チェス世界王者であるマグヌス・カールセン氏が、2022年9月の対局で2手目に投了したことについて、対戦相手のハンス・ニーマン氏が不正行為をしていると考えたことによるものだという声明を発表しました。ニーマン氏は「12歳と16歳のときに不正をしたものの以降は不正はしていない」と弁明していますが、カールセン氏は「もっと最近も含めて、多くの不正行為をしている」と指摘しています。



Carlsen Makes Statement: 'I Believe Niemann Has Cheated More' - Chess.com

https://www.chess.com/news/view/carlsen-statement-niemann-cheating

カールセン氏とニーマン氏は2カ月の間に3回の対戦機会があり、2022年8月のFTXクリプトカップ、2022年9月のシンクフィールド・カップといずれも黒(後手番)のニーマン氏が勝利。シンクフィールド・カップで敗戦したカールセン氏は、まだ翌日以降に他のプレイヤーとの対戦があったにも関わらずトーナメントを棄権。そして2022年9月19日に行われたJulius Baer Generation Cupでの対戦では、カールセン氏は自らの2手目を指すことなく投了し、話題を呼んでいました。投了時の様子や、他のグランドマスターの見解などは以下の記事にまとめています。

チェス世界王者マグヌス・カールセンが2手目に投了、対戦相手ハンス・ニーマンの不正疑惑へ抗議か - GIGAZINE



カールセン氏は9月27日、Twitterでここ数週間に関する件の声明を発表しました。内容は以下のような感じ。

「2022年のシンクフィールド・カップにおいて、私はラウンド3のハンス・ニーマン氏との対戦後にトーナメントを棄権するという、プロとして前代未聞の決断を下しました。その1週間後のチャンピオン・チェス・ツアーでは、ニーマン氏との対戦でわずか1ムーブだけで投了しました。」

「私の行動がチェスコミュニティの多くの人々に不満を抱かせるものだったことは承知しています。私も不満です。私はチェスがしたい。私は最高のイベントの中で、高いレベルのチェスを指し続けたい。」

「チェスにおける不正行為は一大事であり、ゲームとしての存続に関わる脅威だと私は信じています。そして、チェスの主催者やゲームの神聖さを気にする人々は、盤上の不正行為の検出方法とセキュリティ強化を真剣に考えるべきだとも信じています。ニーマン氏が2022年のシンクフィールド・カップに直前で招待されたとき、私は大会前に参加を取りやめるべきか強く考えました。そして、最終的には出場しました。」

「私は、ニーマン氏が不正行為を公に認めたものよりも多く――しかも直近にも――行っていると信じています。彼が盤上で見せた進行は並外れたものであり、私はシンクフィールド・カップでの対戦で彼がまったく緊張していないか、むしろ重要な局面でも集中していないという印象すら受けました。黒(後手番)として、ほんの一握りのプレイヤーしかできないような方法で私に勝ったというのに、です。この対局で、私の見方は変わりました。」

「我々は不正行為について、何かしなければいけません。私としては、過去に何度も不正行為を繰り返した人とは対局したくありません。将来的に何をしてくるかわからないからです。」

「もっと言いたいことはあります。しかし残念ながら、現時点でニーマン氏から明確な許可を得ずにオープンに話すことは制限されています。これまで私が話せるのは自らの振る舞いについてのみでしたが、それらが明確に示すのは、ニーマン氏とは対局したくないということです。この件の真相が明らかになることを願っています。

敬具

マグヌス・カールセン――チェス世界チャンピオン」

ニーマン氏がどのような「不正行為」をしたと疑われているのか、また、カールセン氏が何らかの証拠を握っているのかは不明です。

なお、カールセン氏が言及した「ニーマン氏がシンクフィールド・カップに直前で出場が決まった」のは、リチャード・ラポート氏の代役。そのラポート氏はTwitterで「冤罪で訴えられたプレイヤーをどう保護するかという現在の議論」について触れ、ポリグラフや類似の方法を提案し、対局そのものはディレイ放送も、特別な警備もなしで、ペンや時計の持ち込みも引き続きOKとすることをツイートしています。





チェスの不正行為をめぐっては、2019年にグランドマスターのイゴール・ラウシス氏がトイレでスマホを使いカンニングしていたところを見つかり、20年間の大会出場禁止措置を受けた事例があります。

チェスのグランドマスターがトイレでスマホを使ってカンニングしていたことが発覚 - GIGAZINE



このほかの「不正行為」の例として、プログラマーのジェームズ・スタンリー氏は、Raspberry Piと接続したバイブレーターを靴の中に仕込んでおき、次の推奨手を振動で教えてもらう「Sockfish」という手法を、チェスのうまい友人との対戦で実践。途中で実際の盤面とSockfishの想定する盤面にずれが生じて、最後まで使うことはできなかったものの、1勝1敗に持ち込んでいます。

James Stanley - Cheating at chess with a computer for my shoes

https://incoherency.co.uk/blog/stories/sockfish.html



ネットでは同種の発想として、肛門に挿入して振動を発するアナルビーズを使ったのではないかという話が出ていますが、特に何かの根拠があるわけではありません。



なお、この根拠のない話から派生して、カールセン氏がニーマン氏の不正に気付いたのは自らが10年前から同様の不正を行っており、今回、ニーマン氏が同じ不正をしたことで電波干渉が発生したからだという与太話もあります。

'The real answer is actually elementary. Magnus cheats.' - removed awarded comment in r/chess : chessmemes

ちなみに「ボードゲームでの不正行為」という話だと、日本では将棋界で2016年、三浦弘行九段が対局中にスマートフォンを用いて不正をしたという疑惑がありました。このとき、三浦九段は渡辺明竜王(当時)への挑戦者になっていて、日本将棋連盟は三浦九段に休場を求めたものの三浦九段が応じなかったことから、出場停止処分と挑戦者変更を決定。その後、疑惑については第三者委員会から「不正の根拠がない」との調査結果が出て、谷川浩司会長らが辞任しています。

将棋でスマホ不正使用疑惑がかけられた三浦九段の復帰戦が決定、谷川浩司日本将棋連盟会長は辞任 - GIGAZINE