私たちの宇宙の歴史。物理法則がわずかに異なる他の宇宙も、インフレーションの初期から結晶化した可能性がある。 (c) NASA

写真拡大

 多元宇宙論またはマルチバースは、私たちが存在する宇宙はたった1つではなく、観測できない別世界の宇宙が無数に存在しているという概念だ。これを完全否定できる科学的根拠はないが、それを肯定できる観測事実や証拠も存在しない。

【こちらも】超大質量ブラックホール付近で発見された、人類の歴史よりも若い恒星 ケルン大の研究

 だがいつの日か観測が可能になり、別の宇宙にいるかもしれない知的生命体とのコンタクトも可能になる日が来るかもしれないと考えたほうが、知的好奇心が満たされて楽しいものだ。マルチバースがどんなものなのか考察している科学者が実際に世の中にいる。

 シドニー大学の天体物理学教授ゲラント・ルイス氏は、オーストラリアの学術雑誌ザ・カンバーセイションで3月5日に公表した記事にて、多元宇宙研究アプローチについてわかりやすく解説している。それによれば、ビッグバンの最初に起きたインフレーションと呼ばれる非常に加速度的な宇宙空間膨張の際に、多元宇宙が誕生したのは不可避であったと多くの科学者が考えている。

 つまり、1つの宇宙が膨張したのではなく、無数の泡粒のような宇宙が拡散して、それぞれが膨大な宇宙空間を形成していったと考えているのだ。

 それぞれの泡粒として誕生した宇宙は、我々の宇宙とは異なる物理法則を持つ可能性がある。そしてそれぞれの宇宙を支配する物理法則について、人間は考察ができる。

 例えば生命誕生のカギを握るそれぞれの宇宙における元素の存在比の違いについて考察すると、炭素と酸素の比率が特に重要だという。炭素と酸素の存在比率は大体同じくらいになっている宇宙が望ましく、このバランスが崩れた宇宙では生命の誕生は期待できない。反面それ以外の元素構成比の違いは、生命誕生にとっては大した影響はないらしい。

 この記事ではこれ以上の詳細な記述はないが、例えば光の速度は別の宇宙でも不変なのか、あるいは”量子もつれ”は多元宇宙間をまたがっても作用するものなのかなど、多元宇宙に関する疑問は尽きない。

 現時点で多元宇宙は我々にとって想像上の存在にすぎないが、いつかこのような疑問に答えを出してくれる科学者が出てくることを期待したいものだ。