が狭くて、どこの飲み屋がいいとか、どこのゴルフ場がいいとかそれぐらいしかない(笑)。
唐澤 そういった状況を少しずつ変えていきたいですね。
やると決めて心の窓を開いた瞬間に、その人の人生は変わる
猪口 日本のトップはもっと頑張らないといけないですね。
唐澤 そうですね。とくに女性にもっと頑張ってもらいたいですね。私の地元、大垣市は日本の縮図といえます。裏で女の人が全部動かしていても、一歩も二歩も引いて男性を立てる。家庭内のように小さい世界ではうまくいきますが、町内会や市政のような場に女性がいないので政策自体が偏ってしまいます。政財界のトップにもっと女性が増えてほしい。そのためには自分が前に出ないことには始まらないと思い、2年前に大垣市長選に挑戦しました。結局市長にはなれませんでしたが、次点でそれなりの軌跡は残せたと思っています。今後も政治とビジネスの二刀流を目指したいと思います。
猪口 そこまでチャレンジされたのはさすがでしたよね。国や自治体での活動も行われているのですか。
唐澤 大垣市で「おおがきこどものまち」という企画を主宰しました。大人は口出し禁止で、子どもが自分たちで町をつくっていくという企画です。大人が口出ししないため、最初は様子を伺いつつも次第にマイクを奪い合ってどんどん進めていく子どもも出てきます。それなりの成果をあげました。
コロナになって、国政では日本は変えられないと思いました。決定権が自治体に下りてきたこともあり、小さい地域から変えていきたいですね。
私はこれまで新しいことにチャレンジし、新しい人財として人を創造してきました。髪型、服装を変えたり、表現力を磨いたりして、人の個性をデザインすることが得意です。まちも、日と同様個性を活かして現状打破していきたいと思います。
猪口 変わることに誰もが挑戦すべきですね。
唐澤 人は本当に変わります。やると決めて心の窓を開いた瞬間に、その人の人生は大きく変わります。
猪口 これから活躍の場がさらに広がりそうです。今日はありがとうございました。