昨今、日本でも増加傾向にある児童虐待。虐待を受けた子どもたちに、いったいどのような心の傷を与えてしまうのでしょうか。『傷ついた子を救うために マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち4』(扶桑社刊)を上梓した児童精神科医の宮口幸治さんに、お話を伺いました。

増える児童虐待の実態。親が意識するべきこととは?

日本の児童養護施設に収容される子たちの多くが、何らかの虐待を受けていると言われています。厚生労働省の発表によると、その虐待の内訳としては、ネグレクトが63%。身体的虐待が41.1%、心理的虐待が26.8%、そして性的虐待が4.5%に上るとされています(複数回答あり)。

●児童虐待が子どもに与える影響

虐待は、子どもたちにどのような影響を与えるのでしょうか。大ベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』などの著書で知られる児童精神科医の宮口幸治さんは、『傷ついた子を救うために マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち4』(扶桑社刊)の中で、親の虐待が子どもに与える影響について考えるうえで、「電気自動車」をイメージすると理解しやすいと語ります。

「子どもが電気自動車で、保護者を充電器にたとえた場合、電気がなくなったらいつでも充電させてもらえるのがわかっている子どもは、遠くに出かけていくことができます。でも、例えば、その充電器がどこにあるかわからないようなネグレクトの場合や、違った電圧で充電してくるような身体的虐待の場合、充電をわざとさせないような心理的虐待の場合、電気自動車である子どもたちはどう思うでしょうか? 親という充電器があてにならない以上、安心して遠くに出かけられなくなってしまうのです」

●安心がなくなってしまった子どもたちの行動

親から与えられる「安心・安全」という名の充電器がないと、子どもたちはやる気になれません。また、充電器になりそうな大人がいれば、見知らぬ人でもなれなれしく近寄ってしまい、トラブルに巻き込まれることもあります。また、わざと大人に暴言や暴力をふるって反応を見ることで、「その充電器があてになるか、壊れないかを試す」といった行動を取るようになるのだとか。

「そのほか、親がどこかへ行かないか不安でずっとくっついたり、そもそも親という充電器を信用せずに近づかなくなってしまって、他者と安定した関係がつくれなくなるケースもあります。また、『親(充電器)はあてにならないものだ』という誤った考え方を植え付けられてしまい、自分が受けた虐待を次世代に引き継いでしまうようなリスクだってあります」

●保護者が勘違いしてしまっているケース

さらに、虐待している保護者が「自分は子どもにとってふさわしい親(充電器)」だと勘違いしているケースも多いのだとか。

「虐待をしている親御さんの中には、自分が行っていることはしつけの一環であると考えている人も少なくなく、虐待の自覚がありません。でも、大切なのは、『子どもにとってどうなのか』という視点です。子どもにとって「安心・安全」だと思える充電器でない以上は、虐待に当たることもあります」

昨今は、子どもの前で夫婦ゲンカを行うことも、「面前DV」という心理的虐待にあたるとみなされます。子どもに対して、いつでも「安心・安全」である充電器でいられるかを、親はきちんと意識することが求められるでしょう。

●虐待を受けた子どもたちは、児童養護施設でどのようなケアを受けるのか?

虐待によって、発達に課題が生まれたり、心に傷を負ったり、不登校になったり、自傷を繰り返したり…といった課題を子どもが抱えた場合、児童養護施設でどのようなケアを受けるのでしょうか。

「重篤な症状が出て専門治療が必要な子は、児童精神科医のいる病院に通院することもあります。そこまでいかない子たちは、週1回くらいのペースでカウンセリングやプレイセラピー(遊戯療法)、グループセラピーなどを行っています。その中で、親や学校、恋愛、SNSの悩み、自分の生い立ちなどを語るなど、それぞれに向けたプログラムなどを受けてもらうことがあります」

『傷ついた子を救うために マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち4』(扶桑社刊)を通じて、児童養護施設で暮らす子どもたちの実態や彼らが抱えるリスクについて触れてみてはいかがでしょうか。