青森県弘前市の石川地区に、農家の女性たちが集まり、津軽の伝承料理をふるまう会があります。その名も「津軽あかつきの会」。2001年、平均年齢70歳で発足した会は現在。20〜30代にも受け継がれ、約30人のメンバーにまで大きくなりました。どのような思いで活動を続けているのか会長の工藤良子さん(81歳)にお話を伺いました。

「津軽あかつきの会」会長の工藤良子さんに聞く、活動への思い

弘前市石川地区は海から離れた内陸部に位置し、冬が長く降雪量も多い豪雪地帯。そのため海産物は届きにくく冬は作物を育てられません。海の幸山の幸を長期保存しながらおいしく調理する必要がありました。

米や米麹を漬床にする飯寿司や三五八漬けなど、お米を使った数々の発酵食品には、そうした知恵が凝縮されています。

●母の味を再現できず、危機感を覚えたことが始まり

そんな津軽伝承料理のつくり方とおいしさを、津軽あかつきの会は伝えつづけてきました。

「きっかけは、母親世代の料理を食べたいと思ったとき、つくり方がわからなくて危機感を覚えたことです。このままでは津軽の伝承料理が途絶えてしまう。何とかして代々受け継がれた伝承料理を残さなければ、と。

そこで、同じ思いを持つ女性たちが自然と集まり、結束。地元の高齢者たちに、津軽の内陸部に伝わる作物や調理法を聞き書きしてきました。2001年から活動を続け、気づけば200以上もレシピが蓄積し、レシピ本『津軽伝承料理』(柴田書店)も出すほどに。食事会や料理教室も喜ばれています」(工藤さん・以下同)

●活動を始めて20年以上、守り抜いてきたこと

食事会は予約制で、木曜日から日曜日まで週4回、11時半から14時までのランチタイムに営業しています。

「食事会がある日はまず献立を決めておき、朝集まったメンバーで料理を始めます。メンバーが集まって加工品や保存食をつくる日もあります」

食事づくりにおいて、工藤さんたちがこだわっていることは2つ。地元の食材を使うことと、保存料や化学調味料は使わないことです。

「食材は、メンバーが山で採ってきたキノコや山菜、それに自分たちの畑で育てた野菜や豆類を使うようにしています。それらを料理する際は、保存料や化学調味料は使わず、発酵、塩蔵、乾燥といった地域に伝わる昔ながらの技術で長持ちさせています。

保存料や化学調味料を使わずに料理するには、もちろんそれなりの技術が必要になってきます。今の時代だと手間暇かけた工程に思われるかもしれません。でも津軽では40年くらい前まで普通に食べていた料理であり、代々伝わってきた、生きていく上で必要な調理法でもあるんです」

 

●長く続けるためにはできることとできないことを区別し、無理をしない

豪雪の内陸地方ならではの保存技術を、自分たちの代で途絶えさせず、次の世代にも引き継いでもらいたい。そんな思いで活動を続けてきた津軽あかつきの会。代表の工藤さんは、会やイベントの計画立案、進め方を主に行い、お料理は別のメンバーに任せているそうです。それも、活動を続けるために必要なこと。

「高齢になってからは注意力も散漫になってきました。ですからお客様に出す料理には手を出さないようにしているんです。今は週のほとんどを家族と過ごしたり、家庭菜園で野菜などを育てたりして、1日をゆっくり過ごすようにしています」

ある日の一日の流れはこうです。

「6時に起床し、7時半に朝食の用意をして食事。その後お昼まで掃除やら洗濯やら家のことをします。天気の良い日は庭や畑の手入れ、午後に休憩をとり、15時からまた夕食の準備をし、17時に夕食をとり、19時に就寝の日々。晴耕雨読を心がけています。

若い頃は興味を持って意欲的に取り組み、それだけ集中力もありました。でも、今もう81歳。無理せず一つ一つをきちんと果たすようにしています」

自信がないことは人に任せ、自分はできることを丁寧に行う。無理をしないことこそ、長く働き続けるために必要な心構えなのだと言います。

 

●チーム内のトラブルにはきちんと向き合う

工藤さんは、活動上の悩みはあまりなかったと言います。とはいえ、人の数だけ考え方があります。20人、30人も集まると、考えのすり合わせをどうしていくのでしょうか。

「そうですね。会の中では仲間の和が保てるように気をつけました。特に料理の味つけではよくもめたので、その都度徹底的に話し合い、一つ一つ丁寧に解決していきました。うやむやにはしませんでしたね。人間関係はトラブルがあって当たり前。実際、小さなゴタゴタは絶えずあります。ただ、それを乗り越えていくことで、会の成長につながっていきます。

津軽あかつきの会の目指す方向についてはいろいろ考え、その都度話し合っていきました。進めていく上で周囲に評価が認められるようになって自信がつき、今に至っています。最近では20〜30代の若い女性たちの加入が増えてきましてね。彼女たちには活動を続けてもらいつつ、できれば地域の行事や四季のイベントなどにも積極的にかかわっていってほしい。そして、津軽の食だけでなく、伝統文化を後世に伝えていってもらいたいと思います」