コロナ禍真っ最中だった一昨年などと比較すると業績は回復しているものの、肝心の放送収入は減少しているキー局各社。しかし、筆者は本格的な「変化の兆し」が見られると指摘します(撮影:今井康一)

斜陽産業と言われて久しいテレビ局。11月に出そろった、在京キー局各社の2022年度第2四半期決算を見ると、放送そのものによる収入は減少傾向にある。

たとえば前期(2021年度)と比べると、キー局すべてが放送収入が減少。コロナ前の2019年第2四半期と直近の第2四半期を比較しても、放送収入の低下がもっとも少ないTBSで−1.5%、もっとも大きかったフジテレビでは−13.0%となっている。

電通が毎年発表している「日本の広告費」の統計でも、縮小ははっきりと見てとれる。2021年の調査によると、インターネット広告費が2兆7052億円(対前年比121.4%)だったのに対し、マスコミ4媒体(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)の広告費(2兆4538億円、同108.9%)と、ネット広告費が初めてマスコミ4媒体の総額を上回る結果となった。

たしかにこのようなデータを見れば、「テレビ業界は衰退の一途を辿っている」「不動産で利益を生み出している」などと感じる人もいるだろう。

しかし、決算資料と各局の昨今の施策を見ていくなかで、筆者は「テレビ局は現在、目先の収益を優先するよりも、力をためて再起を図るタイミングなのだろう」と強く感じさせられた。日本を代表するコンテンツビジネス企業としての知見を、電波ではなく、ウェブへ応用する例が明らかに増えつつあり、またそれらが少しずつ実を結び始めているのだ。

そして、この変化は独立資本のネットメディアで働いてきた筆者からすると、脅威でしかないと感じられた。この記事では昨今のテレビ局の取り組みの事例を紹介するとともに、その理由を考えたい。

各社の四半期決算で「デジタル分野」を見ていくと…

まずは各社の決算発表を、デジタル分野に絞って、ざっとおさらいしておこう。

日本テレビホールディングス(HD)のデジタル広告収入は、TVer(ティーバー)などによる動画広告の増収により、前年同四半期比プラス29.2%。コンテンツ販売収入は、コロナの沈静化で国内・海外販売が好調となり、Hulu(フールー)のTVOD(レンタル制の都度課金)収入も好調だったため、同プラス7.0%となった。

テレビ朝日HDは、新たに「インターネット事業」のセグメント区分を設けた。TVerなどによる広告収入により増収した(売上高は前年同期比プラス10.2%)が、事業拡大により営業費用(同プラス17.0%)がかさみ、インターネット事業の営業利益は同マイナス67.6%となった。

TBSHDは、TVerやTBS FREE、GYAO!(ギャオ)などでの配信広告収入が、前年比プラス34.0%。Paravi(パラビ)などの有料配信収入がプラス18.8%。

テレビ東京HDは、放送事業とライツ事業の比率が、2019年3月期第2四半期の65:35から、2023年3月期第2四半期は54:46に。配信とアニメが構成比率を変えた原動力であると指摘し、連結営業利益は3期連続で増加、2期連続で最高益更新となったとしている。

フジ・メディアHDは、TVer配信数などの主要指標がトップ水準となり、配信広告収入は前期比2倍以上の成長へ。FOD(フジテレビオンデマンド)の有料会員が堅調で、ニュース配信PV(ページビュー)数は月間1億超を継続しているとした。

いずれもテレビ放送における広告収入と比べればまだまだ小さいが、デジタル分野単体では、おおむね成長中だと言ってよさそうだ。

日常に欠かせない視聴手段として定着したTVer

各社の発表資料を見てみると、各局共通プラットフォームであるTVerの存在感が高まっていることがわかる。

これまでテレビ各局は、自社サービスによる「囲い込み」がメインだった。日テレならHulu(2011年開始、日テレグループ入りは2014年)、TBSならParavi(テレ東・WOWOWとの協業/2018年開始)、テレ朝はTELASA(KDDIとの協業/2012年開始)、テレ東はテレ東BIZ(2013年開始)、フジがFOD(2005年開始)といった具合に、それぞれのキラーコンテンツを独占配信することで、そこでの収益化を図っていた。

そこへ風穴を開けたのが、2015年に始まったTVerだ。これまでも見逃し配信機能はあったが、今年4月に各局の「リアルタイム配信」が正式開始。ゴールデン・プライムタイム帯の番組を中心に、地上波とのタイムラグなしに視聴できるようになった。

今クール話題のドラマ「silent」(フジ系)は、最新回のみTVerで無料配信されているが、それ以前の各話はFODで有料配信されている(一部無料あり)。同社が主催する「フジテレビヤングシナリオ大賞」出身の新人脚本家・生方美久氏を抜擢した本作は大ヒット中で、FOD有料会員は11月19日に100万人を突破。第4話の見逃し配信は、1週間で582万再生と、これまでTVerで配信された全番組の単話再生数における最高記録を更新している。

