難コースでパーを並べ続ける強さをみせた(撮影:佐々木啓)

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今シーズン最後となる北海道戦は、稲見萌寧が今季2勝目(通算12勝目)を収め、そして自身初の“大会連覇”を達成した。ツアー屈指の難コース・小樽カントリー倶楽部をどのように攻略したのか。今大会で優勝争いを演じた上田桃子、吉田優利らを指導し、今大会ではその上田のキャディも務めた辻村明志氏が語る。
■難コースで大事なことは、ワンランク上のマネジメント
小樽といえばツアー屈指の難コース。キャディとしてコースを4日間歩いた辻村氏も「メジャーのようなセッティングで、日本で一番、神経を使うコースです」と攻略の難しさを語る。
木がスタイミーになるレイアウトや風、洋芝のラフに入れてはいけないというプレッシャーなどからもティショットの落としどころはより狭く感じられ、グリーンには細かいアンジュレーション。「ピンポジションに応じて、ティショットから狙いどころが変わります。“次の一打をどこから打つか”というアングルを常に意識するマネジメントが重要です」
どのようにバーディパットを打つかを逆算して、そこに乗せるためにはどこから2打目を打つか。より一歩先を見据えたマネジメントを強調した。
■ボギーを打たないことが“最高の攻め”
稲見は3番パー4でボギーが先行。だが、6番パー5でスコアを戻すと、9番パー5でもバーディを奪ってサンデーバックナインに突入した。折り返して13番パー5でもバーディ奪取。トータル9アンダーで山下美夢有、藤田さいき、吉田優利と並ぶ混戦模様を呈していた。
しかし、18ホールを終わってみれば、2位に2打差をつける勝利。「攻めをガマンするという“攻め”に徹底していました」とそのプレー内容を分析する。
辻村氏いわく、1番から5番の序盤は「ゲームを作るのが難しい」というシーンが続き、それを抜けると6番パー5から10番パー5は「スコアを伸ばしやすいホール」が展開。そして終盤の15番〜18番には「難易度が高いホール」が待っている。
優勝争いを演じた各選手と、稲見のプレーを比較してみよう。12番パー3で吉田、山下はグリーン手前右のショートサイドに構えられたバンカーにつかまり、ともにボギーとするが、一方の稲見は1オン2パットのパー。
15番パー4ではフェアウェイ右のラフにつかまった吉田、藤田がともに2打目でグリーンを捉えられずにボギー。稲見も同じくティショットが右のラフにつかまったが、比較的寄せやすいグリーン左奥に外して、パーでしのいだ。
そして最難関ともいわれる、グリーン手前に大きな池が構えている16番パー4。山下がボギー、吉田と藤田がダブルボギーとスコアを落とすなか、ティショットをフェアウェイど真ん中に置いた稲見は、2打目はグリーン左に外したものの、そこは「いちばん寄せやすい場所。稲見さんのアプローチの技も光っていました」と50センチにピタリと寄せてしのぎ、頭ひとつ抜け出した。
前半では遅れを取っていた稲見だが、耐えるところは耐え、伸ばしやすいホールで伸ばし、終盤は手堅くパーを並べ続ける。「ここで優勝する必須条件は、バックナインでボギーを打たないこと」という“小樽の鉄則”を見事に守った。
「ボギーのリスクを避けながらバーディを狙わないといけないコースです。そのなかで攻める強さだけでなく、“自分からコケない”という徹底っぷりを見せていました」
■この勝利は年間女王への幕開けか
実は小樽と賞金女王との間に、切っても切れない関係性があることはご存じだろうか。昨年、21年大会を制した稲見は、賞金女王を戴冠。19年大会覇者の鈴木愛、18年大会覇者のアン・ソンジュ(韓国)、15年大会覇者のイ・ボミ(韓国)も同年の賞金女王に輝き、16年大会を制した笠りつ子は自己最高位となる3位につけた。
「どの選手も“小樽で成長を感じたい”と毎年思っているはずです。そして好成績を出せたら、自信がつくのは間違いありません。いままで実力者しか勝っていない、というのが現実。小樽で勝つと、残りのシーズンにも勢いがついていきます」
稲見は今大会を終えて、賞金ランキングは2位に、年間女王を争うポイントレースのメルセデス・ランキングでも山下、西郷真央に接近し、3位につけている。9月には稲見が昨年制した「日本女子プロゴルフ選手権」、そして「日本女子オープン」の国内メジャー2戦を控えている。周りの選手もそこに照準を合わせて調子を上げてくるなか、圧倒的な強さを見せつけることができるだろうか。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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