この記事をまとめると

■コロナウイルスの蔓延は各界にさまざまな支障をきたしている

■新車セールスマンが経験不足に陥っていることも悪影響のひとつ

■販売現場の状況を解説する

コロナ禍により接客の機会が減っている

 コロナ禍となっても、宿泊や観光業界などに比べれば深刻な販売の落ち込みもなかった新車販売業界。しかしコロナ禍の悪影響が目立ってきている。それはコロナ禍に入社してきた新人セールスマンの圧倒的な経験不足である。

 コロナ禍の新車販売は当初言われていたよりは、販売台数の落ち込みは少なかった。それは各セールスマンが過去に販売したお客へ新車の乗り換えを促進するという販売手法が支えたといっていいだろう。「コロナ禍となってからしばらくは、新規で新車購入を目的に店を訪れるお客様はほとんどいませんでした」とは現場のセールスマン。

 さらに「コロナ禍前に一定の経験があれば、過去に販売したお客様に新車へのお乗り換えをご案内するという売り方でしのいでいましたが、既納客を持たない新人は新規来店されるお客様しか相手にすることはできませんからね。見ていてかわいそうでした」と話す。

 過去には退職したセールスマンのお客を引き継いだりもしていたようだが、個人情報管理に厳しい昨今ではそれも難しい様子。ましてや退職するセールスマンがここ最近は圧倒的に減っているのである。

 今の若い人には笑われるかもしれないが、新車販売は「10組のお客を相手にして契約は1組だけ」みたいな、無駄を積み上げるなかで経験値を上げ、セールスマンとしてのスキルアップを進めていくというのが業界の一般認識。場数を踏んで引き出しを増やしていくことで、初めて会ったお客でも「このパターンのお客だな」と適切な接客ができるのである。

 ところが、このコロナ禍に入社したセールスマンは、受注件数ではなく実際の接客件数もかなり少ない状況が続いた。新型コロナウイルス感染拡大という、個人ではどうしようもない出来事があったので仕方ないともいえるが……。

今後のためにも迅速な対応が求められる

 接客がたどたどしいのは、いまの社会背景を考えれば経験が絶対的に少ないこともあり、ある程度仕方ないともいえるが、それを差し引いても対応が甘く見える新人セールスマンも目立つ。商品知識が足りない新人セールスマンが多いのである。カタログのどこにどんなことが記されているかまで満足に案内することができないセールスマンもいる。「接客スキルが磨けないならせめて商品知識だけでも」と切り替えられない新人セールスマンが多いようだ。商品知識を自分なりに完璧なものにしていれば、お客も信頼感を寄せ、値引き額をそれほど拡大することなく契約に持ち込むことができ、高い利益率で新車を売ることができる。

 しかし足かせ3年にわたるコロナ禍のなか入社してきた新人セールスマンは、新人として現場で十分学ぶことができなかった。そして今後はその世代が、販売台数の積み増しに大切な中堅世代となっていく。こうなってくると、単に人員的なマンパワーの問題だけではなくなってくる。オンライン商談(AIを活用するなどさらに先進的なもの)や、ウェブからの新車購入申し込みなどの積極的な活用が急務となるだろう。またそのようなシステムに馴染みにくい客層には、定年退職を迎えたセールスマンの定年延長や嘱託契約で残ってもらうといったほかに、退職セールスマンと“ブローカー契約”し、引き続き顧客管理を任せながら完全歩合制でセールスマンの仕事を続けてもらうなどしないと、現状維持すら難しい状況となっていくだろう。

 セールスマンの仕事を覚えるのは“座学1割、現場9割”と言われている。そもそも最近の若い世代は、先輩からの指導を嫌い、能動的な活動が苦手な傾向が強かったが、今回コロナ禍で決定的な経験不足に陥っている。これを補うには個人の努力が必要だが、それをフォローする余裕は販売現場にはない。新しい売り方を模索している時間的猶予はそれほどないように見える。