1on1ミーティングを導入する企業が増える中、部下のやる気を引き出せずに悩めるリーダー・管理職は多い。人事評価「トップ5%」社員、延べ2万人の言動データを5年にわたり収集・分析したクロスリバー代表の越川慎司さんは「39社で調査を行ったところ、部下のやる気がだだ下がりになる面談は、実は上司の“最初の一言”のせいであることが明らかになりました」という──。(第4回/全5回)

■1on1ミーティングに悩む上司と部下

上司と部下の対話、いわゆる「1on1ミーティング」を実施する企業が増えています。

10年ほど前は、外資やIT企業の一部が行っているだけでした。しかし最近ではテレワークによる従業員の孤立化の問題もあり、クロスリバーが働き方改革を支援した815社のうち実に64%の企業が制度化して管理職に実施を義務付けるようになっています。

ところがこの1on1ミーティング、まだまだ各管理職の裁量に任せているのが実情です。あまりうまくいっているとはいえません。いきなり仕事の進捗(しんちょく)報告を部下に求めたり、雑談だけで1時間を使ってしまったり……。

このように目的が曖昧(あいまい)な1on1ミーティングが続くと、「今月は忙しいからやめておこう」「忙しいからやったことにしておいて」といった具合に、徐々に“フェードアウト”するようにもなりかねません。

写真=iStock.com/emma
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/emma

■「最初の一言」が成否のカギを握っていた

クロスリバーでは、1on1ミーティングにおける上司と部下の「対話」を活性化すべく、39社で調査を行いました。すると意外にも「最初の一言」で対話の成否が決まることが判明したのです。

そもそも、1on1ミーティングは会議ではなく対話です。腹を割って率直に話し合える関係性を築き、短期視点ではPDCA(計画・実行・確認・修正)のP(計画)やC(確認)をサポートするもの。長期視点では部下の成長をサポートするものです。

だからこそ、いきなり仕事の話をしたり、上司が一方的にずっと話したりしてはいけないのです。

■上司が最初に発しがちな「よろしくお願いします」はNG

各社の人事評価トップ5%の管理職は、1on1ミーティングの対話をティーチング(「答え」を教える)ではなく、コーチング(答えの出し方を考えさせる)の場として活用していました。そして、部下の士気を高め、1on1ミーティング後に新たな行動を誘発させていました。

活性化する1on1ミーティングとうまくいっていないそれとを比較するために、380時間に及ぶ対話を録画させてもらい、AI分析しました。

すると、上司の「よろしくお願いします」で始まる1on1ミーティングにおいて、部下の口数が減る傾向が確認されました。

原因を探るべく、2万3000人の一般社員へ匿名調査をしたところ、とくに20代は冒頭で「よろしくお願いします」と言われると士気が下がることがわかりました。

■理由1:対話ではなく面接になってしまう

上司からの「よろしくお願いします」がダメな理由は2つあります。

1つは、部下がかしこまってしまい、対話ではなく「面接」になってしまうから。かしこまってしまうというポイントです。

製造業と小売業の20代社員らは「面接のように感じる。だから、へたなことを話さないように黙って聞いていることが多い」と発言していました。

面談・面接になると、「ちょっとまずいことを言うと、マイナス評価になるな」ということで、しゃべらない戦略を取ってしまうのです。「今日は上司の話を聞くだけにしよう」という姿勢で受け身になってしまうので対話が成立しません。

そもそも1on1ミーティングというのは、部下が主役の対話です。だから、当事者意識を持たせて6割、7割しゃべらせないといけないのです。にもかかわらず、面談形式になると話さなくなってしまう。

だからこそ、上司の「よろしくお願いします」で始める1on1ミーティングはNGなのです。

■理由2:部下が上司からの依頼だと受け取ってしまう

2つ目の理由は、部下が「依頼」として受け取ってしまうこと。

部下たちは「よろしくお願いします」と言われると、「何を『お願いします』なのか?」と戸惑ってしまうそうです。

ある通信業の20代社員は、「報告することやプレゼンすることを求められているように感じる」と言っていました。また、サービス業の20代社員は「先週、週報出したのに、また新たな報告を求められているように感じる」と発言していました。

このように「報告・プレゼン」を依頼されているかのように勘違いしてしまうので、上司が「よろしくお願いします」でスタートするのはダメなのです。

■トップ5%リーダーは「労い・感謝」から始める

ちなみにトップ5%リーダーは、部下に対する「労(ねぎら)い・感謝」から1on1ミーティングを始めていました。

「先週金曜のイベント対応、ありがとう」「今日は時間取ってくれてありがとう」といった声かけから始まるのです。

写真=iStock.com/Midnight Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Midnight Studio

このように部下を認める(承認する)ことで、「(上司は)こういうふうに私を見てくれているんだ」「私に興味関心を持ってくれているんだな」「本当にありがたいな」といった共感からスタートすることができます。

このように部下に対する「労い・感謝」から始めると、一方的に上司がしゃべる空気になることはなく、部下がどんどん話してくれるようになります。すると、上司と部下の対話が成立して、関係構築と成長支援をする下地が整うのです。

