宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるが、2019年の退団以降、初となる写真集「悪い女 A BAD WOMAN」(東京ニュース通信社)を2月2日に発売する。彼女にとって芸能生活20周年のメモリアル的作品にもなる本作では、宝塚時代に男役として活躍した紅が、さまざまな“悪い女”となって、新境地を魅せる。


今作に込めたこだわりや完成にいたるまでのエピソード、退団以降に直面したコロナ禍で感じた思いなどを彼女に語ってもらった。






──今作は宝塚歌劇団の退団後、初の写真集ということですが『悪い女』というテーマは撮影の段階で決まっていたのでしょうか。


そうです。私は"悪役"にものすごく魅力を感じるんです。小さい頃からディズニーのヴィランズが大好きで、周囲の人からは心配されていました(笑)。


──プリンセスではなく、ヴィランズなんですね。


プリンセスもかわいいなとは思うんですが、やっぱりヴィランズが好きなんですよね。パレードとかでもヴィランズが出てきたらワイワイ騒ぐ子どもだったんです。

宝塚でも二番手男役が悪役をする機会が多いのですが、よく魅力的だとファンの方々は感じることが多いと聞きます。悪に転じた経緯や、そこから出てくる色気みたいなものにファンの方々はグッと来たりドキっとしたりするのだろうと思います。


──たしかに悪いものの魅力ってある気がします。今作ではいろんな悪い女を表現していらっしゃると思いますが、どのように撮影イメージを決めていったのでしょうか。


それぞれの“悪い女”は同じ人物と捉えてくださってもいいですし、全然違う人物だと捉えていただいてもいいと思っています。見方としては、皆様の自由です。それぞれのテーマに沿ったタイトルも自身で考えました。私の中では、細かな設定もあるのですが、タイトルにあえて難しい言葉や古語を使うことによって、皆様ご自身でタイトルの意味を調べていただきながら、想像を膨らませていただきたいという思惑があります。個人的に写真集は「これはどういう思いで撮っているのか」ということが知りたいところではあるのですが、あえてタイトルを皆様ご自身で調べていただき、そこから想像や妄想を繰り広げていただきたいと考えています。しかし、これは私が宝塚歌劇を退団し男役ではなく、「わたしは女なんだ!」と主張したいという「女」という意味ではなく、ただ「悪い女」というインパクトある言葉の写真集にしたかったんです。




──今回の写真集の構想はいつ頃からあったのでしょうか。


2022年の4月頃だと思います。在団中に出した写真集は、自分がやりたいことというよりも、周りの人たちが考えてくださった提案に沿って撮影していたところがあって、自分自身で「こういうものが撮りたい」と1から考えて作ったことはありませんでした。だから今回は自分自身のこだわりを沢山詰め込み、そして挑戦だと感じています。例えば10年後の自分には、その時の自分自身の表現があると思います。今だからこその表現ができる「悪い女」を全うしました。


──ファンの方の反響はご覧になりましたか。


見ました。写真集を出す前から、私は今回の内容は賛否両論あるだろうなと思っていたんです。もちろん皆様の反応は気になりますが、撮らなかったらよかったというカットは一つもありません。むしろ、自分の表現したいものが形になったと思っています。ただ自分でも見たことのない自分なので、ファンの方々にはどう映るのだろう…と不安はよぎりましたが、今回の写真集は「自分自身への挑戦状」です。スタッフの皆様方のお力をお借りしながら、最後までやとげることは、私にとって絶対的に必要なものでしたので、「これはやめておこうかな」とカットを減らしていくことは容易いですが、自分の撮りたかったカットへの信念を持っていくことによって、紅ゆずるを知っていただけるようになると思いました。



──「服を着てない!」という驚きの声も上がっていたようですが、そういう表面的な話ではないんですね。


もうシーツを服やと思って、という感じですね。こういうドレスあるやろ、みたいな(笑)。


──特にお気に入りのシーン、こだわったシーンを教えてください。


基本的に全部のシーンに思い入れはあるんですが、最初のベッドのシーンや海のシーンはすごく好きです。バスタブのカットもいいですね。格好良く写っていればいいなと思うんですよ。エロスの方に行っちゃうとちょっと違う。色気とエロスは全然違うものだと思うので、女性の格好良い感じとそこに出てくる色気みたいなものを感じてもらいたいです。あとは「この人は何を考えているんだろう」「もっと知りたい」と思ってもらえるように撮っていただきました。


──バスタブのカットで、服を着てお風呂に浸かっていることもなかなかに“悪い”ですね。


悪いですよ(笑)。当たり前ですけど、初めて服を着てお風呂に入りました。入り心地は本当に良くないです(笑)。お湯も張っているので全部びしょびしょ。けど、この悪い女はそんなことを気にしていられないくらい振り切っているんです。それほどに悩んでいることがあるのか、憂鬱なことがあるのか。何かがあるんですよ。それくらい“悪い”ということかもしれないし。見方はそれぞれですけどね。




