成果の観点で「CSはもう古い」の本当の意味を再考する/松井 拓己
「CS(顧客満足)はもう古い」だから「CSからCX(カスタマーエクスペリエンス)へシフトせよ」「CSではなくNPS(ネットプロモータースコア)の方が大事だ」こういった方針で取り組みを進めている企業が増えています。一方で、「NPSを導入したけれど、次の一手が見えなくて、調査がやりっ放しになっている。」「CXに取り組んでいるけれど、カスタマージャーニーマップを描いたものの、実践されない。実践しても成果に繋がらない」という相談が多いのも事実です。CXやNPSをCSと対立させて“点”で捉えても、表面的な取り組みにしかなりません。まずは「CSはもう古い」の真意をきちんと理解しておくべきでしょう。
「CSはもう古い」は、半分正解です。確かにこれまで「お客様に喜んでもらえることなら何でもやろう」「満足度が少しでも高まればビジネスは上手くいく」といった具合に、CSを漠然と捉えて、闇雲に取り組んでいる企業が大半でした。これでは成果が出ないのは当然です。CSには「種類」があるのです。リピートや推奨の意向につながるCSは「大満足」のみ。「やや満足」は97%がリピートや推奨をしない可能性が高い。しかも大満足であっても、「このコスパなら納得だ」というように論理的な理由で大満足した顧客は、「やや満足」以上にリピートや推奨につながらない傾向があります。裏を返せば、「すごく助かりました。」「感激しました。」のような感情的な理由の大満足のみが、リピートや推奨の成果につながるCSだというわけです。このようにCSの中にも、成果につながるCSとそうでないCSの分岐点があるのです。これは、NPSの考え方と通ずるところがあるのではないでしょうか。CSの種類を理解してテコ入れすれば、必ずしもNPSへ指標をガラリと変えなくても、事業に貢献するCSへのステージアップは進めることができるという意味でもあります。
成果の出るCSには「種類」があるということをロジカルに理解せずに、CSなら何でも良いと思って取り組むのは「もう古い!」と言えます。言い方を変えれば、心がけとして「CSマインドを持って仕事をする」ことができる企業はたくさんあります。次は、「心がけのCS」から卒業して、顧客に喜んで頂くだけでなく、事業成長にも直接的に貢献する「成果直結型のCS」へと、ステージアップを目指すべきタイミングにあるのです。これが「CSはもう古い」は半分正解である理由です。
しかし、顧客に喜んでいただくことはビジネスの本質であり、これが「もう古い」なんてことはありません。売上は顧客へのお役立ちのバロメーターです。CS意識が薄れると、提供者都合を押し付ける顧客不在な事業経営に陥ってしまいます。「CSはもう古い」と切り捨ててしまうのではなく、CSの種類を理解した上で、CXやNPSとCSとの因果関係の全体像を捉えて、自社ビジネスにおいて強化すべきポイントを戦略的に見出さなければならないのです。