■1on1ミーティングは「準備が8割」

1on1ミーティングにおける対話は、準備で8割決まります。

あなたが上司の立場であるならば、まずは相手のことを「2分」だけ考えてみてください。これまでどんなことに努力してくれたのか、チームに貢献してくれていたのか……そうすれば「労い・感謝」の言葉が出てきやすくなります。

たったそれだけで、思わず「お願いします」と口に出してしまうことを避けられるようになるでしょう。

1on1ミーティングは、上司だけでなく、部下の側にも準備が必要です。

「手ぶらで行って何も生み出されないのは時間がもったいない」とインフラ企業の5%社員が言っていました。

「20代は上司と関係構築するチャンス」「別に上司と“仲良し”にはなりたいわけじゃないけれど、“協力者”になってもらわないと30代でキツい」と、商社と流通業の5%社員が話してくれました。

■5%社員は「情報」を共有する前に「感情」を共有する

そもそも5%社員は、1on1ミーティングを会議とは捉えていません。情報を共有して上司にアクションを決めてもらう場ではなく、「共感・共創の場」だと捉えていました。

テレワークでも出社時でも細かいチェックをされること(マイクロマネジメント)を避けて、自分の考えで自由に成果を出し続ける方法を模索していました。

そのためには、上司と腹を割って話せる関係性(心理的安全性)を築き、上司を巻き込んで一緒に成果を出して一緒に認められる体制を組もうとしていたのです。この体制構築に必要なのが、「共感と共創」だというのです。

5%社員は20代の頃に「自分の弱みをさらけ出す」と第1回(「20代のころは人事評価トップ5%だった一流大卒が、40代で急失速…年齢とともに行き詰まる人の特徴」)で説明しました。これが「共感」を生み出します。

自分が腹を割って話せば相手も腹を割ります。だからこそ、5%社員は上司との1on1ミーティングで情報を共有する前に、感情を共有していたそうです。

「隣の部署の課長に褒められて意外とうれしかった」「頑張って資料を作ったが却下されて残念だった」最近うれしかったこと、残念だったことなどを自分から上司に話すようにしていた、と物流業の5%社員が話してくれました。

■「感情共有」は順番が大切

さらにクロスリバーがヒアリング調査を続けたところ、「感情共有」には順番が大切であることが分かりました。

最初に「残念だったこと」を話すと、上司からダメ出しされたり、愚痴を言う若手社員といったレッテルが貼られたりしてしまいます。

そうではなく、部下が上司に対して先に「うれしかったこと」を伝えることで、ポジティブな側面の相互理解が進みます。その後に「残念だったこと」を伝えることで、上司からもそのネガティブな内容を受け止めてもらいやすくなることがわかりました。

5%社員はこのような「ポジティブ・ファースト」を実施し、上司と感情共有することで、前向きな対話の下地を作っていたのです。

■部下が「働きがい」を感じる断トツ1位は「承認」

5%社員は、20代の時に「共創」の準備もしていました。成果を残して成長していくために、上司を巻き込んで認められる仕組みを作っていたのです。

「あなたが働きがいを感じるのはどういう時ですか?」と17万人にアンケートを取ったところ、断トツ1位が「承認」でした。お客さまや社内の人に感謝されること、自分の行動が評価されること、人事評価が高いことなどです。

しかし、この「承認」は空から降ってきません。「承認」には「達成」が必要で、「達成」するには「目標」が必要です。

そこで5%社員は、上司との対話で行動目標を一緒に作ることを心がけていました。

■5%社員は、上司を巻き込んで行動目標を作る

たとえば、製造業の営業部門に所属する5%社員は、このように上司と目標を握っていたそうです。

越川慎司『29歳の教科書』(プレジデント社)

「今年度の目標は前年比+15%の売り上げですから、顧客への提案件数を+30%にしようと思います。つまり、毎月13件の提案をする目標です。提案内容については課長と相談しながら進めていきたいです」

年間目標を達成するための行動案を提示して、理解を得ます。行動を進めるうえで、その結果と進捗を自分から見せていくことで上司を巻き込む、というのです。

この5%社員は、提案件数も年間売り上げもクリアしました。1on1ミーティングで上司と対話しながら行動実験を進めていったので、目標を達成した時、上司はまるで自分のことのように喜んでくれたそうです。

年間目標を達成するための行動目標を考えて提示し、上司から承諾を得ることで「共同目標」に変わりました。「共同目標」の達成に向けて上司から協力を得て、達成したら深く共感し合う。これが5%社員の“巻き込み承認術”です。

■上司の言うとおりにやってもうまくいかない

今回のヒアリングに対応してくれたのは現在、人事評価トップ5%であるセールスです。まだ部下はいないものの、後輩との対話にも「共感・共創」を心がけ、5%社員を育て上げたそうです。

私が社会人となった20年前は「成果の出し方」を上司が知っていました。上司の言うとおりにやればうまくいったのです。しかし、現在は違います。これだけ変化が激しく不確実な状況では、「自分で考えてやる」という自立型人材が評価されます。

1on1ミーティングを「共感・共創」の場として活用し、達成・承認を得て働きがいを獲得しましょう。

----------
越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
----------

(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)