話題といえば、テレビ朝日とサイバーエージェント(CA)が手がけるABEMA(旧称AbemaTV)の、サッカー・カタールワールドカップ(W杯)中継も画期的だ。日本戦のみならず、全64試合の放映権を獲得し、すべて無料生中継に。解説者に本田圭佑氏らを招くなどの話題性もあって、11月21〜27日の1週間で、ABEMA史上最高の週間視聴者数3000万人を突破した。12月2日の日本−スペイン戦も、早朝にもかかわらずアクセスが集中。ABEMA運営企業とCAの社長、藤田晋氏は「言葉もないですが、ABEMAはこんな時間にもかかわらず、また過去最高視聴を更新しました」と報告している。

「黒船」との協業に活路を見いだす陣営も。TBS HDの100%子会社THE SEVENは11月、Netflixと戦略的パートナーシップを締結。今後5年間、映像作品の共同開発を行うほか、THE SEVENのプロデューサーらによる独自企画など複数作をNetflixで全世界配信するという。THE SEVENは現在、神奈川県横浜市の「緑山スタジオ・シティ」に、配信コンテンツ向けの専用スタジオを建設中で、2023年より運用開始予定。東京・赤坂のVFXルームとあわせて、あらゆるタイプの作品制作を進める計画だ。

「動画→テキスト」「メタバース」などの取り組みも

他方で、動画コンテンツをテキストベースへ落とし込む施策も進んでいる。

TBSは4月、ニュースサイト「TBS NEWS DIG Powered by JNN」を開設した。JNN各局はTBSをはじめ、それまで各自ニュース配信を行っていたが、系列28局の総合ニュースサイトとして、各局の出資で立ち上げられた点が大きな変化だ。

9月時点で月間1.6億PVとなり、ニュースのデジタル配信収入は前年同四半期比プラス88.2%に。外部販売、広告収益ともに好調だとしている。現時点ですでに、新聞社系サイトを含む、ネットニュースサイトにとって大きな脅威になっていると言えるだろう。彼らはテキストの知見こそあれ、動画を作ることには長けていないからだ。

Web3(ウェブスリー)と呼ばれる、分散型の次世代インターネットに乗り出す局も増えてきた。テレ東は10月、NFTゲームプラットフォームを手がけるDigital Entertainment Asset(DEA)社へ220万ドル(約3億円)を出資。ブロックチェーン技術を用いて、唯一性を担保するNFT(非代替性トークン)の活用を模索している。

テレビ朝日の「光と星のメタバース六本木」や、フジテレビの「バーチャル冒険アイランド」のように、リアルイベントで培ったノウハウを、メタバース(仮想空間)に応用するパターンも。くしくもコロナ禍による巣ごもり需要に、技術進歩のタイミングが重なった形だ。

こうした事例を見ていると、「テレビ局そのものがジリ貧」というよりも、「従来のテレビビジネスに限界が来ている」ということがわかってくる。

お茶の間でブラウン管を囲む時代から、一人ひとりがスマートフォンで楽しむ時代へ。消費がニッチ化している以上、発信側も「マスありき」の前提を変える必要がある。前述した動画ニュースのテキスト化はその一例だろう。ニュースを動画で届けるだけでなく、テキストでも届けるのはそれ相応の負担があるが、そうすることで配信経路を増やし、多様なニーズに応えることができるのも事実だ。

「通信と放送の融合」なる言葉が話題になってから、20年弱が過ぎたが、ようやく融合が進み出したように、筆者には思える。

テレビ局は「巨大コンテンツ制作会社」になっていく

放送局(とくにキー局)の強みは、コンテンツ制作に資金力と人的資本を大量投入できる点にある。巨大なセットを使い、著名なタレントを起用する。これは決して簡単にできることではない。ウェブメディアは数が多いから広告費の総額ではマスメディア4媒体を上回っているだけであり、1社あたりのパワーはまだまだ圧倒的にテレビ局のほうが上だからだ。

また、そうして生み出された作品は、初回放送(配信)だけでなく、ストック型の資産として、長期的な収益源となるポテンシャルも持っている。販路さえあれば、その番組フォーマットを諸外国に売ることもできるだろう。来年Amazonプライムビデオで復活予定の「風雲!たけし城」(TBS、1986〜1989年)などは、まさにその先駆けといえる。

テレビ局が復権する道としては、この方向性しかないであろう。そして、これは他の業界、たとえばウェブ業界にとっても他人事ではない。放送局が今以上にウェブに力を入れ、良質なコンテンツをコンスタントに制作することができれば、資本力の大きくない多くのウェブメディアは、間違いなく多大なダメージを受けるからだ。

ウェブメディア出身の筆者個人としては、「眠れる獅子」のままでいてほしいのが本音だが、一方で、結果的にそれがウェブメディア業界を令和時代にアップデートするきっかけにもなる可能性もあるだろう。それぐらい、テレビ局の変化が、ウェブ業界に起こすであろう変容は大きいのだ。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家)