「ねえ構って」結婚して5年経つ今も、妻を頻繁に誘う夫。でもその背景には“あり得ない理由”が
人生のステージが変わるたび、女の友情はカタチを変える。
そしてドラマの舞台も…。夜の港区から、昼の港区に変わるのだ。
20代は深夜の西麻布で、30代は昼の麻布で。女たちは時に嫉妬し、時に優越感に浸る。
これは大人になった女たちが港区で繰り広げる、デイゲーム。
◆これまでのあらすじ
リリカのInstagramから、ラグジュアリーホテルの投稿が見つかる。それは、優子の夫・平蔵が出張と言って泊まっていたホテルと同じ場所だった。サトミと菜々緒は、証拠をそろえて作戦を決行することに…。
逆襲劇の始まり
「ごめん、優子！本当にごめん！！！」
優子の夫・平蔵が、目の前で土下座をしている。
その顔は反省しているというよりも、「なんとかこの場を乗り切りたい」という必死感からくる表情のように見える。
― 謝って済む問題じゃないわよ。
私が、冷めた目で平蔵を見ると、彼と一瞬目が合った。
助け船を出してほしいのだろうか？でも、擁護などできるわけない。
だって、悪いのは100％平蔵で、私は優子の味方なのだから。
「ちょっと、こっち来て」
優子は平蔵を廊下へ連れ出し、しばらくすると大きな音がした。
バッチーーーーーン！
― 優子…！
きっと優子が、平蔵の頬を叩いたのだろう。
子どもたちは、少し離れたプレイマットの上で遊んでいて、大人たちのことは気にもしていない。
1時間前までは、私と優子の子どもの合同誕生日会が行われていた。
こんな事態になるまでは…。表面上はとても楽しい会が行われていたのだ。
【登場人物】7年ぶりに再会した32歳女たち
平蔵の浮気疑惑が浮上し、私と菜々緒は、優子のために何かできないかと考えた。
そこで、私は提案した。
一緒に平蔵を問い詰めよう、と。
お節介なのはわかっている。だから、優子が難色を示せばすぐに引こうと思っていた。
でも、彼女は私たちに助けを求めてくれた。
それならば！と、子どもの合同誕生日会と称して、優子の家に集まったのだ。
◆
「いらっしゃい。待っていたよ」
「おじゃましま〜す」
私は、出迎えた平蔵に向かってにこやかに挨拶をした。
「あれ？菜々緒ちゃんは？」
「それが、急に来られなくなっちゃったみたいで」
菜々緒は仕事で重要な引き継ぎがあり、今日は作業に没頭しないといけなくなったのだ。
「そっかぁ。久しぶりに菜々緒ちゃんにも会いたかったな〜！」
平蔵がオーバーに残念がると、優子が顔をしかめた。
悪気がなく、思ったことを口にしただけなのだろう。だとしても、気分が悪い。
正直なところ、私たちが懸念している平蔵の浮気行為は、今はまだ「疑惑」でしかない。
だが今日、絶対に吐かせてみせる。私は、優子に手土産を渡しながら意気込んでいた。
しかし、キッチンに目線をやると見知らぬ男性と目が合った。
― えっ？誰？
「今日は張り切って、出張シェフをお願いしたんだ。女の子はフレンチが好きでしょう？」
平蔵が、シャンパンをグラスに注ぎながら言う。
本来ならばテンションの上がるおもてなし。しかし、今日はありがた迷惑だ。
なぜなら、さすがに部外者の前では話せない議題だから。
「ごめん、なんか旦那の知り合いのシェフらしいの。私が反対した時には、もう彼が予約しちゃっていて…」
優子が申し訳なさそうに小声で言うので、私は彼女にOKサインを出す。
― それなら、食後に言うしかないわね。
私は、子どもの面倒を見ながらシェフに笑顔で言う。
「私たちお腹空いてるので、お料理どんどん出しちゃってください」
子どもたちの誕生日を祝いつつ、コース料理をサクサクと食べ進めた。
◆
「では、私はこれで失礼します」
片付けを終えたシェフは、1時間半で優子の家を後にした。
仕事が忙しくて来られなかった菜々緒が手配してくれた、可愛いバースデーケーキ。
それを、平蔵はのんきに食べている。
「リリカちゃん」
私は、名前だけを口にした。
すると、平蔵のフォークを持つ手が、一瞬止まる。
「リリカちゃん、離婚しちゃったんだってね。ほら、この前結婚したばかりの」
横目で平蔵を見ながら話を続けるが、彼はケーキから視線を外すことなく黙々と食べ進めている。
しかし、その額からは汗が滲んでいた。
「知っている。私、リリカと仲良いからさ。でも、自業自得だよね。自分から家庭崩壊するような行為をしているんだから」
優子が言った。
もちろん、リリカと仲がいいというのは嘘だ。
「リリカが離婚した理由、あなたもわかるでしょ」
優子は自分の夫に向かって言った。
平蔵は「えっ！？」と言ったまま、固まってしまった。
「あの子が結婚式前日に泊まったスイートルーム。高そう〜。いくらしたんですか？平蔵さん」
