「あるある言いたい~、早く言いたい~」と歌い続けて十数年。レイザーラモンRGの超長尺ネタはタイパ重視の時代で生き残れるのか
レイザーラモンRGの代名詞「あるある」は、「あるある言いたい、早く言いたい」と繰り返す長尺ネタ。しかし、現代は映画を倍速視聴するなど効率的なタイムパフォーマンスを重視する人もいる。タイパの時代にRGのあるあるネタは生き残れるのか? 後編ではあるあるの未来を語ってもらった。(文中敬称略)
ネタに込める並々ならぬ音楽愛
お笑い、特に一人芸の旬は短い。短期間で何度も視聴されては消え、また新たなブームがやってくる。
そんな流行り廃りの激しい世界で、レイザーラモンRG(以下、RG)の「あるある」ネタは十数年にわたって愛され続けている稀有なネタだ。
しかし、ここのところデジタルネイティブのZ世代を中心にタイムパフォーマンス(以下、タイパ)を重視する人が増えてきた。
タイパとは、費やした時間に対し、どれだけ満足感や効果が得られるか。そんな価値観が広がりつつある中、「あるある言いたい、早く言いたい」と繰り返し、オチまでひたすら引っ張るRGの超長尺ネタに未来はあるのだろうか。
RGのあるあるは、イントロ、Aメロ、Bメロ……と最初からサビまできっちり歌い上げるのが基本だ。ときにフルコーラスで3分、4分超えも。なにゆえここまで歌に時間をかけるのか。
その問いに対し、最初に返ってきたのは音楽への並々ならぬ思い入れだった。
「あるある第1号の曲は10年以上前、石井明美さんの『CHA-CHA-CHA』。それを見たケンコバ(ケンドーコバヤシ)さんから『いろんな曲で歌え、広げていけ』と言われ、『手羽あるあるなんてないよな?』などと飲み会で急にふられるように。
即興で歌うには、リズムや音程がブレずに相手に伝わることが第一。それで自然と中高生時代に聞きまくった大好きな曲を選ぶようになったんです」
「ウケない」より「上手に歌えない」が悔しい
数多くのあるあるの中で、とりわけ登場回数が多いのがバービーボーイズの『目を閉じておいでよ』。イントロのギター、杏子とコンタのツインボーカルをパートごとに歌い分ける。
「何より大事にしているのは再現力。まずは曲を大切にします。表面だけなぞって歌ってるだけじゃ相手の心には響きませんから。これを教えてくれたのが椿鬼奴さん。
20年くらい前、大阪から東京へ出てきて、仕事もお金もない、友達もいない時代にいろいろ助けてくれた仲間の一人です。
あるあるとは別に鬼奴さんとデュエットでバービーボーイズのモノマネをやっているんですが、いろんな人から言われるんです。『歌だけならもっと上手な人はいる。けど、バービーボーイズへの愛がハンパじゃなく伝わってくる』と。歌は嘘をつかないんですよ」
音楽への愛情があってこその再現力。どんな曲も原曲キーで歌う。
広瀬香美『ロマンスの神様』、X-JAPAN『紅』、洋楽ならばクイーン『ウィー・アー・ザ・チャンピオン』、ジャーニー『オープン・アームズ』、a-ha『テイク・オン・ミー』などなど。女性でも歌うのが困難なほどの高音パートも、RGは声を張り上げる。
「アカペラでのあるあるも多いので、キーを下げると『これなんの曲?』と伝わらない恐れがあるんです。
曲の出だしからギター、ベース、ドラムの特徴的な演奏も声で表現し、サビの部分は元の歌詞そのままにすることでわかりやすさを心掛けています。音程だけでなく、リズムも狂ってはダメ。とにかく、原曲で伝える」
熱く語るRGに、かねてからの疑問を投げかけた。ひょっとして、歌いたいだけ?
「実は……あるあるがウケなかったときより、ちゃんと歌えなかったときのほうが落ち込みます(笑)。
FUJIWARAの藤本(敏史)さんに『お前のあるあるは音符にきっちり当てはめるのがすごい!』とか、ヒャダインさんに『楽器の音の入れ方がすばらしい』とか。そこを拾ってもらえるとめちゃくちゃうれしい。
実際、あるあるが楽曲のリズムにきれいにハマればハマるほどウケがち」
「若者の“あるある離れ”は懸念されますが……」
イントロから原曲通りに歌い上げるからこそのあるある。しかし、タイパ重視の昨今、ネタの長さはこのままでもよいのか。
「テレビだと編集でカットされがち。なので、少し前に千原ジュニアさんの番組に出たとき、あえてあるあるのショートバージョンを披露したんです。そしたらジュニアさん『なんや、短いなぁ』とちょっと不満気で(笑)」
あるあるの神髄は、最後のオチではなく、長い長い助走の「あるある言いたい、早く言いたい」に込められたRGのくめども尽きぬ音楽への愛にある。
「あるあるを始めてから10年以上経って、世の中もずいぶん変わりました。YouTubeなどでは著作権の関係で公式に楽曲を使って歌えなくなり、オリジナル曲を作ろうかなと悩んだことも。
たまに童謡であるあるを、とオファーも受けるんですが、気持ちがなかなか乗ってこなかったり」
サブスクで音楽を聞くのが主流となったのも大きな変化のひとつ。ここ最近は、サビだけ聞く人も以前より増えている。
「若者の“あるある離れ”は確かに懸念されます。でも、同時にサブスクが追い風になっているところもありますよ。
Z世代が、僕がよく歌うオメガトライブの『君は1000%』がきっかけで杉山清貴やカルロス・トシキを知ったり。
そうそう、以前、『水曜日のダウンタウン』(TBS)のプロデューサー藤井健太郎さんのイベントで、大勢の若者の前でサザンオールスターズの『メロディ』という1980年代の曲であるあるを歌ったら、全然ウケなかったんです。
でもその後、『曲がすげぇよかったから聞いてみました』なんて声も。音楽をいつでも気軽に聞ける環境が整ってあるあるが次のフェーズに突入していくのを感じます。
世代によって音楽の聞き方は違えど、すばらしい曲は必ず受け継がれていくんですね。なので僕のあるあるはここ最近、DJとしての役割をも果たすようになってきたと勝手に思い込んでます」
あるあるの未来予想図
では、RGが描くあるあるの未来とは?
「好きな歌に乗せて、『○○しがち』で終わるあるあるは老若男女問わず楽しめるフォーマット。
長年出演させてもらってる『鉄オタ選手権』(NHK BSプレミアム)のおかげで、最近は『あるあるのお兄ちゃん』と言われることも増えました。
東日本大震災の後、歌人の俵万智さんとテレビ番組で共演したとき、『あなたのあるあるは道端に落ちている小さな石ころ一つひとつに名前をつけているようなもの』と評価もいただいて。
僕の夢はあるあるが教科書に載ること、そして無形文化遺産になることってインタビューの最後、大風呂敷広げがち(笑)」
終わり
取材・文/小林 悟
撮影/柳岡創平