50代、人との関わりでわかった大切なこと。「お願い」と頼めなかった本当の理由
若い頃には気づかなかったけれど、年齢を重ねることで「そういうことだったのか!」と、「はたとわかる」ことはたくさんあります。そんな内容を綴った編集者・ライターの一田憲子さんのエッセイ『もっと早く言ってよ。50代の私から20代の私に伝えたいこと』は、若い人だけではなくESSE読者世代も共感できるお話が満載。ここでは、一田さんが年を重ねて気づいた、人との関わり方のヒントをご紹介します。
誰かに頼むことは、「私にはできない」と降参できるということ
[20代の一田さんの悩み]「これ、お願い」と誰かに頼むことができない。
[50代の一田さんが伝えたいこと]「やって」と言うのは、「私にはできない」と降参できるということ。
●仕事も家事もすべて抱え込んでくたびれ果ててしまう
私は人に「お願い!」と手渡すことが本当に苦手です。優等生体質だから、「自分にできることを人に頼むなんて、ダメなんじゃないか?」「まずは自分で努力してみてから、頼まないといけないんじゃないか?」「あの人も忙しいのに、迷惑なんじゃないか?」って、つい考えてしまう…。
仕事では、一緒に働いているスタッフに「私がこれをやるから、あなたはあれをやって」となかなか言えず、すべて自分で抱え込んでくたびれ果ててしまう。家では、仕事から帰ってきて夕飯の支度に取りかかる時に、テレビを見ている夫に「ねえ、手伝って」と言えない。
「私がこんなに疲れているのに、どうして手伝ってくれないの?」と心の中ではふつふつと思っているのに「それぐらい察してよ!」と、言わなくても手伝ってくれることを期待し、そんなことは起こるはずもなくがっかりする。「できない〜」「やって〜」とかわいく甘えることが苦手なんだよねえ。
●50代になってわかった、「お願い」と言えない理由
でもね、私はこの歳になって、どうして「お願い」と言えないのかがわかってきました。
それは、無意識に自分が相手より「下」に降りたくないから。
「お願い」と言うことは、自分が「できない」と認めることです。両手を上げて降参して「だから助けて」と頼むこと。そして、「やってもらう」ということは、相手に「借り」を作ることでもあります。こっそりプライドが高い私は、そんな自分が許せなかったのかもしれないなあ。
どうやったら、そんなプライドから抜け出せるのか…。それは、「お願い」って言ってみるしかないのだと思います。私は、数年前から少しずつ仕事を後輩たちにお願いするようになりました。インタビューの文字起こしだったり、雑誌に掲載する商品の許可取りだったり。
●「自分の欲しい形」をちゃんと伝えることが大事
以前まで「自分でやらなくちゃ」と思っていたことを、「やってくれる?」と手渡してみる。そうすると、ものすご〜くラクチンになってびっくり! もちろん頼んでも、最初から完璧にやってくれるわけじゃありません。そんな時は「次は、もう少しこうやってくれたら嬉しいな」と「自分の欲しい形」をちゃんと伝えることが大事なんだよね。
すると、相手のスキルがだんだん上がって、数か月後には完璧な形で手渡してくれて感動しました。お願いする時のコツは「それが得意そうな人」に頼むこと。相手も楽しんでやってくれなくちゃ長続きしないからね。
夫には「ねえ、今日はコロッケだからキャベツの千切りやって〜」というふうに「具体的に」頼むのがいいとわかってきました。男性って「自分の役目」を理解すると、ちゃんとやってくれるんだよね。ずっと「察してよ!」とイライラしてきたけれど、それより「これをやってほしい」ときちんと言葉にした方がずっと伝わりやすいんだよね。
●大切なのは、人間はみんな不完全な存在なんだと認めること
「お願いする」ラクチンさを味わったら、きっと病みつきになるはず。また大変なことが起こったら、あたりを見渡して「これ、頼める人いないかなあ」とキョロキョロしたくなります。それは「私にはできない」と降参するラクチンさでもあります。
優等生体質の人って、今抱えていることすべてを、自分で完璧にやりこなしたいって思いがちなんだよね。でもさ、「これはできるけど、あれはできない」って言ったっていいんだよ! そして「あれはできない」と言葉に出してみたら、きっとすごく自分がラクになるはず。
これって、人間はみんな不完全な存在なんだと認めることでもあると思うんだよね。私も不完全だし、あなたも不完全。だから私の欠けているところはあなたにお願いし、あなたの欠けているところは私がやる…。そうやって、みんなでハッピーになっていけばいい。私もこれから、たくさん「降参」したいと思っています。
