家がもっと好きになるシンボルツリー5種。知れば、思わず木が愛おしくなるいい話
新しく家を建てるなら、緑を身近に感じたい。そう思うなら、シンボルツリーを植えてみましょう。これまで、数多くの住まい手と一緒に庭木販売店にも足を運び、木々の選定にも立ち会ってきた一級建築士の守谷昌紀さん。自身の設計した家を事例に、5つの樹種を解説してくれました。小さな庭でも大丈夫。植物と暮らす家づくりの参考に!
ジューンベリー:花、実、紅葉と3つの楽しみが
最初の事例は、木造3階建ての都市型住宅です。この家では、シンボルツリーにジュンーンベリーを選びました。
2階にあるアウトドアリビングは、イタウバという木のルーバーで覆われています。ルーバーは無塗装とし、自然な色の変化を楽しむことにしました。
その開口部からすぐに見下ろせる位置にシンボルツリーを植えています。
2年たつとルーバーの色も落ち着き、ジューンベリーもしっかり葉をつけました。
この木はとにかくお得な木で、花、実、紅葉が楽しめるのです。
ベリーというくらいなので実がとてもおいしい。ほうっておくと鳥がどんどんついばんでいくので、その前に収穫します。
すりつぶしてジャムに。
成長が比較的ゆっくりなのも、都市型住宅向き。3拍子そろったシンボルツリーのある暮らしは、より季節が身近に感じられるはずです。
本場のクリスマスツリーから常緑のヤマボウシ:常緑を楽しむ
2つ目の事例は、閑静な住宅街に建つ都市型住宅です。
「パリのアパルトメント」というコンセプトの鉄骨3階建ての住宅で、当初はシンボルツリーにドイツトウヒを選びました。ヨーロッパトウヒとも呼ばれるモミノキの仲間で、ヨーロッパでクリスマスツリーとして使われる樹種です。
パリのアパルトメント風ではなく、本物のパリを目指しました。玄関扉は、100年前あたりに南仏で使われていたものを、アンティークショショップで購入しています。
家具や内装にもこだわっています。
夫妻と一緒に探しに行った庭木屋さんで、これぞクリスマスツリーという1本を見つけました。
そして1年目の冬、かねてからの念願がかなったのです。
ところが3年後。酷暑の夏があり耐えきれずに枯れてしまいました。フランスもドイツも、日本より北にあります。本来は森を形成している木なので、1本立ちは枯れるかもという懸念はありました。
西向きという厳しい条件もありましたが、2年が経過していたので、大丈夫だと思っていたのですが…。
非常に残念でしたが、夫妻と庭木屋さんを再訪。今度は常緑のヤマボウシを選びました。
常緑のヤマボウシは月光とも呼ばれます。
ドイツトウヒよりは強い木ではありますが、庭木屋さんのアドバイスで、足下に下草を植えました。そのことで、土の乾燥はかなり変わってくるのです。
この家にはどんな姿の木が合うか、また、どんな木を植えたいか。そこはもちろんこだわりたいポイント。しかし、環境と樹種の特徴も合わせて選定することが、やはり大切なのです。
イロハモミジ:和の家にも洋の家にもおすすめ
この事例は、密集した住宅街に建つ「元長屋」のフルリノベーションです。
これは、リノベーション前の様子。リフォーム番組からの依頼で始まった計画です。6軒長屋が切り離され、中央部だったこの家だけが残っていました。
両脇にマンションが建って日は当たらず。築74年が経過し、雨漏りもひどくなっていました。
雨漏りは屋根を架けかえて、暗さは減築して光庭を設けるという方法で解決。そして、3畳ほどの光庭には、葉が小振りなイロハモミジを植えました。
マンションの谷間にある、厳しい環境ですが元気に育っています。
小さな葉が揺れると、目で風を感じることができます。
光庭をはさみ、離れのような和室からも楽しむことができ、2倍の価値が生まれているのです。
枝がしなやかで、葉が小振りなイロハモミジは見た目以上に強い木です。紅葉も素晴らしいですが、春先新緑はとくに鮮やか。和の家にも洋の家にもおすすめです。
注意点はモミジ全般にいえることですが、木が甘いので虫がつきやすいということを知っておくとよいでしょう。
特別編:ヤマボウシ+αで、雑木林のように楽しむ
シンボルツリーといえば1本立ちをイメージしますが、雑木林のような庭も趣きがあります。
庭木が一帯となって、近隣から目線をゆるやかにふさいでくれる役割を。
郊外型の住宅は敷地が大きい場合が多いので、近隣の目線をどうするかという課題があります。
シンボルツリーとしては、中央の株立ちのヤマボウシですが、周辺にハイノキ、ソヨゴ、エゴノキ、ヤマモミジなど植え、多種多様な木々が楽しめる庭になりました。
庭の端には砂場兼家庭菜園もあります。トマトなど、比較的に気軽に育てられる野菜を育てています。見る楽しみと食べる楽しみがある庭です。
先ほど常緑のヤマボウシを紹介しましたが、葉の色を変え、落葉する種類のヤマボウシの姿も、風情があるものです。
オリーブ:やさしい色は、白い建物との相性が抜群
最後はオリーブを紹介します。オリーブは色が優しいので、白系の建物と相性が抜群です。
こちらはアットホームな雰囲気の写真スタジオ。住宅ではありませんが、オリーブをシンボルツリーにセレクトしました。
このときも庭木屋さんへ木を選びに行きましたが、予算がなく小さな木を持ち帰り、植えました。
そして9年でここまで成長しました。
ところが2018年夏の台風21号で、倒れてしまったのです。
再び根づくのは難しいといわれたそうですが、折れた先を伐採し、再度植え直すとまた葉がでてきました。
この写真スタジオは2022年の1月に新築、移転したのですが、このオリーブも一緒に引越しました。
左から、アオダモ、ソヨゴ、オリーブという新たな庭木のなかでもいちばん前に植えました。
やはり苦楽をともにしたオリーブが、シンボルツリーにふさわしいと思ったのです。
シンボルツリーは家の象徴。大好きな木と豊かな暮らしを!
常緑のヤマボウシ、イロハモミジ、ヤマボウシ、ジューンベリー、オリーブと5種のシンボルツリーを紹介しました。2つ目の事例で紹介したドイツトウヒも、環境を整えればとても味わい深いシンボルツリーになります。
家づくりの際には、ぜひ庭木屋さんに足を運んでみてはいかがでしょうか。そして、思い入れとともに、環境とその木の特徴も考えて、家と緑のいい関係を実現してください。
家族として愛情をそそげる、唯一無二のシンボルツリーと出会えることは、とても幸せなことだと思います。