パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW)は3月9日、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」の戸建て住宅向け新製品を発表。2023年4月21日に発売します。価格はオープン。実際の価格は各販売事業者によって異なりますが、本体と標準的な設置工事費の合計で最大150万円程度になる見込みです。

パナソニック エレクトリックワークス社が2023年4月21日に発売する、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」の戸建て住宅向け新製品

同社のエネファーム製品は2019年モデルから、発電時に発生する熱を床暖房にも利用できる「プレミアムヒーティング」機能を搭載しています。今回の新モデルでは、床暖房に加えて浴室乾燥機にも使えるようになったことが大きな進化ポイントです。省スペース性(設置性)も高め、従来モデルよりも奥行きを50mmスリム化。住宅外壁から500mmのスペースにも設置できるようになりました。

新築時だけでなく、既存の戸建て住宅にも導入可能。床暖房と浴室乾燥機のない住宅の場合、リフォームで床暖房と浴室乾燥機を増設すれば、そのエネルギー源としてエネファームを使えます。

○浴室乾燥機への排熱利用によって約55%の省エネを実現

エネファームは都市ガスやLPガスを一次エネルギーとして、そこから水素を取り出して化学反応させ、電気と水を生み出すシステム。エネファーム内部の燃料処理機と呼ばれる装置で都市ガス・LPガスから水素を取り出し、スタックという心臓部で空気中の酸素と反応させて発電して住宅に供給する仕組みです。

エネファームの仕組み

発電時には相応の熱が発生するため、その熱を利用してタンクにためた水でお湯を作り、給湯や床暖房などに使用します。一般的な電力(発電所からの送電)だと、発電所からのエネルギーを約41%しか家庭で使えないそうですが、エネファームの場合は発電した電気に加えて熱も利用することで、今回の最新モデルは約98%ものエネルギー利用効率を実現した点が大きな特長です。

家庭におけるエネルギー消費の内訳を見ると、電気でしか賄えないエネルギー消費は全体の4割にも満たないのが現状。残りはほぼ熱エネルギーです。暖房や給湯で全体の半分以上、さらに厨房のコンロなども含めると、全体で約3分の2が熱エネルギーの消費となっています。

2050年のカーボンニュートラル(※)を実現するための徹底した省エネを実践するためには、エネファームのように発電と同時に排熱も利用する「コージェネレーション(熱電併給)」システムがカギになるというわけです。

※:温室効果ガスであるCO2(二酸化炭素)の排出量と吸収量を均衡させること。

エネファームで発電した電気だけでなく、発電時の排熱も利用。これにより、最新モデルでは約98%ものエネルギー利用効率を実現しています

冒頭の通り、パナソニックEWのエネファーム従来製品が持つ給湯利用に加えて、2019年モデルからは発電時の熱を床暖房にも利用できます。今回の新モデルは、このプレミアムヒーティング機能を強化し、排熱を利用して浴室乾燥機を動かせるようになりました。

近年は花粉症対策や梅雨時期の生乾き臭対策として、洗濯物を室内干しや乾燥機で乾かす家庭が増えていますが、今回の新モデルを導入すると1年間を通して排熱を有効活用できるわけです。導入コストとランニングコストの計算はひとまず置いておくとして、電気代が高騰しているいま、家庭で省エネによる節約と環境貢献を図れます。

2019年モデルから搭載するプレミアムヒーティング機能を拡充。新たに浴室乾燥機にも対応しました

なお、浴室乾燥を始めて最初の1時間はエネファームの貯湯タンクにためた熱を使い、仕上げはこれまで通り約80℃の高温水をバックアップの熱源機で作って利用する形だそうです。対応するのは浴室乾燥機は、インテリジェント通信機能のバージョン6を搭載するもの。パナソニックの試算では、4キロ程度の洗濯物を浴室乾燥する場合のランニングコストは約40円。従来型の浴室乾燥に比べて、約55%の削減になるとのことです。