自分から動くことは、未来を変えるいちばん手軽な方法
[20代の一田さんの悩み]誰かに「会いたい」って、なかなか言えない。
[50代の一田さんが伝えたいこと]自分から動くって、未来を変えるいちばん手軽な方法なのかも。
●誰かを誘うことが苦手だった自分
私は、「ご飯を一緒に食べに行かない?」「あの展示会に一緒に行かない?」といったふうに誰かを誘うことが苦手です。「あの人と話してみたいなあ」と思っても、「向こうから誘ってくれればいいのになあ」と思いながら、月日が過ぎていく…。そんな繰り返しだったんだよね。
そんなある日、吉祥寺にあるカフェ「コロモチャヤ」の中臣美香さんからFacebookのメッセンジャーで連絡をもらいました。前の年に出産したばかりの美香さん。「お散歩でイチダさんちの近くまで行くから、もしお時間あったら、遊びに行かせていただいていいですか?」って。
「どうそ、どうぞ〜!」と返事を打ちながら、あれ〜? 美香さんってこんなキャラだったかな? と不思議に思いました。しっかり者だけど、自分から誰かに会いに行くというタイプではなく、どちらかといえば控えめ…。我が家のリビングで、お茶を飲みながら「珍しいねえ」と聞いてみると…。「今年の目標は、自分から行く!」なんだとか。
出産したばかりの時期、外にも出られず、部屋の中で赤ちゃんと2人きり。「自分の思い通り動けないってことが、こんなにもつらいことだと知りました」と教えてくれました。友達は、「何か手伝えることがあったら言ってね」と言ってくれるけれど、「手伝って、なんて言えないんですよね、私…」と美香さん。
そんな時、ある友達が「今からベビーちゃんに会いに行っていい?」と、鍋いっぱいに作ったスープを持って、遊びに来てくれたそう。そんな体験を経て、美香さんは「何か手伝えることがあったら……」と言うよりも、自分ができることを見つけて手伝っちゃう! とスイッチを切り替えたんだって。
●「自分から動く」ということの力
美香さんが知ったのは「自分から動く」ということの力。我が家に遊びに来てくれたのも、その延長線上だったというわけです。私も、誰かが病気になったり、忙しそうだったりした時、「何かできることがあったら」とメールをしていたことを思い出しました。あれって、単なる挨拶に過ぎなかったのかも! と深く反省。
その後しばらくして、よく一緒に仕事をしている知人のコロナウイルス陽性が判明。軽症だったものの、自宅隔離の状態になりました。しかも1人暮らしなので、さぞかし心細いだろうなあと…。そこですぐに思い出したのが美香さんとのやりとりでした。「そうだ! 今すぐ動かなくちゃ!」と、レトルトのおかゆやスープ、果物、羊羹などを段ボール箱に詰めて送りました。「わあ、私にもできたじゃん!」とちょっと嬉しくなりました。美香さんに教えてもらったおかげです。
●自分から動けば、いろいろなことが変わるかもしれない
これを機に、もしかして自分から動けば、いろいろなことが変わるのかも? と考えるようになったんだよね。今まで出会った素敵な先輩たちに「もうちょっとお話、聞きたいんですけど」って言えたら、自分ひとりでは行けなかった場所に連れていってもらえたのかも。
先輩だけじゃなく、年下でも、立場や職業が違う人でも、遠く離れた場所に暮らす人でも、これからピピッときたら会いに行ってみようか。ITリテラシーをアップするためのノウハウを教えてもらうのもいいし、私が知らない今ちまたで流行っていることに耳を傾けるのもいいかも。そんな想像をすると、なんだかワクワクしてきました。もっと早く気づいて、行動すればよかったなあ。
●小さな違いが、きっと世界を大きく変える
でも、自分から行動するには、自分に「余白」がなくちゃできないよね。若い頃、誰かに声をかけられなかったのは、怖がりで、いいかっこしいだったからと、もうひとつは、自分のことだけでアップアップだったからだろうなあ。誰かに声をかけてみるって「絶対にやらなくちゃいけないこと」じゃないでしょう? それでも、自分の心と時間と手間を使う…。もしかしたら、そんなゆとりが、50歳を過ぎた今だからこそ、持てたのかもしれません。
50代というだんだん先輩が少なくなってくるお年頃ではあるけれど、何歳になっても、素敵な誰かに会ってドキドキしたい。そして、そこから先にある「つづき」の時間を、これから楽しんでみたい。「教えてください」って言えるか、言えないか。その小さな違いが、きっと世界を大きく変える。その風景を見てみたいなあと思っています。