「私もヤングケアラーでした」叔父と伯父、祖父母の介護まで請け負って…
18歳未満であるにも関わらず、病気や障がいのある保護者や祖父母への介護など、本来なら大人が担うような重責のかかるケアを引き受けている「ヤングケアラー」の子どもたち。超高齢化社会が訪れた日本において、社会的な関心が高まっています。今回はESSE読者368人にアンケートを実施。ヤングケアラーの実情を詳しく調査しました。
想像を超えるヤングケアラーの実態。環境の異常さに気がつけない子どもたち
ヤングケアラーとはなんでしょうか。一般社団法人日本ケアラー連盟よると「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子ども」とされています。
<グラフ>ヤングケアラーの当事者は何%?(ESSEonline調べ)
<回答の内訳>
当事者だった 19人
聞いたことがある 281人
知らない 68人
厚生労働省と文部科学省が連携して、ヤングケアラーに関する調査研究の全国調査が初めて行われたのは、一昨年のこと。
しかし近年、ニュースなどで「ヤングケアラー」という言葉が多く使われ始めていることもあり、今回のアンケートではヤングケアラーという言葉の認知度が高まっていることがわかりました。
●ドラマやドキュメンタリーでヤングケアラーの実態があらわに
「ドラマ『となりのチカラ』や『大豆田とわ子と三人の元夫』でヤングケアラーの男性が出ていて、いろいろ考えさせられました。不遇な境遇だと同情しそうになりますが、同情するだけでよいのだろうか…と考えます」(福岡県・42歳)
「先日、ヤングケアラーのドキュメントをテレビで見ました。3組に密着していたのですが、うち2組はきょうだいがいて大変ながらもときに笑顔が見られたのですが、ひとりっ子の男性はなんともかわいそうな人生でした。うちの娘もひとりっ子なので、心配になりました」(大阪府・42歳)
子どもが家事や家族のお世話を手伝うこと自体は悪いことではありません。しかし「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちのリアルな生活は、私たちの想像を超えるものばかり。
だれかのために自分の人生を犠牲にし、子どもらしい生活を送れないばかりか、教育の機会まで逃してしまい、その後の人生の歯車が大きく狂っていってしまう、そんな切ないことが実際に起こっているのです。ドラマやドキュメンタリー番組をとおしてヤングケアラーの実態を知り、あまりの過酷さに驚いた人も多い様子でした。
●子どもが幼いほど、家庭内の問題が見えにくい
「当事者はなかなか声をあげることが難しいのではないでしょうか。行政や政治で支援するしかないかなと思います」(京都府・42歳)
当事者である子ども自身が幼い場合、そもそも自分の置かれている環境の異常さに気がつかず、必死でがんばってしまうケースがあります。このような場合、周りの大人が気がついてつないであげない限り、支援の窓口へたどり着くこと自体のハードルがかなり高まりますよね。
●今になって思えば、あの子はヤングケアラーだった
「6年生のときにクラスに転入してきた女の子は、そうだったんだなと今になって思います。母子家庭で、お母さんがアルコール依存症のような感じで、その子が妹の面倒を見ていました。クラスで浮いていて、担任も避けているような感じでした。今思うと大人がどうしようもないですね」(兵庫県・45歳)
お手伝いの範囲を完全に超えていたとしても、家庭内のデリケートな話は、なかなか表面化しにくいという側面もあります。
●コロナ禍でさらに孤立感が深まる恐れ
「15歳の子が働いていました。お姉ちゃんが重度の障がいをもっており、お母さんの経営していたお店がコロナで閉店したそう。10代で介護と仕事の負担を背負っていて…」(愛知県・40歳)
「頼れる大人がいないから、逃げる前にそうなってしまう。なったら今度はだれに、どこに相談すべきかわからないし、言える場所もない。知られたくない気持ちもあると思う。そうしてどんどん孤立してしまう。ホットラインなどあればCMでどんどん流せばいいのに、と思います」(北海道・37歳)
大人でもいざ介護となったらかなりの労力を費やすほど、行政の手続きは煩雑です。コロナ禍で物理的に人と人との距離が遠くなっている昨今、いちばん弱い立場の子どもたちが、家庭内の問題を抱え込んでしまったり、孤立化してしまう可能性が懸念されますね。
癒えない心の傷を抱えるヤングケアラーだった人たち
「周りの子は親に甘えているのに、自分は介護をしていてつらかったです」(富山県・44歳)
ここからは、実際にヤングケアラーだった子ども時代を過ごした人たちの体験談をご紹介します。
●病気の母を支えた学生時代。卒業後も給料を全額母に…
「中学生で母子家庭となり、その後、母がてんかんに。学生の頃から、食事づくりはだれにも教わらないまま私がつくり始め、大学卒業後も、給料は毎月ほぼすべて母に入れました」(千葉県・39歳)
現在、この方の母親は認知症になってしまったそう。
「私がお金を入れた事も大して覚えていません。私は報われない。優しいだけでは損をするなと切なくなります」
●アルコール依存症で無職の父が道端で寝てしまい…
「父は、私が物心ついたときに既に働いていませんでした。アルコール依存症で会社を解雇になっていたからです。父親に対し、私はとくに直接的にサポートやケアをしたわけではありません。けれど、父親が父親として機能していないので、妹の世話をしたり、進学が難しいので学生の頃から早朝バイトをしていました。
幼少時、外出先で父親が道ばたで寝てしまい、見知らぬ土地で幼い妹を連れて、なんとか帰宅したことはいまだに忘れません」(神奈川県・37歳)
親が精神的な疾患を抱えている場合、支援が必要であったとしても家の外にいる大人からはその状況がさらにわかりにくいという難しさがあります。