私は、リリカのInstagramの投稿のスクショを、優子は、平蔵が自ら送ってきたホテルの画像を見せる。
大阪出張だと嘘をついていたことが判明した、あの日。
リリカが泊まったラグジュアリーホテルと、同じ部屋でくつろぐ平蔵の画像を、本人の目の前に差し出した。
平蔵は、現実を直視したくないのか、ギュッと目をつぶっている。
「平蔵さん。優子は、リリカから全部聞いているの。だからちゃんと平蔵さんの口からも説明してください」
私は静かに言った。
リリカからすべて聞いているというのは嘘で、私たちが練った作戦だ。そう言えば、平蔵は認めざるを得ないと思ったのだ。
そして、その読みは、当たった。
平蔵は目を開き、かと思えば視線を落としてつぶやいた。
「……あれが、最後っていう約束だったんだよ」
― は？？？
最後ということは、最初があったということ。やはりリリカと平蔵はデキていたのだ。
優子は黙っている。
平蔵はフォークを置くと、バツが悪そうにボソボソと話し始めた。
「出会いは、1年半前くらい。リリカは僕の会社で受付をしていたんだ…」
リリカは誰にでもニコニコと笑いかけ、愛想がいい反面、女性からは反感を買うことがあった。
周りからの評判を聞いて、男性社員からも警戒されていたらしい。
「派遣社員のリリカは、ハイスペックな男と結婚したくて、会社の男を日々狙っている」
そんな噂が飛び交うようになり、リリカは周囲に笑顔を見せなくなった。
それを不憫に思った平蔵は、リリカを食事に誘ったという。
最初は、ただ元気づけるためだった。そう、平蔵は言う。
「その頃、ちょうど優子の妊娠が発覚した。だから、一線を越える前にプライベートで会うのはやめようと言ったんだ。でも…」
優子は、震えている。私は彼女のギュッと肩を抱き寄せた。
「あいつに泣かれたんだよ。もう好きになっているのに、って」
優子とは結婚して5年経っている。もちろん優子のことを愛しているが、恋愛感情というより家族愛。
そんななか、リリカに好きだなんて言われ、浮かれてしまったと平蔵は正直に告白した。
「それで、どうしたんですか？」
私は怒りを抑えきれずに、低いトーンで聞いた。
「…」
しかし平蔵は口を開かない。
「…早く、言いなさいよ」
私は怒りのあまり、つい命令口調になってしまう。
「…食事のあとに彼女の家に行って………関係を持ってしまった」
優子の頬に涙が伝う。
きっと頭のどこかで、間違いであってほしいと思っていたのだろう。
その気持ちは、同じ女だから痛いほどわかる。
でも、平蔵は、それからもリリカと会うのをやめなかった。
「優子の妊娠がわかってから、優子があまり構ってくれなくなったから…」
「あたりまえじゃない！！！それを支えてあげるのがパートナーの役割でしょう！」
私は、平蔵に殴りかかりそうな勢いで罵声を浴びせた。
優子はショックのあまり、言葉を失っている。
「だから、産後はできるだけ優子を求めるようにしたんだよ。それが僕にできる唯一の誠意だと思って」
― 誠意？どこがよ。
「気持ち悪い…」
そうつぶやいたのは、優子だった。
当然だ。他の女を愛した腕に抱かれるなんて、考えただけでも吐き気がする。
「僕は、どうやったらリリカを傷つけずに別れられるかを考えて、少しずつ距離を置いた。でも、『今まで通り会ってくれないと、奥さんにすべてバラす』と言われたんだ…」
だから、リリカはたいして仲良くない私たちを、あの日披露宴に呼んだのだろうか。
平蔵はそれからリリカを必死に説得し、彼女の結婚前夜に、スイートルームに泊まろうと提案。
それで最後にしようとしたらしい。
「でも、しばらくすると、また連絡が来て…。サトミちゃんが、広尾のレストランで僕を見たと言っていた日も、そのことでケンカになったんだ」
これで最後、最後、最後、最後、最後。
そう言いながら、リリカは関係を終わらせようとしない。
弱みを握られている平蔵は、言うことを聞くしかなかったという。
「ごめん優子！本当にごめん！！！」
平蔵はその場で土下座をした。
やはり、黒だった。平蔵は優子を裏切り、最低なことをした。
私は許せなかった。
リビングから出ていく優子と平蔵を見ながら、リリカへの制裁方法を考えていた。
ここまで首を突っ込んだのだから、この問題には最後までどっぷり付き合うと決意しながら。
▶前回：結婚式前夜、夫以外の男とスイートルームに泊まった花嫁。夫にバレたあと、女に下された天罰とは
▶1話目はこちら：夜遊び仲間の“悪友”に7年ぶりに再会。環境が変わっても女の友情は成立する？
▶Next：1月14日 土曜更新予定
ついに平蔵の黒が明らかになった。サトミはある「制裁」を画策する。
