埼玉県でひとり暮らしをしている溝井喜久子さんは、87歳のインフルエンサーです。ツイッターで10万人とつながり、毎日の食事を写真に撮ったり、思うことをつぶやいたり。まだ働く女性が少ない時代に、大学を卒業して高校教師に。結婚後はずっと専業主婦として暮らし、二人の息子を育てました。現在はデジタルを駆使した刺激的な日々を送っています。いつまでも好奇心をなくさないその暮らしに迫ります。

87歳インフルエンサーの暮らしがここまで支持されるわけ

溝井さんがコンピュータを始めたのは、ご主人が仕事をリタイアした後のこと。夫婦で株の投資を始めた時、お金の出納をわかりやすく管理したくて初めてのパソコンを買いました。

「若いころは高校の理科の教師。結婚後、一時期は夫の勤め先で事務の仕事などもしましたが、私たちの頃にはパソコンなんてありません。だから初めてのパソコンも息子頼み。初期設定も全部やってもらって、エクセルを勉強したんです」

インターネットに接続できるようになってからは、おかずのレシピを探すなど、柔軟になじんでいったと言います。

●ツイッターを始めて半年でフォロワー5000人に

「そのうちSNSが盛んになってね。お金もかからないし管理も手軽。ちょうど大学時代の友人がイベントの宣伝をしたいと相談を受けていたので、さっそくツイッターを始めてみたんです」

それが2010年のこと。始めて1年ほど経った頃、東日本大震災が起きました。息子さんが仙台に暮らしていたので、安否確認に非常に役立ったと言います。

「始めて半年ほどで、フォロワーは5000人ほどになりました。ツイッターをやってる70代なんて珍しかったんでしょうね。電通がシニアアドバイザーになってほしい、って言ってきたりして」

しかし、SNSで社会とつながりを持ったことで、溝井さんのデジタルライフは飛躍的に進歩しました。

「パソコンでわからないことや参考になりそうな本など、みなさんが教えてくださる。夫に先立たれて一人になっても、誰かとつながっていられるんです」

●車の免許がないから、買い物はネット頼みです

溝井さんは、三度の食事を画像に撮ってツイッターにアップしています。

「息子ふたりのうち、一人は隣町に。もう一人は仙台に。だからこれが私の生存確認でもあります。お料理? 主婦業は60年以上やっているのよ。どうってことありません」

家族間の確認のつもりだった料理写真も、今ではファンがいます。

「会ったこともない人だけれど、溝井さん、今日は夕飯遅いんですね、とか。気にかけてくださる方がいるの。どうやってつくるんですか? とか。楽しいですよ」

どの写真も、野菜にお肉や魚、汁物までそろっておいしそう! どれも手早くつくるとおっしゃいますが、手の込んだお料理が並ぶ日もあります。

「その秘密は通販です(笑)。自分ひとりで煮込みハンバーグやら豚の角煮やらって、大変でしょ? 今はお刺身だって通販で買える時代。名店の味がレトルトで届くの。これを使わない手はありませんよ」

おいしそうなお総菜を見つけたら試してみて、気に入ったらリピートします。運転免許を持っていないので、スーパーの買い物はごくたまに。野菜や各種調味料、〇〇の素、などを買って、キャベツや大根などの大きな野菜はすぐに刻んで冷凍。使いたい分だけ取り出せて便利です。かさばる買い物は、時折様子を見に来る息子さんにお願いすることも。

「世の中には便利なものがいっぱい。上手に使いこなさなきゃ損ですよ」

●各部屋にタブレットを1台常備

溝井さんのお宅にうかがって、まず驚くのがタブレットの数。各部屋に1台ずつあります。
そのほかにも、読書用のキンドル(アマゾン)や、3年前からはアレクサ(スマートスピーカー)も使っています。そしていつも座る席のそばには、コンピューター関連の本がどっさり。

「最近はコロナでなかなかお友達とも会えないけれど、ZOOMができるから便利です。やっと少し落ち着いてきたから、先日はうちで女子会をやったのよ」

公民館やネットで知り合った、市内近郊に住む若い女性たちとの交流も楽しみの一つ。みんなで料理を持ち寄って、溝井さんのお宅で女子会を開くのだといいます。

「みなさんそれぞれ仕事を持った、自立した女性たち。美容師さんだったり、マッサージ師だったり、いろんな立場・職業の人と話をするのは刺激的でいいですよ。なにより情報がアップデートされますから。彼女たちとの間に年齢の差なんてまったく感じません。それもこれも、いつもネットにつながって社会を眺めているからでしょうね」

溝井さん宅の広い庭には、丹精込めてお世話している植物が次々に花をつけます。小さな池にはアマゾンで買ったメダカが泳いでいます。

「根っからの新しもの好きなんでしょうね。迷ってるヒマがあったらやってみたらいいの。合わないと思ったらやめればいいんだし、やってみなきゃ判断もつかないでしょう。メールができるだけでも違いますよ。家から出なくても世の中のことがわかる、誰かとつながって意見の交換ができる。それだけで、社会の一員でいられるんです」