古代ギリシャで使用されていたとされる鎧(よろい)の一種「リノソラックス」は、紀元前8世紀ごろから存在が確認されているものの、現存する標本はほとんど残っていません。このリノソラックスに魅入られた学生たちがリノソラックスを完璧に再現しようとした時の苦労を、担当教授の妻が語りました。

Unraveling the linothorax mystery, or how linen armor came to dominate our lives | Johns Hopkins University Press Blog

https://jhupress.wordpress.com/2013/04/24/unraveling-the-linothorax-mystery-or-how-linen-armor-came-to-dominate-our-lives/

ウィスコンシン大学グリーンベイ校で教べんを執るグレゴリー・アルドレーテ氏の教え子の一人、スコット・バーテル氏は、ポンペイの遺跡で見つかったモザイク画「アレクサンダー・モザイク」に着目。そこに描かれたアレキサンダー大王が着用していたリノソラックスのレプリカを作成しようと決めたとのこと。

リノソラックスは少なくとも紀元前8世紀からよく使われていた鎧で、主にリネン(亜麻布)から作られていたそうですが、現存する標本はほとんどなく、注目もされてこなかったとのこと。そこでアルドレーテ氏らは彫刻やレリーフ、墓などに描かれたリノソラックスの姿を徹底的に研究し、リノソラックスの構造や戦場での有効性を明らかにするために、完璧な復元に取り組みました。



by Jori Avlis

アルドレーテ氏らは世界中の博物館に所蔵されているギリシア壷(つぼ)が記録されたカタログ「Corpus Vasorum Antiquorum」を図書館で探しだし、数百冊を何時間もかけて調査。アルドレーテ氏の妻で共同研究者のアリシア氏は「調べ始めて気づいたのですが、リノソラックスについての文献は意外と身近な所にありました」と語っています。

リノソラックスを実際に作るに当たり、最初はファッションデザイナーのように紙や厚紙で何度もパターンを作り、最適なデザインに仕上げていったとのこと。さらにアルドレーテ氏らは素材にもこだわり、古代地中海で使われていた手紡ぎ・手織りのリネンを手に入れようとしました。現代のリネンは機械生産が主流で、手織りと称しているリネンでも機械で収穫したものを化学薬品で処理するなど、現代的な方法で加工していることが多かったとのこと。アルドレーテ氏らは懸命な調査の結果、ウィスコンシン州フォンドゥラックで実際に亜麻を栽培・収穫し、手で紡ぎリネンを織っている女性を探し出しました。

素材に加え、製作工程を完璧にする試みも行われました。アルドレーテ氏らは、古代の人々は麻布の各層を適切な形に切ってから接着していたのだろうということを突き止め、パテなどの道具にもこだわり、古代によく使用されたウサギの皮から作られるのりで接着していったとのこと。

加工に成功したリノソラックスの耐久性は抜群で、バーテル氏ら学生たちがメイスや剣、オノなどで切りつけた結果、古代の戦場で問題なく通用しただろうことを確信したとアリシア氏は語っています。おまけにアルドレーテ氏はバーテル氏にリノソラックスを着せて実際に矢を放ってみたとのことですが、皮膚に突き刺さらずに済んだそうです。



アリシア氏は「私たちの研究の目的は、過去にさかのぼって千年以上前のものを復元し、それを使ったときの様子を体験することでした。その過程で、私たちは思いがけない体験をすることができました」と語りました。