35歳、鏡を見るのがしんどくなった…。変化する外見を受け入れたくて「キレイにならなきゃ!」とあれこれ試した漫画家・田房永子さんがたどり着いた答えとは? ESSEの人気連載を1冊にまとめた『いつになったらキレイになるの?〜私のぐるぐる美容道〜』がいよいよ発売に。単行本に収録されている、清水ミチコさんとのスペシャル対談を一部抜粋して掲載します。

いくつになっても自分らしく生きるためのコツって?

女性芸人としてのパイオニア的存在・清水ミチコさん。エッセイの執筆や女優などお笑い以外の分野でも活躍し、ファッションセンスにも注目が集まっています。ずっと清水さんに憧れていたという著者と、年齢を重ねることやファッションについて語り合ってもらいました。

 

●夫婦も親子も「適度な距離感」が大事

田房:今日はよろしくお願いします! 私、清水さんの大ファンで。『ラジオビバリー昼ズ』も毎週聴いているので、お会いできてうれしいです!

清水:ほんと? うれしいな。私も田房さんの漫画読んだよ。

田房:清水さん、雑誌の『テレビブロス』の連載で娘さんのお話を書いてましたよね。短い文章なのに、娘さんとちゃんと距離をもって接していらっしゃるのがすごく伝わってきて。学生のときとか読みながら本当にうらやましい〜! って思っていました。

清水:これ、自慢と思われちゃうかもしれないんだけど、娘が子どもの頃に担任の先生から「どうやったら、あんないい子に育つんですか?」って言われたことがあるの。全然私と似てないんですよ。今も福祉関係の仕事をしてるし、本当にいい子だったんだなあ、って。娘を疑うなよって話だけど(笑)。夫婦げんかも親子げんかも、必ず「近い」「うざい」ってところから始まるから。適度な距離感って必要なんだよね。

田房:そうなんですよ!

清水:田房さんは、相手から距離を詰められやすいのかもね。今回の本で断食道場に行く回でもそうだったし。

田房:そうなんです。断食道場で露天風呂に入ったら浴槽のへりにおばあさんが全裸で人魚みたいなポーズで横たわってて。その状態で、湯船に浸かっている私に、「あんたは何泊ぅ!?」ってずっと話しかけてくるんです。同じ志をもった人同士だと思ってるからなのか、距離が近い(笑)。

●店員さんに「お似合いです」って言われるのが苦手

田房:私、清水さんの服装もすごく好きです。清水さんはいつも自分で服を選んでるんですか?

清水:レギュラーのテレビ番組はスタイリストさんにお願いして、今日みたいな単発の仕事は自分で。だいたい伊勢丹に行くか、ネットで買ってる。すごいなあと思うのが、今ってネットで買うと、最初から返品用の伝票がついてるんだよね。

田房:それは高級店だから?

清水:そう、高級店だから(笑)。

田房:私が前にとあるネットショップで返品したときは、「本当は返すものじゃないんだよ、あなたはわかってなさそうだから受け取るけどね」みたいなエモーショナルなメールが来ました(笑)。

清水:干渉されるなあ〜(笑)。私はデパートで買い物するのは好きなんだけど、試着したときに店員さんから「お似合いです!」って言われるのがすごくイヤなの。

田房:「私も同じの持ってます〜」「普段何着てるんですか?」みたいなやつですよね。

清水:そうそう。前にSNSで、「買うかどうか心が揺れてるときに『これ赤いセーターですよ』って、見ればわかること言われると腹が立つ」って書いたら、販売の仕事をしている人から「私たちも仕事をしてるんです」って反応が来たけど、言わない親切もあるとわかってほしい。やっぱりそれも距離感なんだよね。

田房:今回の漫画では、年齢を重ねて体型や似合うものが変わってきたときに、どうやって服を選べばいいのか、自分の見た目を受け入れるには…というのがテーマなんです。清水さんもそういう悩みってありましたか?

