●いろいろな人物になれる女優業の魅力実感「すごく楽しい」

今年4月にアイドルグループ・乃木坂46を卒業した北野日奈子。卒業後初の演技の仕事ととして、7月に上演された舞台『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』でヒロイン・小夏役を務め、そして、本日最終回を迎える『少年のアビス』(ドラマ特区 MBS毎週木曜24:59〜/tvk毎週木曜23:00〜ほか)でヒロイン・青江ナギを演じてきた。両作品を経験し、女優業への意欲が高まったという北野。抵抗を感じていたという女優業への思いがどう変わっていったのか、また、アイドル役を演じて芽生えたという歌手活動への思いも聞いた。



『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』の稽古中にインタビューしたときには、目標は決まっておらず、どの道に進んでいきたいかこれから探していくと話していた北野。

『蒲田行進曲』への出演がどのような経験になったか尋ねると、「最初は作品が大きいことに気づかず、声をかけていただいたので挑戦してみようと思って飛び込んだのですが、稽古期間はものすごく大変で、やると言ったことに後悔もよぎりましたが、共演者の方やスタッフさんの熱量がすごすぎて、この熱量に中途半端な気持ちをぶつけてはいけないと思い、周りの人や環境に支えられてなんとか乗り越えられました」と振り返り、「小夏として舞台に出演できたことは自分の中で宝物になっています」と自身にとって大切な経験に。

「短い期間で舞台とドラマをやらせてもらって、2つの違いが明確にわかるというか、舞台は舞台ならではの難しさと楽しさがあって、ドラマも同じようにあって、自分はどっちが向いているのかまだわかりませんが、舞台とドラマで使い分ける気持ちや表情があることが女優さんとしての楽しさなのかなと思いました」と女優業のやりがいを感じられたという。

また、「小夏さんとナギちゃんを演じて、自分にない経験や人生観をあたかも自分が経験したかのように当てはめて歩める時間がすごく楽しくて、いろんな人になれるのが女優さんの魅力だなと感じました」と述べ、「16歳で乃木坂46に入って社会経験も少ないですし、青春もほかの人よりは全然ないですし、役としてそういうことを経験できたらいいなと。舞台やドラマが始まる前より、演じる楽しさや、そこで見る新しい自分を楽しめるようになりました」と女優業に対する思いが大きく変化。

「まだ『どうしても女優さんになりたいです』というところまでは追いつけていませんが、怖い、不安というよりも、また新しい経験ができるかもしれないという前向きな気持ちのほうが大きくなりました」と語った。





舞台とドラマそれぞれに感じた難しさと楽しさについても聞いてみた。「舞台はセリフを間違えないように言うことが正解ではありますが、生ものなだけあって、毎日新しいことに挑戦して新しい発見があるという楽しさがありました。また、お客さんに来ていただける舞台って本当にすごいんだなと。愛を持って会場に足を運んでくださるお客さんの存在のありがたさが舞台は目に見えるので、そこも舞台ならではの楽しさや幸せだなと感じました」

ドラマについては、「同じシーンでもいろんなところからのカットがあって、毎回同じように演じるのが難しいなと。だからドラマに対して苦手意識があったのですが、『アビス』を経験して、画面の中でしか表現が伝わらないので、より表情の精度を上げなきゃとか、セリフも舞台はたとえ棒読みでも勢いで伝わる部分があるかもしれないけど、ドラマはより繊細に演じなければいけないと感じました」と語った。

舞台とドラマを経験して女優業への思いが変わった今、改めて今後について尋ねると、「女優さんとしてお仕事をしていきたいという気持ちが増えました」と告白。女優として頑張りたいとすぐ決めるつもりはないと話していた数カ月前とはだいぶ変わったようだ。

「私は感情に嘘をつけなくて、泣きたいときはステージの上でも泣いていたタイプなので、何かになりきって演じるという、頑張らないとできないことはあまりやりたくないと思って、女優業は意欲的ではなかったのですが、舞台とドラマとやらせていただいて、演じているときは役と北野日奈子を切り離すことができるんだなと思ったので、女優業への抵抗はなくなりました」

どんな女優になりたいか尋ねると、「自分自身、陽と陰の部分があるのと一緒で、自分でも気づいていない姿がまだあると思うので、いろんなカラーになれるような人になりたいです」と幅広い役に意欲。

好きな女優は、有村架純と永野芽郁とのこと。「出演していると見てしまいます。かわいいなって。演技もすごく好きで、演技されているときの目が好きです」と語り、共演願望を尋ねると、「うわ〜実現したらうれしいですね。紅白の裏側でしかお見かけしたことないので」とはにかんだ。

●アイドル役で「歌って踊ることが好きなんだなと再確認」

『少年のアビス』で演じているナギは、4人組アイドルグループ・アクリルのメンバーで、パフォーマンスシーンも描かれた。北野自身、アイドル衣装やダンスを楽しんだという。

