月12万円で暮らす新婚夫婦。つらかった節約が楽しめるようになった理由
食品や日用品を始め、ものの値段がどんどん上がっている今、節約を意識する機会も増えていると思います。でも、「節約=つらいもの」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?「節約を始めたことで、自分はなにが好きでなにを大事にしたいかを真剣に考えるようになりました」と話すのは、『低収入新婚夫婦の月12万円生活』(オーバーラップ刊)の著者で漫画家のいしいまきさん。ここでは、そんないしいさんに節約を楽しむ考え方のコツを教えてもらいました。
節約をしたら、本当に大切にしたいものがわかった
2020年に結婚したことで、暮らしが大きく変わったといういしいさん。
「独身時代の私は、雑誌の節約テクを真似してみては、ストレスばかりが溜まり、頓挫する日々。今思えば、その時々で目先の楽しさに意識が向いていて、節約の優先順位も低かったように思います」(いしいさん・以下同)
●夫が楽しそうに節約している様子を見て…
それが節約上手な夫と結婚したことで、意識が大きく変わり「節約=苦しいこと」ではなく「節約=面白いこと」に格上げしたと言います。
「こう思えるようになったのは、夫のおかげだと思います。夫は節約が大の得意。たとえば日常生活で不便を感じたり、ものが壊れたりしたら、ものを買って解決するのではなく、YouTubeを参考にDIYで収納グッズをつくるなり修理するなりして、買わずに解決するんです。先日はキッチンに収納棚をつくっていましたね。
しかも手間暇かけて節約することを心の底から面白がっている。その様子を見ていると、『節約って、ツライものじゃなく、楽しめるものなんだ』と目からうろこでした。しかもお金も貯まる。だったら私もやってみようかな、という気になったんです」
節約に限らず、身近な人が楽しそうに取り組んでいることは、やってみたくなるもの。いしいさんも夫の影響で、最近ではこんな節約にハマっているそう。
「いらない紙袋を使ってブックカバーやしおりをつくったり、YouTubeを見ながらお菓子をつくったり。なにかをつくるまでの過程も楽しいし、できたものを見て達成感を得られるよろこびもある。夫が“DIY節約”の道をきわめる気持ちがわかりました(笑)」
●将来のために健康にはお金を使うけど、「幸せそう」なことには使わない
また、いしいさんの夫の節約法は、すべてを切りつめるのではなく、健康に関することにはお金を使うなどメリハリがあったことも、無理なく続けられた理由の一つに。
「たとえば、体調を崩しては本末転倒だからと、冷房や暖房などの水道光熱費はケチらない。お風呂も毎日浴槽に湯を張り、1日の疲れを取っています。食材も安いからといって炭水化物が多めの主食ばかり食べるのではなく、野菜や魚肉をバランスよく取り入れたり、プロテインを買ったり。靴も履きやすさを考慮してつくられたものを買うし、定期健診もしっかり受けていますね。私も、毎日湯舟に浸かるようになって、健康的になりました。これが結婚後いちばん変わったことかもしれません」
使えるお金が限られていると、なににお金を使うか優先順位が限られてきます。いしいさんの夫の場合、健康維持が第一優先でした。それを受け、いしいさんも優先順位を見直すようになったと言います。
「自分はなにが好きでなにを大事にしたいかを考えるようになり、目先のことではなく10年20年先の人生を念頭にした節約を意識するようになりました。そうすると、世間的に『幸せそう』なことにお金を使うことや、人と比べてどうこうといったことへの優先順位が低くなっていったんです。要は、見栄のためにお金を使うことがなくなった。
たとえば、これまではスーパーで割引シールがついた商品をレジに持って行くとき、それだけ買うと恥ずかしいので、必要もないのにほかの定額商品もあわせて買っていました。それが今は、割引シールのついたおまんじゅう1個だけを堂々と買えるようになりました(笑)」
●ある習慣で、人と比べて落ち込むことが激減
とはいえ、SNSを開くと否応なく友人知人の近況が飛び込み、つい自分と比較したりうらやんだりすることもあったといいます。
「独身時代から、容姿や暮らしぶり、それに年収、仕事での成果などなど、あらゆることで人と比べてしまう自分がいました。そこでもう、SNSは基本的に見ないようにしたんです。見るとしても、自分の気持ちが落ち着いているときだけ、まとめて友人の近況を確認する程度に。これだけでもストレスは激減しましたね」
SNS閲覧の代わりに日課にしたのが、「よかったこと日記」。
「ある日、知人から『日記に今日一日のなかでよかったことや感謝することを書いてから寝ると、人と比べることがなくなるよ』という話を聞いて、ものは試しに始めてみたんです。すると、意外にも人の情報に振り回されなくなりました。
たぶん、今日なにがあったかを振り返るようになって、自分のことだけを考える時間が増えたからでしょうね。なにが楽しかったかな、うれしかったかな、と。おかげで最近は心穏やかに過ごせています。友達がどこそこにランチに行ったと聞いてもうらやむ気持ちがなくなり素直に『よかったね』と思えるようになり、本当に自分自身の変化を感じました」
●節約とは、穏やかな時間をつくるために欠かせないもの
いしいさんにとって節約とは、穏やかな時間をつくるために欠かせないものだといいます。
「私の場合収入が少ないと、心身をぼろぼろにしてでも働いて収入を増やそうとするんです。しかも稼いだ分はストレスで消費してしまう。でも節約をして支出を減らしたことで、無理して働く必要がなくなり、のんびりする時間ができました。最近では四季折々の自然の美しさや鳥のさえずりなどに風流を感じられるほど心にゆとりができ、『こういう穏やかな時間こそ幸せ』と実感しています」
そう話しながら、穏やかな笑みを見せるいしいさん。今年は拠点を東京から関西に移し、次のステージにすすんでいます。
●拠点を移してからは、新たな目標も
「関西へと拠点を移したのは、夫が東京で切り盛りしていたパン店を畳むことを決意し、東京に比べ物価が低い兵庫県の郊外で再スタートを切りたい、と提案されて。東京でまだまだがんばりたい気持ちがあった私は、正直、戸惑いもあったしなかなか気持ちの切り替えができませんでした。
でも、いざ引っ越しをしてからは、思っていた以上にたくさんのメリットを感じています。家賃は3万円以上も安くなり、さらにバイトで出かけるとき以外はほぼ山奥の家で過ごす生活は、物欲に惑わされる機会も激減。家賃も、東京では、家にいる時間が長い私が多めに払っていましたが、今の場所では『あなたの希望で越してきたんだから』と提案し、夫の方が多めに払うことに。夫婦別財布制ゆえに私の財布からは支出が減りました(笑)。
今は浮いた分を貯蓄に回せるようになって、心にゆとりが生まれました。現在の目標は、節約を続けながら健康も維持し、家を購入すること。これから先もいろいろな課題が出てくるかもしれませんが、節約自体、気づけば生活の一部になっていた、というくらい自然にできるようになればいいですね」