小言が多い親やわがままを言って困らせる子ども。家族だからといって、いつでもわかり合えるとは限らないし、近しい関係だからこそイライラを感じる機会も多いはず。そこで、一般社団法人日本メンタルアップ支援機構代表理事であり、『1ステップで気分があがる↑気持ちのきりかえ事典』(扶桑社刊)を上梓した大野萌子先生に、家族関係でイライラしたときに上手にきりかえるコツを伺いました。

家族にイラっと来たら…上手にきりかえるコツ

関係性が近いからこそ、遠慮がなくなる親子関係。親は良かれと思ってやったことが、子どもにとっては過剰な干渉であることが多く、逆効果になることもあるそう。その理由と、穏便な向き合い方とともに紹介します。

●きりかえ方(1) 親の言うことは受け入れられなくて「当然」

子どもはいくつになっても、「親の言うことに従わなければ」と思ってしまいがちですが、大前提として、親は絶対的に正しい存在ではありません。

親もひとりの人間である以上、間違ったことをしてしまうことはあります。個人としての考え方や価値観が違うので、親と子どもで意見が対立するのは、「当然」のことだと受け入れてください。決して「親の言うことを聞けない自分は悪い子どもだ」と思う必要はありません。

なかでも親子間での対立の要因となるのが、世代間で生まれる価値観のギャップです。

たとえば、60代以降の世代であれば「女性は結婚したら仕事を辞めて家庭に入る」ことは、ごく当たり前の価値観でした。そのため、現役世代にとっては常識になりつつある「夫も妻も変わらずに働くこと」という考え方は、親世代からするといまだ受け入れられない価値観かもしれません。

また、60代以上の世代に根強く残るのが、「1つの会社に終身雇用で勤めあげる」という価値観です。しかし、現代では「1つの会社にこだわらず、いろんな会社を経験してキャリアアップする」という考え方に変化しつつあります。子ども世代が転職でキャリアアップをはかろうとしたら、「そんな不安定な生き方で大丈夫か」と親から心配されることもあるでしょう。

このように時代が違えば、価値観のズレは必ず生まれるもの。親と対峙するときは、ぜひその気持ちを忘れないでください。

●きりかえ方(2) 不満はきちんと親に伝える

いくら親に「あなたが心配だから」と言われても、その気持ちを受け止め続けるのは誰しもつらいものです。だからこそ、親に対する不満を解消する際は、しっかりと自分の中で「意思表示」をしていきましょう。

近しい存在であればあるほどに、「自分の気持ちを察してほしい」「口に出さずともわかってほしい」という気持ちが生まれるもの。ですが、言葉にしないと、伝わるものも伝わりません。あいまいな態度を取っても、不満が解消されない以上は、きちんと言葉で伝えましょう。

「そんなことを言っても、うちの親は聞いてくれない」

「絶対に関係を修復するのは無理」

とのお話もよく聞きますが、伝え方次第で不満をうまく伝えることは可能です。

では、どうしたら親へ上手に自分の気持ちを伝えられるのでしょうか。

親に不満を抱いたからといって、「お母さん(お父さん)のそういうところが嫌い!」とストレートに感情を伝えてしまうと、関係性にはヒビが入ってしまいます。感情に任せて不満を伝えるのではなく、まずは親の話を聞き、意見を理解したうえで「わかった。お母さん(お父さん)はこう思っているんだね」と、一度相手の話を受け止めた後、「でも、私はこういうふうに考えているよ」と自分の不満を伝えていきましょう。

いったん相手の言葉をキャッチしてから、不満を伝えることで、相手からの理解を得やすくなります。

●きりかえ方(3) 親には事前相談ではなく事後報告

あとは、よほどアドバイスを仰ぎたい事柄でない限りは、親に対しては事前相談ではなく、事後報告するほうがおすすめです。

親は子どものことについては先回りをして心配をするからこそ、事前相談すると「ああしたほうがいい」「こうしたほうがいい」とアドバイスをしがちです。でも、それがトラブルの種を生むことに。いかに親子であっても、自分の人生は自分のもの。親になにからなにまで相談する必要はありません。「相談したらなにか言われそう」だという事柄は、親には「こういうことがあったよ」と、事後にやんわりと伝えるように心がけてください。

●きりかえ方(4) 子どもへの「しつけ」は感情が落ち着いているときだけ

一方で、自分自身が親の立場で子どもと接するとき、一番大切なこと。それは、理性的であることです。

「なんでそんなことができないの!」

「どうしてわかってくれないの!」

などと声を荒げて、つい叱ってしまう。このように親側が感情的になってしまった時点で、「子どもを思い通りにコントロールしたい」「自分の意思を押しつけたい」という気持ちが強く働き、しつけではなくなってしまいます。

自分が感情的なときは、子どもを叱るのはやめておきましょう。そして、子どもにやってほしいことや不満に思っていることを伝える場合は、必ず自分の気持ちが落ち着いているときにしてください。

●きりかえ方(5) 子どもを怒る前に、一度自分の状況を説明しよう

なぜ、イライラしているときや、気持ちが落ち着かないときに、子どもを怒ってはいけないのか。その理由は、子どもに感情をぶつけてしまうと、そのまま感情が打ち返されてきて、必ずケンカになるからです。この悪循環が続くと、親側も「どうせケンカになるから」と構えてしまい、自分の不満を子どもに伝えず、どんどん不満だけが募っていくという負のスパイラルが生まれてしまいます。

そうした事態を避けるため、できれば子どもを叱るのは感情が落ち着いたときにしてください。また、怒りが高まって子どもと話せないときは、きちんと自分の状況を説明しましょう。

「いま、体調が悪くて感情的になっているから、あなたの言葉が聞けないのでちょっと待っててくれる?」

「いま、お母さんは、お父さんとケンカしてすごくイライラしているから、10分待ってくれる?」

などと、具体的に言葉で伝えましょう。

●きりかえ方(6) 「こんな小さな子に言ってもわからない」はNG

うまくおしゃべりができない小さい子が相手であっても、こうした対話はとても効果的です。「まだそんな言葉もわからないうちに言っても、わからないのでは?」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。

泣きやまない赤ちゃんに「いまからミルクをつくってくるから、待っていてね」と声をかけ続ければ、赤ちゃんは次第に意味を理解していきます。どんなに小さい子であっても、ひとりの人間として扱って、対話を繰り返していけば、意思疎通は可能だと私は思っています。

だから、あなたがイライラしたときは、相手がどんなに小さな子どもであっても、「どんな理由でイライラしているのか」を伝えることが肝心です。

 

●きりかえ方(7) 子どもを叱るときはルールを明確にして

また、自分自身が子どもを叱ったり、不満を伝えたりする際は、「やってはいけないことのルール」「やるべきことのルール」などを明確にしましょう。

たとえば、「ゲームをやりすぎ! もうやめなさい!」と抽象的に怒っても、子どもはどのくらいが「やりすぎ」なのかがわかりません。

「最近、ゲームばっかりやっているみたいだから、ゲームをやる時間は一日1時間にしようね」とルール化しましょう。

同様に「ちっとも勉強しないじゃない!」と怒るのではなく、「これから毎日、プリントを10枚やろうか」と具体的な目標値を伝えてみるのです。

「だらしない恰好じゃなくて、ちゃんとして!」と伝えても、“ちゃんとした服装”が子どもはよくわかっていないのかもしれません。

「靴下をちゃんとはこうね」「シャツのボタンをしめようね」など、具体的に伝えることで子どもはきちんと理解します。

「子どもだから言っても無駄」と放棄するのではなく、ぜひ対話を続けてくださいね。