この方も「私のケースは軽いので、ヤングケアラーには当てはまらない気がします。でも私みたいなプチヤングケアラーも多いのではないでしょうか。そういう人たちの苦労も多少報われたりするればいいです」と今回のアンケートに詳しく回答してくださいました。
●中学生が弟の保護者会に出席…。高校時代は親族の介護も
「実母が親離れできていない人で、子どもよりも親を優先していました。がんで入院した父(私から見れば祖父)のために病院や実家へ行ったまま、家に戻らないこともしばしば。父も仕事から帰ってこず、夜の10時近くまで小学生の私が3歳下の弟の面倒をいつも1人でみていた状態でした」(東京都・51歳)
この方は、中学生時代に体調不良を訴える母親に変わって、弟の保護者会などの行事にまで行っていたそう。「叔父と伯父の面倒も高校から大学卒業までみていて、大学卒業後は祖父母の介護まで請け負うことに…。私の若い時代は本当に苦労の連続でした」と言います。
「あまりに我慢が続いた人生だったので、大人になってからも我慢をすることが当たり前となって、子どもをもつタイミングまで逃してしまいました。もっと、ワガママに生きてみたかったです。50歳を過ぎた今から、本当に自分の人生を謳歌しようと思っていたのですが、原因不明の病から目が見えにくくなってしまった上にコロナ禍もあり、人生はままならぬものだなあ、と実感する今日この頃です」
●体力も精神力も時間も削られる介護。ヤングケアラーたちのメンタルケア
「いとこはたくさんいるのになぜか私だけ通いで認知症の祖母のお世話をしていました。いろんなことを背負い込み抱え込みながら、自分ならできると言い聞かせていました」(沖縄県・41歳)
「同居の祖母の介護をしていた当時、精神的にきつかったです。大変な母を間近で見ていたので、それを思えば自分もやらねばと思いました。それで、きつくあたってしまったこともあり、自分に後悔が今でもあります。当時の話になると、母も私も、泣けてきます。
そのときどきでベストと思ってやってきたことが、あとから考えると間違っていたこともありました。どこにも思いを吐き出せなかったのが、しんどかったです」(神奈川県・47歳)
「『私がやらなければいけない』という気持ちが強く、就職を断念しました。しかし、介護しながらの生活がしんどくなり、『やりたいことをできなかった』という後悔がきてしまって。結局、介護からも逃げるようになってしまい、その行動を今でも悔いています。そのときどうすればよかったのか、いまだにクリアできていません」(埼玉県・37歳)
「だれにも相談できず、頼れないので自分がすることが当たり前だと思っていた。今になってつらさがよみがえり、まだ癒やせていません」(会社員・47歳)
大人であっても突然の介護に直面したら、肉体も精神もかなり疲弊し、自分の時間も削られます。自らが子どもだった場合、勉強の時間が削られ、思い描いた進路をあきらめなければならなくなってしまうかもしれません。人生の見通しが立たない不安や恐怖感が子どもに与えるメンタルケアについても、もっと手厚いサポートが必要です。
●介護問題は行政の担当者の当たり外れがある!?
「致し方ない事情で、ほんの一時期だけヤングケアラーだったときがあります。家族やお医者さんは協力的でしたが、担当のケアマネージャーさんに理不尽に説教をされたり、気の狂ったように何度も何度も電話をかけてこらてたりしました。ケアマネージャーさん自身はまったく協力的でもなんでもないのに、私の自由も人権もなにもないような言動を何度もされ、本当に気が滅入りました」(青森県・28歳)
ヤングケアラーになっている状態を行政につなげられたとしても、実際に担当する地域包括支援センターの担当者や病院にいるケアマネージャーの対応によっては、子どもたちがさらに苦しい思いをさせられるケースがあるようです。
この方は「行政の窓口にいるのがどのような気質の人かにもよると思いますが、あれでは続くものも続かない」と思ったそう。
「介護でもなんでも、プロに頼むのがいちばんで、互いに幸せだと思います。私は、身内であれなんであれ介護はもう2度としたくないですし、私自身も身内や知人に介護はされたくないです」
●ヤングケアラーの問題、どうしたらいいと思いますか?
「周りに言い出せない子どもの方が多いと思う。病気の大人だけでなく、その子どもを支えるシステムも必要だと思うし。相談場所を提示してあげてほしい」(岡山県・40歳)
「子どもは無意識にいろいろな責任を抱え込んで無理してしまうので、ヤングケアラーに対してのカウンセリングやなにかしらのフォローが必要だと思います」(埼玉県・37歳)
「行政など頼ってほしいという意見もありますが、いざ頼りたいときに頼れないシステムであることがほとんどなので、『今この瞬間に助けてほしい』に手の届く支援が増えたらと思います」(岐阜県・30歳)
●見過ごされてきたヤングケアラーたちの問題
「言葉は新しいけど、状態としては昔からずっとあったことなのだと思います。これは普通ではないと分からない、分かっていても周りに言えない、どうすればいいかわからない子どもたちが主体だからこそ、問題の根が深いですよね。虐待と同じく、代々繰り返してしまうケースもあると思う。こういう事実があることを広く知って、地域の目、周りの大人の目が大切だと思う反面、実際に知ったとしてどうすればいいのか、どこに相談すればいいのか等まだまだ理解不足を感じます」(神奈川県・35歳)
ヤングケアラーの問題は、悲惨な事件や事故にも繋がりかねません。そうした事態を防ぐためには、まずヤングケアラーを早期に発見する必要がありそうです。身近な大人が支援や相談の窓口を知っておくことが重要ですね。そして、ヤングケアラーの実情にもっと寄り添った強力なサポート体制の構築が早急に整うことを願ってやみません。