清水:60歳を過ぎると「この服が着たい」と思っても、服の方から「ちょっと60代は…」と断られてしょげることはあるよね。周りの人は「若すぎる」と思っても、直接は言ってくれない。自分でジャッジするしかないから、昔よりは冒険できないかもね。

田房:反対に、若い頃より似合うようになったものってありますか?

清水:そうだね、昔は赤は全然着なかったけど、今はありかな。年を取ったら、赤の方から「着てくれ」って寄ってきた(笑)。私は茶色やハイブランドを身につけると、ものによってはすごく貫禄というか、風格が出ちゃうの。だから“妖怪性”が出ないように気をつけないと。

田房:わかります! 40過ぎてから髪のパサつきがひどくて、起きたときの妖怪度高まりました(笑)。そこが若いときと違いますね。

清水:そう、妖怪性との戦い(笑)。あと、漫画家やピアニストの人でたまに、「どうしちゃったの?」っていうくらい、妙にゴージャスなドレスで現れることがあるよね。

田房:家でずっと描いてると、着たくなっちゃうのかな。

清水:「着たくなっちゃう」ってあるもんね。私もウエディングドレス着たときは、われながらこっけいだったし。

田房:着たくなっちゃったんですね(笑)。式のときはものまねとかもなしで?

清水:当たり前だよ!(笑)私はデビュー前に結婚したんだけど、義理のお母さんの希望で式を挙げて。でも、お客さんもきれいな花嫁なら見たいだろうけどさあ…。ああ、これはダメだね。ルッキズムだね。

●やりたいことを思いきりやる解放感もある

田房:服もネタもそうですけど、清水さんってバランスの取り方が上手なんだと思うんです。やりたいことを自由に楽しみながらも、ちゃんと客観性がある。私も漫画を描くときは、いつもその境界線上のポイントを探しています。やりたいことをやりすぎると、だれもついてこないから。そこも「距離感」なんですよね。

清水:わかる。あるとき、友達のピアニストがやったコンサートがすごく不評だったの。なぜかっていうと、あまりにも自分自身で感動しながら弾いていたから、お客さんが疲れちゃったんだって。自分がいいと思っても、客観性がないと迷惑なんだよね。

田房:うっとりしちゃうとダメなんですよね。「最高!」と思って描き上げると、ポカーンとされちゃう。自分にとっては当たり前で新鮮味のないことを描いたときの方が、読む人がびっくりしてくれるっていうのがあります。

清水:ただ、やりたいことを思いっきりやる解放感もあるんだよね。昔、『夢で逢えたら』っていう番組で私がやった「伊集院みどり」っていう、不細工でワガママなキャラクターがいて。今ではもうできないネタだけど、私はあれをやったとき、すっごい気持ちよかった。あれはきっと、ボディコンにロングヘアで、高級ブランドを身につけて…っていう、90年代の典型的なイケイケの美人像を壊す解放感だったと思うんだよね。自分の人生ではいい子でありたいという気持ちがあるけど、コントのなかではさらけ出せるから。

田房:清水さんはステージでも、ものまねする人に合わせていろんな衣装を着ますよね。そこで「着たくなっちゃった」を発散できる、というのもありますか?

清水:やっぱりステージだと「ネタだから」という言い訳が立つから。普段はなかなか着られない若々しい服も着られるしね。

田房:この前私、友達を呼んでDJイベントをやったんですよ。

清水:そんなことしてるの? 欲ばってるわ〜(笑)。

田房:やりたくなっちゃって(笑)。内輪だけの小さなイベントで。当日、ジージャンとデニムのホットパンツっていう、いかにもアメリカの映画に出てきそうな女の子の格好をしたんです。そのときすごく解放された感覚があって楽しかったんですよね。

清水:気持ちよかったんだ。そうね、がまんするだけじゃなくて、そうやって自分の欲求を解放するのも大事かもね。

田房:普段はできないぶん、ときどきはそういう場を用意して、「着たくなっちゃった」を楽しむのもアリですよね。今日はありがとうございました!