『ミニオンズ フィーバー』が世界で大ヒットしている(©2021 Universal Pictures and Illumination Entertainment. All Rights Reserved.)

黄色のミニ軍団が、世界を魅了してやまない。

7月15日に日本で公開された『ミニオンズ フィーバー』は、公開が2週間先行した北米で1億2300万ドルを売り上げ、2011年の『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』を破り、独立記念日の最高記録を打ち立てた。ほかの国でも絶好調で、全世界興行収入は早くも4億ドルに上る。

今作は、2010年の『怪盗グルーの月泥棒』から始まったシリーズの最新作。公開前からソーシャルメディアで相当な盛り上がりを見せ、アメリカの公開初週末にはコスプレ姿で映画館に現れる若者たちの姿もあった。

この大ヒットは、つい最近、ピクサーの『バズ・ライトイヤー』が振るわなかったことに対してなされた「スピンオフやプリクエル(物語の前編)は観客を混乱させて難しいのかもしれない」という分析を、あっさりと覆した(『バズ・ライトイヤー』は、『トイ・ストーリー』に出てくる少年アンディが見て気に入った映画という設定。その映画の主人公バズ・ライトイヤーのおもちゃが作られ、アンディもそれを持っていた。そのおもちゃが『トイ・ストーリー』に登場するバズである)。

実はあまり予算をかけていない

『ミニオンズ フィーバー』は、怪盗グルーシリーズのスピンオフで、しかもプリクエルだ。結局のところ、単純に面白そうだと思えば、人は見に行くということである。

表面的な数字でも十分感心させられるが、利益率を見るともっとすごい。先に挙げた『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』には、1億9500万ドルの制作予算がかけられていた。『バズ・ライトイヤー』の正確な予算はわからないが、最近のピクサー映画『トイ・ストーリー4』『インクレディブル・ファミリー』と同じ2億ドル前後と思われる。

一方で、『ミニオンズ フィーバー』の予算は、たった8000万ドルなのだ。『怪盗グルーの月泥棒』の6900万ドルから、あまり変わっていない。当たったからと自信を持ち、次はもっとヒットさせてやろうと派手にお金を使うことをしてきていないのである。

これこそ、このシリーズを制作するイルミネーション・エンタテインメントの大きな特徴であり、勝因でもある。そのビジネスプランを掲げ、ハリウッドで最もパワーを持つ人物のひとりとなったのが、このスタジオの創設者であるクリス・メレダンドリ(63)である。

メレダンドリは、ニューヨーク生まれ。『フットルース』でエグゼクティブ・プロデューサーのアシスタントを務めて業界入りし、1993年の『クール・ランニング』のプロデューサーを経て20世紀フォックスに入社した。

だが、彼が制作を手がけたアニメーション映画『タイタンA.E.』(2000)は、大型予算を組んだにもかかわらず大失敗。痛い思いをさせられるも、挽回のチャンスはすぐにやってくる。

フォックスが買収したブルー・スカイ・スタジオのトップを任されると、メレダンドリは、『アイス・エイジ』(2002)をはじめとする数々の映画を成功させていったのだ。

これまでに5本作られた『アイス・エイジ』は全世界で32億ドル以上を売り上げた、最も高い人気を持つアニメーションシリーズのひとつである。『アイス・エイジ』1作目の制作費は6500万ドル、世界興収は3億8600万ドル。コストを抑えつつ、人々が喜ぶものを作るというメレダンドリの手法は、ここから始まったのだ。

マネジメント層を極力減らす組織作り

そして2007年、彼は20世紀フォックス・アニメーションのプレジデントを辞任し、イルミネーション・エンタテインメントを立ち上げる。アニメーションで後れを取っていたユニバーサルとの共同創設で、制作費はユニバーサルが出し、作品もユニバーサルが所有するが、メレダンドリには興行収入の一部が支払われるという契約だ。そこから生み出された第1弾が、『怪盗グルーの月泥棒』である。

イルミネーション・エンタテインメントはこれまでに『怪盗グルーの月泥棒』の続編2本、スピンオフである『ミニオンズ』のほか、『ロラックスおじさんの秘密の種』『ペット』『SING/シング』などを制作してきた。

『SING/シング』(2016)と『ペット』(2016)の制作費はいずれも7500万ドルで、世界興収はそれぞれ6億3400万ドルと8億7500万ドル。制作費を抑えて良い映画を作るコツは「マネジメントの層を極力減らし、明確な決断をして、制作にかける時間を減らす」ことだと、メレダンドリは2011年、『ニューヨーク・タイムズ』に語っている。

また、ディズニーやピクサーはすべての作業を自分たちのスタジオで行うのに対し、イルミネーションはアニメーションの作業をアウトソーシングしている。

声優にお金をかけすぎないのも重要だ。とりわけジェフリー・カッツェンバーグのドリームワークス・アニメーションは、大物スターを起用することにこだわり、2004年の『シュレック2』ではマイク・マイヤーズ、エディ・マーフィ、キャメロン・ディアスにそれぞれ1000万ドルものギャラを払った。

だが、そんなドリームワークスは、競争が激化する中で生き延びることができず、2016年、ユニバーサルに買収されることに。ユニバーサルはメレダンドリに両方のスタジオのトップを務めてもらうことを希望するも、本人は、ドリームワークスに関してはコンサルタントにとどまると決意した。

そんな状況下のドリームワークスで、今、『シュレック』の再展開プロジェクトが進められている。過去の『シュレック』には1億6000万ドルが使われていたが、その半分の予算で作られるであろう映画がどう見えるのか、楽しみだ。

長年かけて任天堂と信頼関係を構築

また、来年は、メレダンドリと「マリオ」の生みの親である宮本茂が共同プロデュースするタイトル未定のスーパーマリオの映画が公開される。任天堂は、この映画の後も映像分野でアドバイスを仰ぐべく、昨年、メレダンドリを外部の役員として役員会に招き入れた。

宮本は、恒例の株主総会で、「『スーパーマリオ』の映画のために、クリスとは5年仕事をしてきました。その経験を通じて、クリスは任天堂の視点をしっかり理解してくれたと思います。海外で制作の仕事をする人にとって、任天堂の独自の考え方を理解するのは難しいと思いますが、なぜ任天堂がキャラクターやビジュアルのコンテンツを作るのかを、クリスはわかってくれています」と述べている。

メレダンドリの力で、マリオやほかの任天堂のキャラクターにも新たなブームが訪れるだろうか。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)