国内女子ツアー「ゴルフ5レディス」は、吉田優利とのプレーオフを制したセキ・ユウティン(中国)がツアー初優勝を遂げた。2017年から日本ツアーに本格参戦してプロ6年目を迎えているが、シード権はまだ獲得していなかった。吉田らを指導し、今大会では上田桃子のキャディを務めた辻村明志氏が、ユウティンの勝因について語る。
■使える傾斜と使えない傾斜の判断
舞台となった千葉県・ゴルフ5カントリー オークビレッヂは、ギャラリーロープ外からでも分かるほど、フェアウェイやグリーンが大きくうねっている。特にグリーンのアンジュレーションが強く、二段、三段グリーンも当たり前※。ピンと同じ面に乗せることが重要だったが、その面をどのように捉えるかというのもひとつのポイントだったと辻村氏は語る。
「グリーンには腰や身長くらいの高さをもつ傾斜があります。そのなかにも利用“できる”傾斜と“できない”傾斜が大きく分かれています。そのジャッジとマネジメントの仕方で、チャンスにつくこともあれば流れてしまうこともあります」
例えばすり鉢状にくぼんだところに切られているピンは、周りの傾斜を利用できればピン方向にボールが転がっていく。一方で、コブの高いところに切られているピンは、利用できない傾斜が周りを囲んでいるため、チャンスにつくことが難しい。グリーンをねらう正確なショット力も必要だが、それに合わせてどのように傾斜を利用するか。このかみ合わせが大切だった。
■ユウティンに見えたふたつの“変化”
ジュニアの頃からユウティンを知っている辻村氏だが、今季のある“変化”に驚いたという。「体が相当大きくなりました。これは簡単なことではありません。相当な筋力トレーニングと食事トレーニングをしたと思います。並の努力ではできないことです」。ちなみにユウティンは今年6月に、バーベルを下から持ち上げるデッドリフトは40kgから120kgを、バーベルを持ちながらのスクワットは50kgから95kgを上げられるようになったことを明かしていた。
さらにスイングにも大きな“変化”が起きている。「一本足打法だったり、右足に全体重を乗せて打っている姿を見ました」。17年はドライビングディスタンスが『220.01』ヤードで全体91位。20-21年シーズンも『224.83』ヤードで81位だったドライバーの飛距離は、今季に入って『244.54』ヤードで全体19位につけている。これまで飛距離を出すことに苦しんでいたユウティンを知る辻村氏だが、この成長には目を見張るものがあった。
だが、この劇的な飛距離アップには曲がるリスクもあるという。体全身をゆするように大きく使うスイングは、再現性が低くなり、フェアウェイをヒットしにくくなるという一面も。現に、単独首位に立っていた最終日の15番では、ティショットが右のOBに入ってダブルボギーを叩いている。だが、辻村氏は「ツアーで勝ち残るために“飛距離”を選んだ」とユウティンの変化を分析する。
「日本ツアーに出場していくにつれて、振る力、大きな飛距離が必要だと感じたのでしょう。この体とスイングの変化は“ツアーで生き延びるための変化”です。曲がるリスクよりも飛距離を優先したのだと思います」
ティショットが飛ぶということは、2打目はより短い番手でグリーンを狙えるということ。より短いクラブのほうがチャンスにつく可能性が高いことは言うまでもない。ユウティンはその飛距離を利用して、難易度が最も易しかった13番パー5では、3日間でバーディ、バーディ、イーグルとスコアを4つ伸ばした。「ティショットのアドバンテージを生かすゴルフができていました」と語る。
■重たいグリーンに合わせられることも技
前週の「ニトリレディス」でスティンプメーター12フィートの高速グリーンを経験していた選手にとって、今大会の9フィートのグリーンは遅く感じた選手が多かったと、辻村氏は分析する。コンパクションが小樽の24から20へと軟らかくなったぶん、チャンスにつく可能性は多くあったが、決めきるためにさらにもうひとつの技が必要だったと話す。
「スピードが出ないからといって強く打てば、ラインが合いません。グリーンが重くなるとブレイクポイント(ラインが曲がり始める位置)が変わってきます。いつもより初速が出ないグリーンで、カップに入っていくスピードをイメージできるか。できた人はビッグスコアにつながったと思います」
3日間平均『28.67』パットで全体8位につけたユウティン。ティショットで飛ばし、ショートアイアンでチャンスにつけたが、さらにパッティングでは重たいグリーンのスピード感について行くこともできたからこその勝利だったのだ。
ちなみにプレーオフで敗れ連覇を逃したとはいえ、大善戦だった吉田の3日間平均パット数は『28.33』。ツアー屈指のパター巧者は、やはり難グリーンでも強かった。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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