○100Lのスリム貯湯タンクを採用しつつ、省エネ性能を向上

2つめの特徴として挙げられたのは設置性の高さ。従来モデルの貯湯タンクは130Lでしたが、新モデルでは100Lに減らしてコンパクト化。貯湯ユニットの奥行きを約400mmから約350mmとして、50mmのスリム化を実現しました。

貯湯タンクのスリム化を実現

民法第234条では、「建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。」とありますが、「最新モデルはこの500mmのスペースに設置できるため、これまで設置不可能だった戸建て住宅にも導入できるケースが大幅に増えると見込んでいます」(パナソニックEWの担当者)とします。

新型のエネファームでは、一次エネルギーとして用いる都市ガスでもLPガスでも、発電効率が向上しました。数字にして1%とはいえ、もともと高い効率だっただけに注目しておきたい進化です

○自治体やガス事業者向け「J-クレジット認証取得」の支援機能を搭載

パナソニックEWのエネファーム製品は、2021年モデルからセルラー方式のLPWA(Low Power Wide Area)通信機能を標準搭載。ウェザーニューズの気象データによる自動的な最適発電機能や、停電リスク予測を受信すると自動的に発電モードを切り替えて停電に備えるといった機能を備えています。

今回の最新モデルはLPWA通信によるネット接続環境を使い、「J-クレジット認証」の取得支援機能を新たに実装しました。J-クレジット認証とは、カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2排出の削減量を証書化して活用するという制度のことです。

カーボンニュートラルの実現に必要な、省エネ価値を認証する「J-クレジット認証」の証書化を支援する機能

最近は、自治体やガス事業者においてJ-クレジット認証取得の動きが増しています。しかし、家庭用機器は1台あたりのCO2削減量が少ないため、証書を有効に活用するにはたくさんの台数からデータを集めて証書化する手間が生じます。

最新モデルではLPWAの通信機能を用いて、各住宅に設置しているエネファームの累積発電量を遠隔で取得できるようになりました。これによって、自治体やガス事業者のJ-クレジット認証に関する活動を、遠隔データの提供という形で支援します。

○災害時の「在宅避難」をサポートし、断水時の給水性を向上

大都市では地域住民全体を避難所に収容するのが難しいことや、コロナ禍で密を避けるために収容人数に制限が生じることなどから、災害時の在宅避難が推奨されるようになってきています。そこでパナソニックEWのエネファーム製品は、停電発生時の発電機能や、ガス供給が遮断したときの給湯機能などを提供しています。

最新モデルの場合、断水が発生したときでも手軽に水を取り出せるように、非常時向けに水の取り出し口を追加。2カ所から水を取り出せるようになりました。

断水時の水取り出し口を追加し、災害時の在宅避難を支援

2020年10月、当時の菅内閣総理大臣は所信表明演説で「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言。2021年4月には、地球温暖化対策推進本部と米国主催の気候サミットで「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す」と表明しました。

国立環境研究所「温室効果ガスインベントリオフィス」を基に経済産業省が作成した資料によると、2019年度の日本におけるCO2排出量は約11.1億トン。そのうち0.5億トンが家庭からの排出になっており、割合としては決して大きくはありません。しかし、世界中がカーボンニュートラルに向けてCO2排出量削減に取り組む中にあって、エネファームなどの燃料電池の役割は今後も増していくことでしょう。

エネファームを販売するのはガス会社が主体ということもあり、新築住宅はもちろんのこと、既設住宅への設置も増えているとのことです。ウクライナ紛争の影響などで燃料費が高騰したことから急激にエネルギーコストが上昇していますが、今後も下がっていくことは期待薄。カーボンニュートラル実現に向けた省エネや自宅のエネルギーコスト削減に向けて、エネファームのような装置の注目度はさらに高まっていきそうです。

安蔵靖志 あんぞうやすし IT・家電ジャーナリスト 家電製品総合アドバイザー、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、テレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ〜ンの家電ソムリエ」にレギュラー出演中。 この著者の記事一覧はこちら