「乃木坂46はそんなにアイドルアイドルしていなくて、もっとアイドルっぽい衣装を着たいなと思った瞬間もあったので、今回着られて楽しかったですし、アイドル衣装って踊るとこういう感じなんだって思いました。現場のスタッフさんも私が乃木坂46のメンバーだったと知ってくださっているので、ターンしただけで『本物だ!』と言ってくださって、ちやほやしてもらってすごくうれしかったです(笑)」



ダンスを踊るのは乃木坂46卒業後初めて。「ナギちゃんなりの笑顔を意識しながらでしたが、久しぶりに曲に乗せて踊って拍手をもらえてうれしかったです」と話し、「アイドルは天職だなと思っていたんですけど、やっぱり楽しいなって思いましたし、アイドルとしての表現は乃木坂ちゃんで磨かれてきたので、キラキラしたアイドルにちゃんとなれたと思います」と胸を張った。

ソロ歌手への意欲を尋ねると、「卒業してから、アイドルでいた自分と今の自分を、自ら強めに引き離していたんですけど、やっぱり歌って踊ることが好きなんだなって再確認したので、今後そういうこともできたらいいなと思いました」と前向きな回答。

「ボイトレに50年くらい通わないと(曲は)出せないと思いますが、やってみたいという思いは芽生えました」と続け、「歌って踊ることを9年間やってきて、その姿を見て応援してくださる方が大半だったと思います。ファンの方も喜んでくれる活動の一つだと思うので意欲はあります!」と話した。

『少年のアビス』では、松井玲奈との共演もとてもうれしかったという。「私が乃木坂46に入って半年後くらいに玲奈さんがSKE48との兼任で乃木坂46に来られていたので、久しぶりにお仕事でご一緒できてうれしかったです。共演シーンが終わったあとに私から連絡して『久しぶりにご一緒できてうれしかったです』とお伝えしたら、『日奈子ちゃんがすごく大人になっていて言葉が出ませんでした』と言ってくださって、当時の私を覚えてくださっていたこともうれしいですし、今の私のことも視界に入れてくださっていたという喜びもありました。なかなか会えない親戚のお姉さんに久しぶりに会って『大人になったね』と言われた気分でした」

松井が女優として活躍している姿からも刺激を受けているそうで、「玲奈さんは玲奈さんにしかできない役や演技をされていて、独特の魅力があるというのは憧れます」と語る。





乃木坂46の卒業生である生駒里奈に演技について相談したエピソードも話してくれた。「ドラマと舞台の違いはどういうところにあるんですか?」と相談したところ、「ドラマはお客さんではなくて、カメラの向こう側に居る人を想像して、レンズの奥を意識してやってみるといいかも」と教えてくれたそうで、その意識で挑んだら緊張せずに演じられたという。

「生駒さんは演じる楽しさも恐怖も教えてくださるので(笑)、その気持ちに出会ったときの対処が生駒さんのおかげで早くできる。これ生駒さんが言っていたなって。舞台のときもドラマのときもすごく救われました」と感謝した。

同期の堀未央奈にも話を聞いたという。「堀はすごくドラマに出ているので、どうやってセリフを覚えているのか聞いたり、ラブシーンも堀はやったことがあったので、どうすればいいのか聞きました。ナギちゃんは感情を無にして演じる役だと伝えたら、『無でいればいいよ。大人なんだからできるよ』とさらっと励ましてくれて。女優さんの先輩として未央奈にも支えられました」

多くの乃木坂46の卒業生が女優として活動しており、「道しるべを作ってくださっているので、その道を通る恐怖心はないです」と語る北野。

そして、「『女優になりたい、歌手になりたいから卒業します』ではなく、『やり終えたから卒業します』と言って卒業した私ができる道しるべとしては、大好きな乃木坂46をやり終えて卒業したあとにもいろんな道筋があるのだという、それはこれからの私の行動によって変わると思うので、同じような子にもいろんなことに意欲的に取り組んでもらえるような行動ができたら」と、自身も一つの道しるべとなるべく歩んでいる。作品を重ねるごとに女優業への思いはさらに高まっていくのか、あるいは、より熱中できるものを見つけていくのか、引き続き北野の活動に注目していきたい。

■北野日奈子(きたの・ひなこ)

1996年7月17日生まれ。北海道小樽市出身、千葉県育ち。2013年3月、乃木坂46の2期生オーディションに合格し、2014年4月に8thシングル「気づいたら片想い」で初選抜、正規メンバーに昇格。今年4月30日をもって乃木坂46を卒業した。女優としては、乃木坂46のメンバーとともに、舞台『じょしらく』シリーズ(2015、2016)や『あさひなぐ』(2017)などに出演。グループ卒業後初の演技の仕事として、今年7月に舞台『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』に出演。現在放送中のドラマ特区『少年のアビス』で地上波連ドラ初レギュラー出演を果たした。