──撮影に向けてトレーニングもされたそうですね。


とっても苦労しました。男役の時は体のラインが見えない服を着ていましたが、女性であまりダボッとした服を着ると、私の身長が高めなこともあって、全体的に大きく見えてしまうんですよね。それで、退団してからパーソナルトレーニングをし始めて、スタイルをきっちりとして、どんな洋服が出てきても着ることができますと言えるようにしてきました。写真集を撮ると決まってからは、特にハードに追い込みました。夜に時間が取れなければ、朝の5時からトレーニングをしたりして。ただ痩せるのではなくて、筋肉のくびれが格好良いな、綺麗だなと思ってもらえるように。決してエロティックに行かない、上質なスタイルに持っていくためにきっちりと体作りをしました。今日は寝たい、という日もあったけど、やると決めたら絶対にやると言ってトレーニングしていましたね。


──そういう意志の強さの源はどこにあるのでしょうか。昔から気を抜かないタイプだったんですか?


気を抜かないというより、最終的に後悔をしたくないんです。あの時食べなかったらよかったとか、あの時トレーニングしておけばよかったって思うような写真集なんか見たくないんです。とにかくこの写真集を成功させたいから、楽している場合じゃない。やれるところまで追い込むことが快感でした。トレーニングって、メンタル面でもすごく鍛えられるところがあるんです。



──私は夜中にどうしてもカップラーメンを食べたくなって負けてしまうことも多いのですが、紅さんはそういうことは全然ないのでしょうか...。


もちろん、夜中にカップラーメンを食べたいなと思うことはあります。けど、ここで食べたら今までの苦労はなんだったのか、みたいな。あんなにしんどいことをやったのに、無駄になると思ったら、夜中はやめよう、と。食べたければ朝食べればいいんです。朝なら私もラーメンを食べることもありますし、朝から焼肉でもいいです。だけど夜の炭水化物はダメ。ただ、会食とか、どうしても食べざるを得ない時は、次の日に調整したりしますかね。


──勉強になります...!ところで紅さんが2019年に宝塚歌劇団を退団されてから、すぐに世界はコロナ禍に突入してしまいましたよね。今回の写真集は紅さんの思いの詰まった作品として完成しましたが、退団からこれまでの期間、思うように活動できなかったこともたくさんあったのではないでしょうか。


悔しい思いをたくさんしました。1stコンサートは無事完走できましたが、その後のミュージカル『エニシング・ゴーズ』は67回公演あった中、7回しかできませんでした。これはもう絶対に再演すると決めています。ディナーショーも何回も休演を繰り返してしまいましたし、『アンタッチャブル・ビューティー』という主演舞台も1日で公演がストップし、最後の千秋楽だけは上演が叶いました。周りの方からは「お祓いに行った方がいい」と心配されましたが、山あり谷あり、良い時があれば悪い時もある。コロナに闘いを挑んで勝てるならば、とっくに闘っています。一瞬は落ち込みますが、早く前向きに考えられるように努力しました。なぜなら、"それでも強く前向きに生きていく紅ゆずる像"を世間に知らしめてみよう!みたいな。悪いことが起こったときほど、人はその人をみる。だからこそ、前向きに頑張ってる私を見てくださって、ファンの方々も笑顔になってくださる日が早まると思っていました。


──なるほど。コロナ禍をセルフプロデュースができた期間として捉えるんですね。


もう私はそうとしか思ってないです。もちろんめちゃめちゃ悔しい時間ではありましたが、落ち込む時間はなるべく短く、幸せな時間は長く。松本幸四郎さんからの胸に響く言葉です。




──行動制限などが落ち着いてきた今、なにか考えていることなどはありますか?


そろそろ舞台をやりたいなと思っています。それから、私、退団したらファンの方とのファンミーティングをいっぱいできるんだろうなと考えていたんです。宝塚在籍中は、じっくりファンミーティングができなかったので。だからファンミーティングはやりたいですね。退団してすぐにコロナ禍だったので、いきなり行動制限で家から出てはいけないような状況だったので、「まだ私、宝塚の世界しか知らないんですけど世間ってどんな感じなんですか?」という感じでしたよ(苦笑)。


──お仕事の方向性としては、舞台を中心に活動されたいのでしょうか。


舞台が中心というわけではないですね。今から絞る必要はないのかなと思っています。今もいろんなお仕事をさせていただいているので、一回一回を大切にして、頂いたお仕事に爪痕を残したいと思います。みんなを良い意味で裏切りたいですね。裏切ることのできる女優になりたい。女優というカテゴリーでもないのかもしれません。“仕掛け人”という感じでしょうか。私、インスタグラムの職業欄を増やしてほしい。そして、その中に「仕掛け人」という枠、作って欲しいです。


──たしかに仕掛け人は選択肢に用意されてないですね(笑)。


そう、私は仕掛け人でいいと思う。どんどん仕掛けていきたいですね。




取材・文・撮影:山田健史

Hair&Make=miura(JOUER)

Styling=早川和美


衣装

セットアップFABIANA FILIPPI(株式会社アオイ 03-3239-0341)

リング・バングルQAYTEN(ケイテン 03-6206-6429)

イヤカフKinoshita pearl(キノシタパール 078-230-2870)